令和3年度「園芸療法実習Ⅱ報告会」(通学制)が開催されました(2021.6.6)

 2021年6月6日(日)に「園芸療法実習Ⅱ報告会」が開催されました。今回は、兵庫県に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発出されているため、オンラインでの報告会となりました。参加者は、学校関係者に限定し、実習指導者(園芸療法課程修了生のスーパーバイザー)、園芸療法課程在校生、教職員計35名が参加しました。
 この「園芸療法実習Ⅱ報告会」は、「園芸療法実習Ⅱ」の実習内容をまとめ、発表するものです。
「園芸療法実習Ⅱ」は、通学制後期課程の学生が、勤務している医療・福祉施設、ボランティアを行っている福祉施設、対象者の自宅などで、対象者へ試行的に園芸療法プログラムを行い、対象者の健康上のプラス面と課題面を見つけます。そして、どのような園芸活動を行っていけば健康や生活の改善につながるか検討し、園芸療法の目標を立て、この目標を達成するためのプログラムを計画するものです。
 今回の発表タイトルと内容をご紹介します。

 

「心房細動と脳梗塞の既往がある高齢者に行った園芸療法初期評価」

 70 歳まで環境コンサルティングの仕事をしていた心房細動、脳梗塞、高血圧のある80歳代前半の男性に対して、自宅の庭で、試行園芸として、1回目「 ピーマンの苗の移植、小松菜の播種」、2回目「ピーマンの支柱立て、小松菜の間引き、追肥」、3回目「ピーマンの支柱の立て直し、追肥、かん水」を行った。
 その結果、機会があれば若い人達に環境保全や環境管理について教えたいという思いがあり、ADLが自立し園芸活動を行える心身機能が保持され、園芸への意欲があるというプラス面、心房細動、脳梗塞発症後、畑での園芸活動や毎朝の散歩の機会が減り、自身の寿命に対する不安があるという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(3ヶ月)
 ①庭に出て野菜の成育を気にする発言が増える
 ②園芸作業が本人の家庭における役割になる
 ③自然に触れて、環境保全や環境管理の知識や経験を園芸療法学生(HTS) に伝えられる
短期目標(1ヶ月)
 ①野菜栽培が習慣となり、週3 回以上は庭に出るようになる
 ②園芸の時間に手続き記憶を使う機会が増える
 園芸療法プログラムとして、ピーマンの栽培と収穫、ニンジン・ダイコンの播種と栽培を継続的に行い、ハーブの手浴、川原や近隣公園の散歩などを単発活動で実施する計画である。

 

 

「特別支援学校卒業後に就労訓練を行う知的障害者に対する園芸療法初期評価」

 職業訓練施設で通所訓練を受けている知的障がいのある10歳代後半の男性に対して、試行園芸として、1回目「ハツカダイコンとホウレンソウのプランターへの播種」、2回目「ハツカダイコンの間引きと畑の草引きと耕うん」、3回目「トマト苗の定植」、4回目「ハツカダイコンの収穫とホウレンソウの間引き、土寄せ」を集団活動(2名)で行った。
 その結果、明るい性格で親和的な対人関係を築くことができる、指示したことには真面目に取り組む姿勢が見られるというプラス面、注意欠如の傾向があり作業の説明を十分聞かないまま作業を始めることがある、手指の巧緻性が低く両手を使った作業が苦手、慣れてくると雑な作業になることもあるという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(6 ヶ月)
 就職を目標にして、指示されている作業を丁寧で正確に、また、継続して行うことができる。
短期目標(3 ヶ月)
 ①パターン化した作業を15 分から30 分、注意を集中させて正確に行うことができる
 ②園芸作業を通じて、手指の巧緻性、身体や両手のバランスをバランスよく使用できるようになって、作業の効率を高めることができる。
 症例に理解しやすい説明方法や環境を作り、畑やプランター等を利用した秋冬野菜の栽培を症例と一緒に考え園芸療法プログラムとする計画である。

 

 

