平成24年12月に開催されました開講10周年記念行事での「園芸療法国際シンポジュウム」の各国のパネリストの先生方のご講演をもとに、「園芸療法資料集」を作成しました。
日本を含む海外の最新の園芸療法の実践および研究の情報です。

基調講演

10周年記念行事で基調講演をされている山根寛先生
10周年記念行事で基調講演をされている山根寛先生

基調講演「これからの園芸療法 その活かし方」
 テーマ 園芸療法NEXT STAGEへ ~これからの10年を考える~

京都大学医学部人間健康科学科
教授 山根 寛    




わが国では,園芸は1900年代初頭から精神科病院でもちいられるようになり,知的障害児・者の養護教育,作業所や授産施設の作業種目の1つとしてももちいられてきました.経済復興の近代化という波の中で,場所の問題,季節や天候の影響,植物の生育期間の長さなどが医療の範疇で利用するには制約となること,科学的エビデンスの証明が困難といったことなどから精神科領域以外での利用がほとんど見られなくなりましたが,近年再び人間の健康に対するホリスティックな観点から園芸への関心が高まっています.園芸の利用の歴史を振り返りながら,急性期リハから緩和ケア,生活の中のリハビリテーション活動など,今後の園芸の利用について提言したいと思います.
まず、医学のエビデンスは数値で表しますが、我々が園芸療法でかかわるときのエビデンスは、数値で表せない非常に深い質があります。実際に多くの人がこれは自分にとっていいと思うこともエビデンスになります。全てが数値化できるものではありません。これらのことも踏まえて、植物と人間の関係を少し見直し、園芸療法を作業療法の視点から見ると、人が植物を利用するときにおきる行為というのは、育てる、過ごす、感じる、取る、使うという5つの要素に分類できます。この要素の中に人間の機能が全て含まれています。植物を育てて利用するということは、人間が生きる一番の基盤です。だから我々が持っている感覚運動機能全てを使うのが植物を育てて利用することにあります。人間が生きるために必要なものを植物は全部を持っています。その植物を使った活動は、人間の全ての機能、人間の感覚、運動機能や精神認識の心理社会的な機能というものを大きく引き出してくれます。その生理的な意味、社会的な意味、個人的な意味というものが園芸を療法として用いる根拠だと思います。
この学校の園芸療法課程の期間は短いですので、基礎を習って、あとは実践の中で育っていくしかありません。園芸療法士というのは、植物によって育てられるのです。ぜひ、この園芸療法が淡路から兵庫県から日本全国に広がるように祈念しております。

講演内容 (ファイル容量の関係で、No.1~4に分割して掲載しております。)

海外パネリスト講演

1、 Marni Barnes  マーニー・バーンズ (アメリカ)

マーニー・バーンズ先生

Green Therapy: the multi-tasking garden
グリーン・セラピー:マルチタスク・ガーデン
    
Marni Barnes  マーニー・バーンズ
      Deva Design社社長/ランドスケープアーキテクト/兵庫県立大学客員教授


日常生活の中で人は動揺したり、ストレスの多い場面に出会うとしばしば、俗にいう「闘争/逃走」症候群と呼ばれるような、遺伝的にコード化された生物学的および生理学的な特異な反応を呼び起こします。現代社会で私たちが経験しているストレスは、この反射的な反応を引き起こすものとは異なります。その結果、現代社会ではこの生理的反応は役に立たない場合が多く、実際、ストレスに対する健全な適応の妨げとなる可能性があります。
自然環境は、ストレスに対する“解毒剤”となり得ます。人の感情は環境の影響を受けますが、屋外空間は、感情のバランスをとったり、均衡を保つための素晴らしい機会を与えてくれます。(目の前のものから)逃避したり、環境に心を奪われたり、安全に内省したり、あるいは感情を体験することができることにより、私たちは、宇宙との一体感を目覚めさせることができ、心を回復することができます。
屋外での感情回復に関するこの理論の4つの本質的な段階について考えます。療法のための庭を設計するためのガイドラインについてご説明するとともに、病院環境やアメリカで園芸療法ガーデン賞を受賞したガーデンについてお話します。

講演内容 (ファイル容量の関係で、No.1~5に分割して掲載しております。)

2、 Patty Cassidy パティ・キャシディ (アメリカ)

パティ・キャシディ先生

Evidence-based Practice of horticultural therapy:Art or Science?
The respective uses and limitations of empirical and experiential evidence in horticultural therapy
エビデンスに基づく園芸療法の実践:人文科学か自然科学か?
園芸療法における実証的エビデンスと経験的エビデンスそれぞれの利点と限界

Patty Cassidy パティ・キャシディ
   アメリカ園芸療法協会理事/園芸療法士/兵庫県立大学客員教授




「エビデンスに基づく実践」という言葉は10年ほど前から使われるようになりましたが、一般的には、すべてのヘルス・ケア実践の決定は調査研究に基づくべきであるという原理のことを言います。実践者である園芸療法士により書かれた本稿は、研究から得られた実証的/実験的エビデンスだけでなく、(実践者の知恵の蓄積に基づく)経験的エビデンスや(報告されたクライアントや家族、介護者の嗜好に基づく)園芸療法を実践する中で得られた事例証拠をも含めたこの用語の定義について述べています。園芸療法に適用されるさまざまな種類のエビデンスについて、それぞれの利点と限界を指摘しながら説明しています:研究の世界から離れて「生活の世界」へ向かうにつれて、エビデンスの精度は失われますが、個々のクライアントへの適用性は増していきます。園芸療法の実践は、両方の世界に関わっており、自然科学であると同時に人文科学でもあります。その結果、入手可能なあらゆるエビデンスをとりまとめ、利用することによって、園芸療法士は自分のクライアントに対しても、園芸療法という分野に対しても、最も貢献することができるのです。

