園芸療法課程通学制「園芸療法実習Ⅱ報告会」が開催されました

2020年6月21日(日)および7月19日(日)の2回に分けて、「園芸療法実習Ⅱ報告会」が本校で開催されました。この報告会は、通学制後期課程の学生が「園芸療法実習Ⅱ」の実習内容をまとめ、発表するものです。

今年度は、新型コロナウイルス感染症予防措置のために施設実習が困難となり、代替実習として自宅などで「園芸療法実習Ⅱ」を行った学生、学生自身が勤務する施設などで「園芸療法実習Ⅱ」を行った学生がいました。「園芸療法実習Ⅱ報告会」では、それぞれの園芸療法実習について報告がありました。

 

Ⅰ. 自宅などで実施した「園芸療法実習Ⅱ」

高齢の対象者を想定して、学生のご家族などが対象者役になり、園芸療法のシミュレーションを行いました。

このシミュレーション実習では、“対象者との信頼関係構築”、“五感を通した植物や園芸の楽しみを感じていただく”、“集中力や器用さを知る”、“対象者間の交流を深める”という4つのねらいそれぞれについて、各学生が園芸療法プログラムを作成し、材料をそろえ、4回のシミュレーション実習を行い、その実習をビデオ・写真に撮り、教員や修了生スーパーバイザーからオンライン指導を受けるというものでした。

「園芸療法実習Ⅱ報告会」では、「庭の散策とナス、トマトなどの野菜の収穫」、「屋内でレモン、ミカンなどの枝葉で自然を感じる」、「春夏の花を使った押し花飾りづくり」、「アジサイ、ドクダミ、シロツメクサ、ビオラの押し花作り」、「夏野菜のスタンプで絵はがき作り」という園芸療法プログラムについて紹介がありました。

学生は、「対象者に馴染みのあるキュウリやシソといった夏野菜が安心感をもたらした」、「ビオラなどの押し花が創作意欲を引き出した」、「活動の締めくくりの言葉が、その活動の意味として対象者の心に残る」「活動の中で、共感する一瞬一瞬を作ることで園芸がセラピーに近づく」など、この実習で学んだことを報告しました。

8月から始まる「園芸療法実習Ⅲ」では、今回の経験を活かし、対象者の方との活動に臨むことを期待しています。

 

 

Ⅱ.施設で実施した「園芸療法実習Ⅱ」

 「園芸療法実習Ⅱ」は、勤務している福祉施設、ボランティアを行っている福祉施設などで、対象者へ試行的に園芸療法プログラムを行い、対象者の健康上のプラス面と課題面を見つけます。そして、どのような園芸を行っていけば健康や生活の改善につながるか検討し、園芸療法の目標を立て、目標を達成するためのプログラムを計画するものです。今回の発表事例をご紹介します。

 

「回復期病棟において認知症と脳出血後の片麻痺を有する高齢者に行った園芸療法初期評価」

脳出血(右被殻;園芸療法介入開始4ヶ月前に発症)保存的治療後のリハビリテーション目的で回復期病棟に入院する認知症(中等度)、高血圧、2型糖尿病のある90歳代前半の女性に対して、試行園芸として、1回目「アサガオとヒマワリの種まき」、2回目「お花のお弁当箱作り」、3回目「アサガオの間引きと押し花でアルバムの表紙作り」、4回目「花の管理とアルバム作成」を行った。

その結果、園芸経験があり、手続き記憶が保持され、花や野菜などに対して興味と関心を持っているというプラス面、不眠のため昼夜逆転となり日中傾眠となるという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(5ヶ月):生活リズムを整え、残存能力を生かして楽しみのある生活を送ることができる

短期目標(2ヶ月):①園芸活動の中で手続き記憶を生かすことができる
           ②屋外の活動で日光を浴びることで日中の覚醒時間が増える
           ③植物に触れることで喜びを得ることができる

園芸療法プログラムとして、屋外での花・野菜の栽培管理、活動アルバム作成を継続的に行いながら、クラフト作品作りなどを単発活動で実施する計画である。 

 

