園芸療法課程全寮制「園芸療法実習Ⅱ報告会」が開催されました
2020年9月3日(木)に全寮制「園芸療法実習Ⅱ報告会」が本校で開催されました。
全寮制学生の「園芸療法実習Ⅱ」は、園芸療法課程修了生の兵庫県知事認定園芸療法士が勤務する施設で実施し、対象者へ試行的に4回の園芸療法プログラムを行い、対象者の健康上のプラス面と課題面を見つけます。そして、どのような園芸を行っていけば健康や生活の維持・改善につながるか検討し、園芸療法の目標を立て、その目標を達成するためのプログラムを計画するものです。
今回の発表事例をご紹介します。
「地域密着型デイサービスセンターに通う高齢男性に行った園芸療法初期評価」
認知症(中等度~やや高度)、脊柱管狭窄症のある78歳男性へ、試行園芸として、1回目「夏野菜を使った初回挨拶」、2回目「プランターへ真っ赤なハツカダイコンの種まき」、3回目「大きなプランターへ二人で寄せ植え」、4回目「①ハツカダイコンの間引き ②夏草(イヌムギ)のコースター作り」を行った。
その結果、野菜栽培をしたら楽しいという本人の思いがあり、手指の巧緻性は比較的高く、園芸作業遂行に必要な運動機能や精神機能は十分ある、家庭菜園の経験があり、家にも庭があり妻と一緒に草取りをしている、園芸活動に参加し楽しくしているなどのプラス面、家ではほとんど外出せず、昼間から寝ていることが多いという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(4ヶ月):
①自分らしく楽しく生活することができる
②認知症の進行が抑制される
短期目標(1ヶ月):
①植物を通して楽しみのある時間をもつことができる
②園芸活動に参加して残存機能を発揮することができる
園芸療法プログラムとして、ハツカダイコンの収穫、秋まき野菜の栽培管理、花の寄せ植え作りと管理、庭の草抜き、散歩を継続的に行いながら、デイサービスに設置されるテラスでハーブの手浴を単発的に実施する計画である。
「デイサービスに通う認知症により不安を抱える高齢女性に行った園芸療法初期評価」
脳梗塞の既往、高血圧、認知症(2019年診断)、逆流性食道炎のある78歳女性へ、試行園芸として、1回目「ほおずきの鑑賞」、2回目「夏の草花を使った生け花」、3回目「フラワーアレンジ」、4回目「ブルーベリーの収穫、お菓子作り」を行った。
その結果、生け花の経験があり、上肢機能や五感が正常、注意機能が保持され、納得するまで作業に集中するというプラス面、手続き記憶やエピソード記憶の低下、自宅では引きこもりがち、行うことや人との関わりに不安を抱えているという課題面があり、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(3ヶ月)
心身機能を維持し、安心して穏やかな気持ちで生活することができる
短期目標(1ヶ月)
植物や他者との心地よい関わりのなかで、残存機能を発揮し、満足感や達成感を得、不安なく過ごす時間が増える
園芸療法プログラムとして、秋・冬野菜の播種と観察、花壇管理などを継続的に行いながら、成育を見ながら栽培に必要な管理を考える、リース作り、笹の葉などを使った調理などを単発活動で実施する計画である。
「通所リハビリテーションに通う左上下肢の軽度麻痺がある高齢女性に行った園芸療法初期評価」
心不全、高尿酸血症、陳旧性ラクナ梗塞(過去に細い動脈で起きた脳梗塞)の既往、アルコール性肝障害、鉄欠乏性貧血などがある86歳女性へ、試行園芸として、1回目「初回あいさつと次回活動の相談」、2回目「フラワーアレンジ制作」、3回目「プランターへのハツカダイコンの種まき」、4回目「さし芽」を行った。
その結果、園芸に興味があり活動を楽しんでいる、ADL(日常生活動作)自立、認知機能正常、色々な人と話したいなどのプラス面、左上下肢軽度麻痺、外出・行動機会の減少、家族との関係性などの課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(3ヶ月)
