(2015年学校報より) 園芸療法課程(全寮制)修了後1年を経て 

はじめに
 園芸活動中、「電車や~」と満面の笑みで、通り過ぎる電車を見送られる男性がいます。電車の音が聞こえる度に、花がら摘みの手は止まり、園芸療法士の声かけも耳に入りません。最初は「もうええわ」と言われていた庭の作業を続けられているのは、電車のお蔭かもしれません。
私は、JA兵庫南が運営する介護付き有料老人ホーム「ふぁ~みんの里明石」(以下ホーム)で園芸療法士として働いています。JA兵庫南では、平成25年度から福祉事業において、機能訓練の一環として園芸療法を取り入れています。
ホームは平成27年6月にオープンし、現在は要支援1から要介護5までの約50名が入居されています。1階のホールから見える庭にはレイズドベッドが2台あり、入居者様と一緒に季節の花を植え、管理をしています。

 

学校で学ぶ日々
 花や緑に人を癒す力があることは、日常生活の中で漠然と感じていました。その植物の力を、長年携わってきた高齢者福祉の現場で活かすことができると知り、是非学びたいと思いました。
全寮制での1年間、自然豊かなキャンパスで、日々たくさんの植物と触れ合い、癒されながら、心穏やかに学べると期待をしていましたが、現実はなかなか厳しいものでした。
学ぶ内容は、園芸療法の他、園芸の基礎から福祉・医療の知識まで幅広く、授業、レポート、実習、植物管理等々に追われ、慌ただしく学生生活は過ぎて行きました。

 

修了後の活動
 平成27年4月、不安いっぱいで園芸療法士としてのスタートを切りました。ホームでの園芸療法の他、3か所のデイサービスにも月1~数回訪問することになりました。
プログラムづくりや下準備、植物管理、その他ホームの一職員としての仕事もあり、対象者とじっくりと向き合う活動ができていないことに焦りを感じていました。
それでも、恩師や先輩方のアドバイスを受けながら、また季節感や五感の刺激など植物の良さを意識して、少しずつ活動を続けているうちに、徐々に「園芸の先生」「園芸部長」「園芸のおばさん(お姉さんと言い直していただきますが…)」と声をかけて下さる方も増えてきました。
庭では、「私は見るだけ」とベンチに座って日向ぼっこをされたり、歌好きが集まれば青空コーラスも始まります。「何か花ないか?」と食堂に飾る花を取りに来られる方もおられます。
一部の入居者様ではありますが、生活の中に、少しずつ植物との関わりができてきているのを感じます。家族様の中にも「花が咲き始めましたね」と声を掛けて下さる方がおられます。

 

これから
 今年の1月に父が急逝しました。前日まで元気で、庭の草引きなどをしていました。
私が園芸に興味を持ったのは、両親の園芸好きの影響があったと思います。自己流ではありましたが、庭で沢山の植物を育てていました。「自宅の庭を、年老いていく両親がいつまでも楽しめるような庭にしていきたい」と、園芸療法を学ぶ中、いつの間にかそのような思いも持っていました。
父が突然いなくなり、庭の風景が違って見えました。「植物には人を癒す力がある」と簡単に口にしていましたが、その人の立場や状況、その時々の心身の状態によって、植物が発するメッセージ(人の受けとめ方)が違ってくるということに気づきました。
 庭に出る目的が、電車や歌でも良いと思っています。それぞれの方のその時々の人生の歩みに、そっと寄り添える園芸療法士になりたいと思います。

PAGE TOP