「デイサービスに通う認知症高齢者に行った園芸療法の初期評価」

認知症(軽度)、高血圧、腹部大動脈瘤のある89歳女性へ、試行園芸として、1回目「小瓶に菊やナデシコなどの花を活ける」、2回目「園庭に咲く6月の花(アジサイやチェリーセージなど)を採取し、小瓶に活ける」、3回目「施設花壇に夏の花(マリーゴールドやセンニチコウなど)を植える」、4回目「鉢に、夏の花(マリーゴールドやメランポジューム)で寄せ植えを作る」を行った。

その結果、生け花の経験があり、花を活けたり、見たりすることに興味関心があること、施設には園芸療法士がいて、花壇や畑があり、園芸活動を行いやすいというプラス面、新しいことを始める時に不安を感じる、外出や他者と交流する機会が少なく、刺激が少ないため認知機能やADL(日常生活動作)低下の可能性があるという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(6ヶ月):
 ①自分にできることがあることを知り、不安な発言が減って生き生きとした生活を送ることができる
 ②認知機能やADLが維持される

短期目標(2ヶ月):
 ①植物を育てたり花を活けたりすることで自信を得る
 ②季植物の美しさや成長の変化を感じながら、園芸活動に意欲的に取り組む

園芸療法プログラムとして、瓶に季節の花を活ける、腹部圧迫を避けての花壇の管理、庭の散策を継続的に行いながら、クラフト作品作りなどを単発活動で実施する計画である。 

 

「障害者施設に入所する中度の知的障害を伴う脳性麻痺の男性に行った園芸療法初期評価」

障害者施設に入居する中度知的障害を伴う先天性脳性麻痺がある49歳男性に対して、試行園芸として、1回目・2回目「園内散策、野菜苗観察」、3回目「園内散策、花と野菜のカタログ閲覧」、4回目「タマネギの収穫」を集団活動で行った。

その結果、「散歩したい」、「野菜を育ててみたい」という2つの思いがあることがわかった。また、施設内には心地よい緑の空間があり、菜園・花壇で野菜の栽培管理を行う環境が整っているというプラス面と、日常的に身体を動かす機会が少ないため、筋力が低下し、立ち上がり動作やADLの低下が懸念される課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(6ヶ月):活動量が増えることで、現在の運動機能や体力に維持や向上がみられ、健康に生活することができる

短期目標(2ヶ月):日課的なかん水作業に加え、活動時に行う定期的な散歩や栽培管理を通して園芸活動中の身体活動量が増加する

園芸療法プログラムとして、3名~4名の小集団で、園内散策、野菜の栽培管理を継続的に行いながら、季節のクラフト作品作りなどを単発活動で実施する計画である。

 

「就労継続支援B型を利用する精神障害のある60代女性に実施した園芸療法の初期評価」

就労継続支援B型事業所を利用する精神障害のある60歳代女性に対して、試行園芸として、1回目「露地野菜の収穫(共同作業)」、2回目「マリーゴールドとミニひまわりの播種(単独作業)」、3回目「露地野菜の収穫(共同作業)」、4回目「ハーブの挿し芽、落花生・コスモスの播種(共同作業)」を行った。

その結果、事業所の活動に積極的に取り組んでいる、他利用者とコミュニケーションをとりたい気持ちがあるというプラス面、問題解決力が低く、状況を読む・会話スキルというソーシャルスキルが低いという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(6ヶ月):
 ①作業を通して精神が安定し、自己有能感を高めることができる
 ②他者の気持ちを理解し、会話や作業を行うことができる

短期目標(3ヶ月):
 ①作業の注意点や、やり方(コツ)を学び、成功体験を積むことができる
 ②話し手、聞き手のスキルを学び、他者の話に共感できるようになる

園芸療法プログラムとして、露地野菜や花の栽培を共同作業で継続的に実施しながら、ワタやオリーブの収穫などを単発活動で実施する計画である。

 

8月から始まる「園芸療法実習Ⅲ」では、今回計画した園芸療法プログラムを実施し、園芸療法目標の達成度を評価していきます。この報告は、「園芸療法実習Ⅲ報告会」として、2021年1月17日(日)に淡路景観園芸学校で行う予定です。一般公開(予定)ですので、園芸療法を知りたい・学びたい、施設で園芸療法を導入したいという園芸療法に関心のある方はどうぞご参加ください。詳細は、別途ホームページにてお知らせします。

(文責 金子)

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