①デイケアでの時間の中で、興味が持てることに熱中し、不安な気持ちが軽減できる
②体を動かす事が習慣となりADL機能が維持できる
短期目標(1ヶ月)
①植物管理が役割となり、他利用者や職員との交流や会話の機会が増える
②週3回の立位や移動を伴う園芸活動を通じて、体を動かす機会が増える
園芸療法プログラムとして、秋まき野菜のプランター栽培・管理、観葉植物・花の寄せ植え作成と栽培管理などを継続的に行いながら、栽培計画の相談、ハーブの手浴などを単発的に実施する計画である。
「通所リハビリテーションを利用する脳梗塞を再発した高齢女性に行った園芸療法初期評価」
脳幹の一部である橋(きょう)の梗塞、左側頭葉梗塞、糖尿病、高脂血症、高血圧があり、今年に入って2回転倒で骨折をした72歳女性へ、試行園芸として、1回目「植物の感触・香りを感じる、フラワーアレンジにハーブを挿す」、2回目「ハツカダイコンの種まき」、3回目「庭の花を見る、ハツカダイコンの発芽観察」、4回目「秋の花苗を見る、寄せ植え作り、ハツカダイコンの間引き」を行った。
その結果、活動には約1時間集中できる、集中すれば立位で作業可能、構音障害あるが会話可能、ネガティブな言動は聞かれない、花や園芸が大好きというプラス面、左上下肢の軽度麻痺、身体バランス機能低下という課題面があり、家では要介護4(生活全般に全介助が必要)の夫の介護をしていること、転倒の危険があり家族から外出制限されていることがわかり、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(3ヶ月)
①脳梗塞の再々発と加齢に伴う疾患のリスクを減らすための運動の機会が増える
②日常生活に園芸を取り入れリラックスする時間が増える
短期目標(1ヶ月)
①園芸活動の中で体を動かす機会が持てる
②植物に触れリラックスする時間が持てる
園芸療法プログラムとして、秋冬野菜の種まきと管理、水耕栽培、ビオラと春球根の寄せ植え作りと手入れ、観葉植物の管理などを継続的に行いながら、栽培計画をたてる、押し花作り、リース作り、正月飾り作り、染色、手浴などを単発的に実施する計画である。
「就労継続支援B型事業所に通所する高次脳機能障害の男性に対して行った園芸療法初期評価」
くも膜下出血、水頭症による高次脳機能障害がある50歳男性へ、試行園芸として、1回目「庭の散策」、2回目「寄せ植えの切り戻し」、3回目「ラムズイヤーを使ったトトロ人形作り」、4回目「花壇計画」を行った。
その結果、身体機能や注意機能に課題がなく園芸活動が可能である、就労時間は休むことなく参加できる、頼まれた仕事は責任を持って行う、施設職員とコミュニケーションを自分からとる、などのプラス面、仕事や対人関係において不安やストレスを抱えているという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(3ヶ月)
今ある機能を維持し、役割を持ってB型事業所で働く意味を見出すことができる
短期目標(1ヶ月)
①植物を介する心地よい園芸活動の中で、自信を持って取り組めることがみつかる
②植物や人とのかかわりを通して、B型事業所の中で安心感や快感情を積み重ねることができる
園芸療法プログラムとして、達成感・自己有用感の獲得、役割獲得、ストレス軽減をねらいとして、継続的に花や野菜の栽培管理を行いながら、単発的にラムズイヤーのトトロ人形作り、押し花のしおり作り、手浴を実施する計画である。
9月から始まる「園芸療法実習Ⅲ」では、今回計画した園芸療法プログラムを実施し、園芸療法目標の達成度を評価していきます。この報告は、「園芸療法実習Ⅲ報告会」として、2021年1月17日(日)に淡路景観園芸学校で行う予定です。一般公開(予定)ですので、園芸療法を知りたい・学びたい、施設で園芸療法を導入したいという園芸療法に関心のある方はどうぞご参加ください。詳細は、別途ホームページにてお知らせします。
(文責 金子)