生物の多様性を守りたい。好きだから。

澤田佳宏

澤田 佳宏 / Yoshihiro Sawada

兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科 准教授
景観植物資源部門 / プランティングデザイン研究室 / 景観園芸専門員

澤田先生は、全国的に消えつつある「草原」が、残っているかどうか、どう残していけるのかを大きなテーマにしている。
「80歳くらいのおじいちゃんにきくと、棚田の畔が当時の大切な草原で、学校帰りに畔の草をとってきて、家の牛にあげるのが子供の役割だったとか。そんな草原と人の生活のかかわりも研究しています。」
大学卒業後、生物環境アセスメントの調査会社に就職。次はその調査結果を生かす側である、建設コンサルタントで保全対策?の検討の職に就く。
「空港を建設するときに、その地域の自然環境にどう影響があるのか。良くない影響がある場合は、どんな工夫をするのがいいのかなどを仕事でやっていたら、もっと勉強したくなり、岐阜大学の大学院に行きました。今、当校で一緒に学んでいる学生たちは優秀な人が多い。目指す方向はさまざまですが、土木や設計の世界に生態系への理解、保全の知識を持っている人が来てくれることはとても大切だと思います。」

もともと生態学を学んでいたことから、生態学のアプローチで草原の保全の方向を探っているという。ここ数年学生と一緒に取り組んでいるのが、淡路島の棚田の圃場整備における保全対策だ。
「畔(よみがな)(=田んぼのなかの草原)が消えてしまう大きな原因に圃場整備(よみがな)というのがあります。棚田が丸いのは機械作業との相性が悪く、生産性も悪い。農業を続けていくために、整備で機械が動かしやすい形状の田んぼにするのです。その一方でその変化を乗り越えられない生き物がたくさんいる。整備は必要なのだけれど、生き物に配慮した方法でなんとかできないかと、授業と研究を兼ねてやっています。」

淡路島の生田大坪という棚田地帯

また、淡路島の生田大坪という棚田地帯で、「地域一つで大きな会社にして農業を頑張って続けていこう」と、大規模な圃場整備が行われている。この圃場整備が始まったのときに現地調査をしたところ、生き残れなくなってしまう生き物がたくさんいることが分かり、表土を残してもらえないかと行政と地域の方々に交渉。結果、畔の一部を残す了解を得ることに成功。学生達とその経過を観察しつつ、町ぐるみで他府県の先進事例の勉強会も定期的に行っている。

「保全の立場をとる人のなかには『圃場整備絶対反対』、という人ももちろんいます。そして水辺の生き物、水草やげんごろうの仲間、ホタル等は特に犠牲になりやすいのは事実です。けれど、僕はそうではなく、田んぼの生産性を上げつつ、そういう生き物も残せるような圃場整備の在り方を考えたいと思っている。淡路島は現在も昔ながらの良いものが残っている希少な地域なので、むしろ淡路島をその先進事例にできたらと思って取り組んでいます。」

他にも保全の重要な課題として、「世代間の平等」というものがある。自分たちが恩恵を受けてきたものを、次の世代も同じように恩恵を受けられるように、ということだ。例えば、子供がキイチゴをとって食べて遊べるなど、実際にするかしないかではなく、親の世代ができたことを子供の世代もできるポテンシャルをその地域に残すことはとても大事だと澤田先生は考えている。また、保全にはそれ以外にも重要なことがある。次世代へ気持ちの上でもバトンを渡すということだ。

「「2007年から淡路島に住んでいますが、2017年までで合計63回小学校で出張授業をやっています。子どもたちに問題意識を植え付けたくはないので、単に、そこにいる生き物をちゃんと楽しもうと思ってやっています。川で魚をとる、砂浜でコウボウムギ(砂浜に群生する海浜植物)の地下茎をとり、筆を作って習字をする等々…。環境を守る種まきなので、忙しくても依頼があったら断らないことにしています。問題意識を持ってもらうような授業は中学・高校でやりたいと思っていて、やっと去年実現できました。」

少し犠牲があったとしても、時間をかければ自然の力は戻る。しかし、ゼロになってしまったらその調整すらできない。「つなぐこと」が大事なのだ。山がとなりにある神戸のニュータウンで生まれ育った澤田先生は、その頃から変わらず今も、人と生物の共存を願っている。
「全部いなくなってしまわずに、ソースが範囲内に残る開発を。人の生活スタイルや自然環境は常に変化するものですが、修復可能な幅の中で人と生物の共存を実現していければ。そして、「その幅」を科学的に見極めることを、もっともっとやっていきたいです。」

澤田佳宏

担当科目

研究科:里地里山の保全管理論、里地里山の保全管理演習、保全管理基礎演習、反復型インターンシップ、緑環境景観マネジメント企画演習、保全管理実践演習
専門分野:植生学、保全生態学
研究のテーマ:海浜植生、農村の半自然草原、淡路島の農村のいきもの文化

  ⇒澤田先生のプロフィール詳細はこちら

PAGE
TOP