「園芸療法特論 ‐作業を活かすことば‐」(山根 寛先生)が行われました

3月2日(土)の『園芸療法特論』の講師は、園芸療法課程で『医療と園芸療法』をご指導いただいている山根 寛先生でした。
今年のテーマは『作業をいかすことば』です。園芸療法は、対象者に植物や園芸作業を提供するだけでは成り立ちません。
そこには園芸療法士と対象者の関わりがあるのです。活動内に園芸療法士がどのような言葉かけをするか、活動のまとめをどのような言葉で括るかによって園芸療法の効果は異なってきます。

在校生に修了生を加えた講義では質疑応答も1時間を超えて続き、とても実り多い授業となりました。以下、ダイジェスト版でご紹介します。

 

『作業を活かすことば』

 

 

 

 

 

 

  1. 治療技法の種類
     治療技法の種類は大きく3つに分類される。
     身体療法(薬物療法、外科的療法)は、特効性があるが、身体への負担や副作用もある。精神療法(精神分析療法、認知療法、行動療法、他)は、人が言語を用いて行う。
    認知症、精神疾患、幼児など、言語的な機能が低下あるいは未発達の場合は適応ではない。言語によるやり取りの内容は過去と未来のこと(there and them)で、「いま、ここで」(here and now)の現実に今対象者が体感していることに基づいたやり取りが難しい。
    広義の作業療法(理学療法、園芸療法、芸術療法なども含む)は、作業と言語を用い、そこにセラピストが言葉で知覚のカテゴリー化を図る。作業は、ノン-ヒューマン、ノン-バーバルであるが、身体を使うため身体への生理学的影響がある。

  2. セラピストの対象と役割
     セラピストの対象となる人とは、心身に何らかの障がいがあり自分の状態や状況が正しく脳に伝えられないために、必要な情報が適切に脳に入力されなかったり、入力された情報が適切に脳で処理されなかったり、対処行動が企画されても運動機能系に正しく伝えられないといった神経系の不全により生活に支障をきたしている人。
     園芸療法士の役割の一つは、植物や園芸の特性を対象者にいかにその人が自分の感覚を通して感知していることを自覚させ、実際に即物という対象を操作することで、対象者の心身の機能の支障を軽減し.その人なりの生活を再建するかにある。

  3. 園芸療法を取り巻く環境の変化
     「世界的な少子高齢化(=生産人口の減少)」「科学の進歩とグローバル化」「疾患構造の変化/ 医療の進歩と治療医学の限外(現代は多くの病気で命を救うこと、伸ばすことができる時代。そのおかげで身体の不自由を抱えながら生きることが起きてきた)」「作業の見方用い方の変化(治療の結果生じた困難を改善するものがリハビリテーション。生活をすることがリハビリテーションになるような生き方が大切)」が起こっている。
     また、「医学モデルから生活モデルへ(治療から予防へ)、回復状態に応じた作業療法の提供、入院医療中心から地域生活中心のケア」も求められている。

  4. セラピストに求められる新たな視点
    領域別、疾患別のアプローチから対象者中心の回復状態に応じた視点
    ・治療医学を補う、病を治すから病を生きる、病も生きるという視点
    ・治療やリハの場を見直し、日々の暮らしがリハビリテーションになるという視点
    ・多職種連携、他職種との連携のなかで自分の専門性を活かすという視点

  5. 園芸療法の対象となる人の病いや障がいとは
     思わぬ病いやこころやからだの障がいは、日々の作業の障がいとなる。障がいが生じた身体を使うことで、運動企画により脳を活性化し、前頭葉の廃用性機能低下をいかに防ぐかというが、病いや障がいを治すということから、「病いを生きる」「病いも生きる」、という視野を広げることで、あらたな人生を紡ぎ直すことにつながっていく。センソリーガーデンのような五感を刺激する場所を用いること、園芸療法で植物や園芸を用いることなどはあらたな人生を紡ぎ直すいとなみのきっかけとなる。

