見頃の植物

アセビ

アセビ
写真:アセビ 薄紅色の品種



学 名:Pieris japonica subsp.japonica
科 名:ツツジ科
原産地:日本
植栽場所:事務管理棟側駐車場


 春が近付くこの季節、アセビは風鈴のような可愛らしい小花をたくさんつけます。華やかではありませんが、しっとりと清楚な雰囲気のある樹木です。

 アセビは奈良公園でも多く見られ、花の名所となっています。神の御使いである鹿が毒(アセボトキシン)のあるアセビは食べずに他の樹木を食べてしまうためたくさん残ったと言われています。それは馬が葉を食べると中毒を起こすから馬酔木(アセビ)という名前の由来からも良く分かります。

 また、「風立ちぬ」の作者である、堀辰雄さんも奈良の道を歩いています。これは「大和路・信濃路」の「浄瑠璃寺の春」の一節です。
「この春、僕はまえから一種の憧れをもっていた馬酔木(あしび)の花を大和路のいたるところで見ることができた。」 (大和路とは現在の奈良県域を指す大和への道のこと)
 作品を読みながら、ふと馬酔木の正しい読み方について疑問に思いました。アセビが正しいのか? それともアシビなのか? 詳しく調べてみたところ、図鑑などではアセビの表記で統一され、一方上記のような文芸作品ではフリガナとしてアシビを使っていることが分かりました。はっきりとした根拠はありませんが、植物学的にはアセビ、文学的にはアシビ、と区別して使っているのではないかと考えます。

 「文学」と言うと、アセビは万葉植物の一つです。日本に現存する最古の和歌集、万葉集にはアセビを詠った歌が10首あります。いずれも想い人とアセビを重ねて詠った作品が多く、現代に置き換えて言えば、毒ならぬ棘がある薔薇のようにロマンチックで情熱的な存在だったのでしょうか。新しいアセビの一面を見て、また少し印象が変わる気がしませんか?


 それでは、万葉の時に想いを馳せながら一首…
鼻歌まじりのメジロが 近付くも 馬酔木はかたい 蕾も多く(詠み手:鹿本 利春)


<参考①:岩崎哲也.ポケット図鑑 都市の樹木433.p.162. 2012年(文一総合出版)>  
<参考②:加藤僖重.会田民雄.ポケット図鑑 日本の樹木. P.17. 1998年 (成美堂出版)>  
<参考③:奈良公園 今日の奈良公園. http://nara-park.com/diary/diary10.cgi?mode=main&year=2013&mon=3&day=6>  
<参考④:奈良女子大学 鹿による植生の変化.http://www.nara-wu.ac.jp/gp2007/gakusei/tenkai/2010/02/index.html>  
<参考⑤:万葉集の草花.http://www6.airnet.ne.jp/manyo/main/flower/asebi.html>  
<参考⑥:堀辰雄.大和路・信濃路. 1955年(新潮文庫)>