「グループホームに入居中のアルツハイマー型認知症高齢者に行った園芸療法初期評価」

 アルツハイマー型認知症(中等度の認知機能低下)、高血圧、過活動膀胱のある80歳代後半の女性へ、試行園芸として、1回目「ナデシコの鉢植えや花の鑑賞」、2回目「季節の花を使った花のお弁当箱作り」、3回目「季節の花を使った寄せ植え」、4回目「カーネーションを使ったアレンジメント」を行った。
その結果、園芸療法活動を行える上肢機能、手続き記憶が保持され、華道・刺繍などの経験から花への興味関心があり、取り扱いも慣れている、他者との関わりの機会を作れば自ら参加するというプラス面、職員以外の他の入居者との関わりが少ない、上肢の残存能力を活かす機会が少ないという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(5 ヶ月)
 他者交流や残存能力の発揮機会を得ることで、楽しみや自信を取り戻し、心身の安定を図ることができる。
短期目標(2 ヶ月)
 ①他者との場や思いの共有により、快感情を積み重ねることができる
 ②園芸・創作活動を月に数回行うことにより、 残存能力を発揮する機会を得る
 園芸療法プログラムとして、集団活動(2名)で、季節の花を使った寄せ植え作り、管理作業を継続的に行い、創造活動(押し花を使った作品作り、葉っぱのペイント、生け花、ドライフラワーを使った作品作りなど)を単発活動で実施する計画である。

 



 

 

「就労継続支援B型事業所利用の軽度知的障害男性に対する園芸療法初期評価」

 就労継続支援B型事業所を利用する糖尿病、高血圧、軽度知的障がいのある60歳代前半の男性に対して、試行園芸として、1回目「花壇鑑賞とカタログ鑑賞」、2回目「マリーゴールドの播種」、3回目「マリーゴールドの発芽観察と寄せ植え作成」、4回目「寄せ植えの花殻摘みとマリーゴールドの間引きなど」を個別活動で行った。
 その結果、事業所での作業に前向きで正確に取り組み修正ができる、園芸に対する意欲・植物への関心が高いというプラス面、現疾患を起因とする心疾患・脳疾患・認知症発症のリスクがある、コミュニケーションをとるための社会的スキルが低いという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(4ヶ月)
 ①事業所での新たな楽しみや役割から自信を得、他者との良好な関係や社会的スキルが向上する
 ②定期的な運動機会を得ることで持病の悪化が抑制され、現在の生活を維持することができる
短期目標(2ヶ月)
 ①園芸活動を通して他者とのコミュニケーションの機会が増え自己有用感が得られる
 ②通所時の栽培管理が日課となり植物の成長や美しさへの関心が高まり、運動の機会(かん水等)及びリラックスする機会が維持される
 園芸療法プログラムとして、ジャガイモの袋栽培、秋播き野菜のプランター栽培、寄せ植え管理、花壇鑑賞・散策、創造活動(花を生ける、押し花の作品作り)を実施する計画である。

 

 

「療養型病院の外来に治療およびリハビリ目的で通院する糖尿病のある女性に対して行った園芸療法初期評価」

 病院の外来に糖尿病の薬物治療(週1回)と変形性腰椎症に対するリハビリテーション(週4回)に通う70歳代後半の女性に対して、試行園芸として、1回目「花壇の散策」、2回目「ハツカダイコンの種まき」、3回目「花のお弁当箱作り」、4回目「A氏が選んだ花の寄せ植え」を行った。
 その結果、ADLは自立し、コルセットを使用して長時間安定した座位姿勢が保持できる、自宅の庭で園芸活動ができ、園芸や生け花が趣味、試行園芸で栽培を開始したハツカダイコンのプランターも自宅に持ち帰り、自作のハウスで栽培管理し「前の生活に比べて忙しくなったけど毎日楽しい」と話すプラス面、活動時の中腰は禁止、最近は田畑作業をしておらず、独居であり時間を持て余しているという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(5ヶ月):
 他者との関りの中で自己有用感を得て、生き生きと過ごすことができる
短期目標(1か月):
 ①病院で植物の世話ができることにより、通院の楽しみを持つことができる
 ②栽培経験を活かした花や野菜の管理を通して満足感を得ることができる
 園芸療法プログラムとして、集団活動(2名)で、野菜の栽培(ベビーキャロット、ワサビナ)、花の寄せ植えの管理などを継続的に行い、創造活動(フラワーアレンジメント、リース作り)、ハーブの手浴などを単発活動で実施する計画である。

 

 