  6. ひとと身体
     身体なしには私という存在はあり得ない。身体が体内や体外の情報を脳に伝えることで、私たちは自分の置かれている状況を判断している。身体なしには、自分の思いは形にならない。病や事故により生じた自己と身体の乖離は生活に支障を引き起こす。そこでは自分の思いを他者に伝えてその思いを実現するための社会適応行動が必要となる。乖離した自己と身体の修復は生活行為(目的と意味のある作業)によってもたらされる。

  7. 活動を用いる療法(園芸療法も含まれる)の原理
    特性:対象者の状態とニーズに応じて園芸作業の種類を取り替えたり、治療構造(個人、集団)を組み替えた
       りすることができる(システムプログラム)。
    役割:急性期には、機能障がいの軽減、リハレディネス(リハビリができる状態に心身を整えること、生活技
       能の習得と汎化など)。そして、二次障害を防ぎ、日常生活や社会参加を促す。これらは社会脳の働き
       向上につながる(社会脳の働き:人の表情理解、自身の調子の理解、自身の過去の経験との照合)
    機能:ことばと作業により脳機能を糺(ただ)し、再学習させること。すなわち、具体的な体験がもたらす心
       身機能の維持・回復による自己認識機能と行動変容機能。
       キーワードは対象操作。すなわち、自身の身体を自分でうまく動かすには運動企画が必要。受動的に何
       かをしても、運動企画をしているということは、その人の脳からすれば能動的なことで、それが前頭葉
       の廃用性機能低下を防ぐことになる。

  8. 身体と対象操作 
    提供する作業とセラピストのかける言葉によって作業の意味が変わり、療法の効果が変わる。
    例1)動作提供と作業提供の違い
    何も持たずにドアノブを回す動作をゆっくり繰り返すことと、発砲スチロールのボールを持って同じ動作をするのとでは効果が異なる。対象物がある方が、脳(前頭葉、特に前頭前野背外側部)が賦活される。

    例2)言葉かけによるストレスの違い ‐評価的な言葉かけ、状況を聞く言葉かけ‐
    対象者に「ちゃんとできますか」「うまくできますか」と言葉をかければ、対象者は評価されていると感じて緊張し、うまくいかないことがある。
    園芸であれば、例えば、「そのスコップは使いやすいですか」のように状況を尋ねると、対象者は緊張せず身体の動きはよくなる。「そのジョウロ、重くないですか」のように尋ねて感じた事を口にしてもらうことは、対象者の心身の状況をアセスメントしていることにもある。
    書字中の言葉かけでは、「ちゃんと書けますか」より、「そのシャープペン、書き易いですか」のように対象者の意識の視点を変えてストレスを与えない声のかけ方をする。

    例3)脳の運動企画を意図した声かけ

    セラピストの声かけは、対象者の脳に運動企画をさせている。
    例:拘縮予防、肩関節ひじ関節の可動域の改善で他動運動を行う時
    *他動運動:間接可動域訓練の一つで、介護が必要な高齢者・障がい者等身体の中で動かしていない部分を、
          他者が動かすこと。ふだん動かしていない関節 を動かすことで血行がよくなり、
          機能維持・機能低下の防止、廃用性症候群の予防等の効果が期待できる。
    「今からあなたの手を鼻に持っていきます」「持って行こうと考えて、準備ができたら教えてください」といった言葉かけが脳に運動企画をもたらし、脳(特に前頭前野)の活性化につながる。

  9. 作業を適切な体験にすることばの括り
    作業はその行為をしただけでは適切な体験として残らない
    同じ作業をしても同じ体験にはならない
    ことばだけでは生活行為は改善されない
    作業が適切な体験として残るにはことばの括りが必要
    ことばを活かすには具体的な作業が必要
    対象者がポジティブになれる言葉かけの例

    ・「・・・だからダメ」のように言わない。
    ・結果を評価するような言葉かけではなく、まず行為をほめる言葉かけをする。
    ・よりよい結果をもとめるなら、「こうするとよくなります」ではなく、「こんな方法もありますよ
     「こうしてみたらどうでしょう。変えてみていかがでしたか?」のような言葉かけをする。

 

 

 

以上

(文責 豊田)

2019年7月
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