講演内容 (ファイル容量の関係で、No.1~4に分割して掲載しております。)

Ki-Cheol Son  ソン・キチョル (韓国)

ソン・キチョル先生

Current theories and evidences on horticultural therapy in Korea
韓国における園芸療法の理論とエビデンスの今

Ki-Cheol Son  ソン・キチョル
   韓国園芸治療協会前会長/建国大学教授

園芸療法は1980年代に韓国に導入されて以来、過去15年間で社会的な関心を集め、急速に成長してきました。園芸療法の目的と領域は、クライアントのために治療の目標と目的があらかじめ計画されたプログラムの中で植物や園芸活動を用い、訓練を受けた園芸療法士が提供する専門的治療として定義されます。また、園芸福祉の概念は楽しみのための園芸活動として定義されています。韓国の園芸療法の目ざましい発展は、植物と人間、環境の関係についてのクロスリンクした研究に基づく、エビデンスによるところが大きいといえます。特に、韓国園芸療法および福祉協会は、上級園芸療法士、園芸療法士レベル1、園芸療法士レベル2、園芸福祉という4つのレベルの園芸療法士の認定を行い、韓国園芸療法を推進するうえで重要な役割を果たしてきました。一般に園芸療法の実践は、診断と準備、計画、実施、評価の4つの段階で構成されています。さらに、園芸療法の実用的方法のための新たなアプローチや十分な信頼性と妥当性を持つ評価ツールも組み込まれています。現在は、プロのセラピストとしての能力を強化し、園芸療法の効果を検証するための研究を行って、国家資格としての園芸療法士の認証が得られるよう努力を続けています。

講演内容 (ファイル容量の関係で、No.1~4に分割して掲載しております。)

Jian-jung Chen  チン・ジャン・ジュン (台湾)

20130520-155959-4942

How to improve our health by the concept of Traditional Chinese Medicine in horticultural therapy
園芸療法に伝統的中国医学の概念を取り入れて健康を改善する方法

Jian-jung Chen  チン・ジャン・ジュン
   台湾グリーンケア学会会長/慈済大学准教授

台湾・グリーンケア協会 (FGCA: Formosa green care association) は2010年にできた園芸療法を推進する台湾初の団体です。園芸療法協会 (HTA) 会員のための認定教育コースが2012年からFGCAによって始められるようになりました。120時間コースを終了し、承認された会員には、FGCAとAssociation of pan-Asia therapist horticulture (APATH) 両方の協会の名の下にHTAのライセンスが与えられます。
私たちは地球に住んでいますが、環境は健康も含め、私たちの生活に影響を及ぼします。私たちの生活は自然と調和しなければなりません。中国医学 (TCM) の知恵は私たちにその方法を提供してくれます。季節毎に気候は異なり、私たちはその時々の環境に合わせてライフスタイル、衣服、感情を調整する必要があります。
疾病の原因は、外部環境、内部の感情、その他(食物、性、けが、咬傷など)に分かれます。TCMでは安楽な心(心地よさ)と生活に対する前向きな姿勢が強く強調されており、健康によいとされています。園芸療法活動の中では、大きな愛と精神的な優しさが推進されます。
「薬としての食べ物」は、中国人の重要な食の概念です。さまざまな体質に合った食事を選択すれば健康が促進されます。つまり、TCMの理論にしたがうと、園芸療法の活動を行う際に、その人に合った植物材料を選択することができます。
園芸療法ガーデンの景観は、先に述べたTCMの概念を用いてデザインすることができます。私たちは台湾の慣習とTCMの概念を利用して、1年の「節気」にしたがって園芸療法活動をデザインしていこうと考えています。

講演内容 (ファイル容量の関係で、No.1~4に分割して掲載しております。)

兵庫県立淡路景観園芸学校および兵庫県園芸療法士による実践研究

兵庫県園芸療法士(淡路景観園芸学校の修了生)による園芸療法の実践研究を、各分野ごとにまとめて発表しました。研究発表の抄録集を掲載いたします。

<目次>

第1部
1、ランドスケープと園芸療法のかかわり    山本泰之
2、高齢者デイサービスにおける園芸療法    安達みどり 横田優子
3、医療(身体)分野における園芸療法     下佐粉育子
4、精神科分野における園芸療法の取り組み   剱持卓也

第2部 
5、高齢者入所施設における園芸療法 
        森かほる 青木弘美 進藤智香 松本むつみ 山本美津江
6、認知症疾患医療センターにおける園芸療法  岡野 裕
7、緩和ケア病棟での園芸療法         金子みどり
8、特別支援学校における園芸活動       木本雅信

実践研究発表の抄録

淡路景観園芸学校における園芸療法のエビデンス研究

園芸療法による震災支援活動

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