「役割を失い意欲の低下が見られる 認知症高齢者に行った園芸療法初期評価」

 アルツハイマー型認知症(やや高度の認知機能低下)、パーキンソン症候群、偽痛風、高血圧、尿路感染のある90歳代前半の女性に対して、試行園芸として1回目「花を見て季節を感じる」、2回目「花壇の花がら摘み、押し花づくり、ミニヒマワリの播種」、3回目「花の寄せ植えとミニヒマワリの観察」を行った。
 その結果、好きなことなら偽痛風の痛みがあっても作業を最後まで行う気持ちがあり、生け花や園芸の経験があり、「好きな花のことなら何でもします」と話すプラス面、ADLの低下がみられ、役割と思っていたご主人の世話ができなくなり意欲低下している課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(4ヶ月)
 ①他者と交流する機会を持つことによって自分の役割を見つけ自分らしさを発揮することができる
 ②認知機能の低下を抑制できる
短期目標(2ヶ月)
 ①園芸活動や作品の鑑賞を介した他者交流の機会を通して有用感を得ることができる
 ②週に1回植物管理をすることで役割を持ち意欲の向上を図ることができる
 園芸療法プログラムでは、ヒマワリの鉢植えの観察、秋から春の花の寄せ植え作りと管理を継続的に行い、創造活動(簡単なフラワーアレンジメント、ローズマリーのハートのリース作り、押し花のシールを使った額縁作り、ドライフラワーのバスケット作り)、ハーブの手浴、散歩などを単発活動で実施する計画である。
*偽痛風:痛風と同じような関節炎の症状を起こすが、高尿酸血症が見られないことから名付けられた

 

 

「コロナ禍で活動機会が減少する高齢者に行った園芸療法初期評価」

 逆流性食道炎、高血圧症、シェーグレン症候群*、便秘症、うつ病の既往がある90歳代前半の女性に対して、試行園芸として、1回目「ペットボトル花瓶への花活け」、2回目「牛乳パックを使ったこいのぼりのフラワーアレンジメント」、3回目「食品トレイを使ったマリーゴールドとアイの播種」、4回目「ミニトマト苗の植え付け」を行った。
 その結果、心身機能を保持、元農家でそれに伴う手続き記憶保持というプラス面、小食および低体重、日中はほぼテレビの鑑賞、人の輪の中で過ごしたいという思いはあるが新型コロナウイルス感染症感染防止による行事・外出・面会の機会の減少という課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標
 ①園芸活動を通して心身機能を維持し、現状の生活を長く保つことができる
 ②園芸活動を通して人と心地よい関わりを持ち、日常に楽しみを得ることができる
短期目標
 ①週1回の園芸活動の継続により、残存機能と体力を維持する
 ②園芸活動を通して心身機能を維持し、現状の生活を長く保つことができる
 園芸療法プログラムとして、集団活動(2名)で、ミニトマト・マリーゴールドなど野菜・花の栽培管理を継続的に行い、創造活動(生け花・フラワーアレンジメント、染色など)を単発活動で実施する計画である。
 *シェーグレン症候群:涙腺、唾液腺などに慢性的に炎症が起こり、ドライアイやドライマウスなどの乾燥症状が出現する病気

 



 

 

「通所リハビリテーションに通う自分でできる能力はあるが役割を持たない生活を送っている高齢女性に行った園芸療法初期評価」

 糖尿病、糖尿病性網膜症、糖尿病性末梢神経障害、高血圧、脊柱管狭窄症、変形性膝関節症がある80歳代前半の女性に対して、試行園芸として、1回目から4回目までコマツナの栽培管理を行いながら、1回目「ペットボトル花瓶への花活け」、2回目「押し花を作る」、3回目「押し花アート(しおり・コースター作りなど)、4回目「花の寄せ植え(マリーゴールド、ナデシコ、ジャノヒゲ)」を行った。
 その結果、人の世話好き、家庭菜園の経験がある、施設や家で植物を育てたいという希望があるというプラス面、住環境の変化と車いすでの生活のためやりたいことができず役割を喪失している、対人関係の変化によるさみしさや不安があるという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(4か月)
 今までの園芸経験を活かし、A氏ができることを発揮し、他者との繋がりの中で自己有用感を持つことができる
短期目標(2ヶ月)
 ①園芸活動の中で、自分のできることを見つけ、積極的に行うことができる
 ②園芸活動において、自分や他者の喜びや不安など思いを共有することで、人との繋がりを感じ安心感を得ることができる
 園芸療法プログラムとして、集団活動(2名)で、レタス・オオバ・カブ・ネギの栽培などを継続的に行い、創造活動(押し花作りと作品作り、フラワーアレンジメントなど)を単発活動で実施する計画である。

 

 

 6月末から始まる「園芸療法実習Ⅲ」では、今回計画した園芸療法プログラムを実施し、園芸療法目標の達成度を評価していきます。この報告は、「園芸療法実習Ⅲ報告会」として、2022年1月16日(日)に淡路景観園芸学校で行う予定です。一般公開(予定)ですので、園芸療法を知りたい・学びたい、施設で園芸療法を導入したいという園芸療法に関心のある方はご参加ください。詳細は、別途ホームページにてお知らせします。

(文責 金子みどり)

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