園芸療法課程通学制園芸療法実習Ⅲ報告会が開催されました!

平成29年1月22日(日)に、園芸療法課程通学制・園芸療法実習III報告会が本校で開催されました。
発表者は、病院勤務の看護師、高齢者・精神・知的障害福祉施設勤務のケアマネ・生活相談員・支援員、元保育園長、植物園職員、主婦の方など社会人学生12名。
実習対象者は、軽度から重度にいたる認知症、脳疾患、精神疾患など病とともに生きる高齢者や知的障害のある人です。
医療や支援方法についても学んでいる学生は、対象者の健康上の課題だけでなく、プラスと考えられる機能を調べてから園芸療法を始めます。
実習は18回、週に1回のペースで行っても4ヶ月半です。指導は修了生の兵庫県園芸療法士や教員が行います。
疾患は徐々に進行しても、自然や植物、人とのふれあいのあるプログラムを通して、意欲回復や自らの人生を肯定的に捉えるなど心の回復につながった事例や、施設での生活状況が改善した事例などが報告されました。

いくつかの事例をご紹介します。

 

事例1 80歳代男性 

健康状態:アルツハイマー型認知症(中等度)、甲状腺機能低下症によるとみられるうつ状態。

状況  :高齢者施設入所。几帳面でこだわり強い。施設内の人間関係で悩みあり。

園芸療法:好きな野菜栽培に注目し、入居者や職員と野菜の成長や収穫の喜びをわかちあい、良好な人間関係が
     築けるよう支援。

結果  :栽培管理時の自発的行動や日常生活における他者への配慮が増えた。

     感情の抑うつ軽減(GBSスケールに「感情の抑うつ」評点改善)。

     生活の質改善(認知症高齢者生活の質尺度QOL-Dにおいて「周囲とのいきいきとした交流」評点改
     善)。

 

事例2 80歳代男性

健康状態:脳溢血後遺症による左半身麻痺あり。

状況  :デイケアを週1回利用。日常生活はほぼ自立。

園芸療法:「いつまでも頼られる存在でいたい」という思いを尊重し、デイケアの花壇管理をしながら有用感を
     高め、生きがいのある生活ができるよう支援。

結果  :学生(園芸療法士補)と共に活動しているという気持ちが高まり、自発的に園芸計画を考えるように
     なった。

     園芸活動中の意欲・思考・満足度は高得点(淡路式園芸療法評価表:毎回3点╱ 3点満点)。

     自身の老いに対する考え方改善(PGCモラールスケール評点改善)。

 

事例3 70歳代女性

健康状態:アルツハイマー型認知症(軽度)。発症時期が60歳代と比較的早い。

状況  :デイサービス利用。家庭ではすることがない。介入前は、常に鞄を持ち歩く。
     情動抑制力に低下がみられ、時に他者に攻撃的になる。表情が硬い。

園芸療法:集団園芸作業の中で、本人ができる作業を提供して役割が持てるよう支援。

結果  :園芸作業の初期に見られた「帰りたい」の発言が、
     「水をあげたい。サツマイモを育てたい」に変化。鞄を気にせず作業に集中できるようになった。

     他者と共に過ごす際の不安が軽減された。

     日常生活における生活の質全体ではQOL-D合計点低下が続いたが、園芸活動中の意欲(淡路式園芸
     療法評価表「意欲」は評点向上)は向上。
                 生活全体でみると周囲との交流や自分らしさの表現が見られなくなっていくなかで、園芸の時間にお
     いては、ご本人本来の姿を少し表出することができるようになった。

 

事例4 80歳代女性

健康状態:肝性脳症。アルツハイマー型認知症(中等度)。

状況  :特別養護老人ホーム入居。常に病状悪化のリスクがある。時間の見当識低下がみられるが、若い頃の
     園芸の記憶(エピソード・手続き)はある。

園芸療法:介入当初、植木鉢のペイントや経験のない押し花作りをしたが、うまくいかなかった。途中から経験
     のある生け花やハボタンやコカブの栽培にプログラムを変え、対象者の発言に「・・・をなさったの
     ですね。・・・のように感じられたのですね」と繰り返しながら、話のキャッチボールをすることを
     心がけた。

結果  :園芸作業以外では臥床している時間が多く、日常の生活の質(QOL-Dで評価)評点には変化がなか
     ったが、園芸療法の時間に語られた過去のエピソードの数は40を超え、自分の生い立ちを語り、「厳
     しく育てられたが、今では感謝している」との発言あれるなど、人生を振り返る時間となった。

 
病気が治り、障害がなくなることだけが大切なのではなく、病気や障害があっても健康な日々を送ることも同様に大切です。園芸療法は、こうしたことにも役立てることを実感した報告会でした。

報告会には、修了生や実習生受入施設の方も多数お見えになりました。

施設の方からは、「利用者の高齢化や障害の重度化が進む中で、園芸療法は、必要な活動スペース、運動量などを対象者に合わせて柔軟に提供できるよさがあり、自己肯定感を育みやすいと感じました。」、「学生の対象者への対応が誠実・謙虚・丁寧でした。認知症や障害があっても誰もが自分らしく暮らしたいと願っています。対象者をアセスメントして、その人の可能性を見つけてアプローチすることは、職員も本人も新たな気づきにつながりました。今後、施設でも園芸療法を取り入れていきます。」などの感想をいただきました。

『園芸療法のための医療・医学』でご指導いただいている平野先生からは、「園芸療法の目標が、ストレス軽減、認知機能維持など野心的になりましたね。対象者の疾患状況を見ていると大変なことも多いと思いますが、対象者が楽しめるプログラムを提供していますね。」との講評をいただきました。

 

あらためて御礼申し上げます。ありがとうございました。

 

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