令和3年度「園芸療法実習Ⅱ報告会」(全寮制)が開催されました(2021.8.1)

 2021年8月1日(日)に全寮制の「園芸療法実習Ⅱ報告会」が本校で開催されました。感染予防の観点から、来校しての参加は、実習指導者(園芸療法課程修了生スーパーバイザー)、全寮制学生に限定し、園芸療法課程の通学制学生と修了生はオンライン参加としました。参加者は、合計44名(オンラインでの参加者27名)でした。
 「園芸療法実習Ⅱ」は、対象者へ試行的に4回の園芸療法プログラムを行い、対象者の健康上のプラス面と課題面を見つけます。そして、どのような園芸を行っていけば健康や生活の維持・改善につながるか検討し、園芸療法の目標を立て、その目標を達成するためのプログラムを計画するものです。今年度の全寮制学生の「園芸療法実習Ⅱ」は、実習指導者(園芸療法課程修了生スーパーバイザー)が勤務する施設、または、実習指導者(園芸療法課程修了生スーパーバイザー)の指導のもと学校が依頼した施設で行われました。
 今回の発表タイトルと内容をご紹介します。


 

「デイサービスに通う意欲低下が見られる高齢者女性に行った園芸療法初期評価」

 腰痛、下肢しびれ、高血圧があり、フレイルが考えられる90歳代前半の女性へ、試行園芸として、1回目「七夕まつり(笹舟作り)」、2回目「夏の花でフラワーアレンジ作り」、3回目「夏の花で寄せ植え作り」、4回目「ブルーベリーゼリー作り」を行った。
 その結果、植物が好きで植物に触れていたい、いつまでも元気でいたいとの願いがあり、園芸活動を行える上肢機能・注意機能・手続記憶が保持されていて、家ではしなくなった家事を施設では行っているというプラス面、高齢に伴う機能低下・意欲の減退、腰痛などが原因で農業ができなくなったという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
植物と触れ合う機会を再獲得することで、張り合いのある生活を送り、心身機能の低下が抑制される

短期目標(2ヶ月)
①手続き記憶の発揮や経験披露から満足感を得ることができる
②定期的な栽培や新たな経験を通して、他者と喜びを共有する機会がもてる

 園芸療法プログラムとして、ダイコンの袋栽培、花や多肉植物の寄せ植え作りと管理を継続して行い、創造活動(ハーブ手浴、ハーブの石鹸作り・匂い袋作り、フラワーアレンジ、野菜収穫後の調理など)を単発活動で実施する計画である。

 

 

「左上下肢麻痺があり車椅子を利用する後期高齢者に対する園芸療法初期評価」

 脳出血(X-18 年)、左大腿骨頸部骨折(X-9年)、糖尿病のある元兼業農家の80歳代後半の男性へ、試行園芸として、1回目「夏の花の寄せ植え(プランター)」、2回目「夏の花でフラワーアレンジ」、3回目「カレンダーとカードに押し花で飾り付け」を行った。
 その結果、園芸活動に対する意欲がある、施設には植物を栽培できる空間と環境があるというプラス面、左上下肢麻痺および筋力低下、左肩疼痛の訴え、ADLの低下、役割がないという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
①植物の栽培を通して、潅水などの管理を確立し、生活意欲が持続する
②施設で過ごす中で、左肩の疼痛を忘れる時間が増える

短期目標(2ヶ月)
①園芸療法の活動から、自分ができることを見つける
②園芸療法の活動中、作業に意欲的に取り組み、左肩疼痛の訴えが減る

 園芸療法プログラムとして、野菜(ジャガイモ、ハツカダイコン、リーフレタス)の栽培・管理、寄せ植え作りと手入れを継続して行い、創作活動(押し花アート、フラワーアレンジ、リース作り、ガーランド作りなど)を単発活動で実施する計画である。

 

 

「デイサービスを利用するアルツハイマー型認知症の女性に対する園芸療法初期評価」

 アルツハイマー型認知症(X-1年、軽度~中等度の認知機能低下)のある80歳代前半の女性へ、試行園芸として、1回目「季節の花の鑑賞」、2回目「ドライフラワーを使用した小物入れ作り」、3回目「花のお弁当箱作り」、4回目「寄せ植えの管理」を行った。
 その結果、卓球を続け元気に過ごしたいという気持ちがあり、園芸活動を行える手続き記憶・運動機能が保持され、植物への関心が高く、自宅・施設に園芸活動を行える環境が整っているというプラス面、他者交流が少なく施設での楽しみが得られていない、社会・家庭での役割を失い認知症への不安を抱えている、認知症を認めることのできない家族への介護負担が増える可能性があるという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
①日常の緊張や不安が和らぎ、安心して生活する時間が増える
②施設で楽しみや役割を得ることで、安定して通所ができる

短期目標(2ヶ月)
①栽培活動が、これまでの経験や手続き記憶を発揮する機会になり、安心感を得ることができる
②栽培管理が日課となり、植物の成長を感じるなかで達成感や満足感を得ることができる

 園芸療法プログラムとして、個別活動で、畑での野菜 (ダイコンなど)・ハーブ・花苗の栽培・管理を継続して行い、創造活動(フラワーアレンジ、ハーブ手浴など)を単発活動で実施する計画である。

 

 

「デイサービスに通うアルツハイマー型認知症の高齢者に行った園芸療法初期評価」

 アルツハイマー型認知症(軽度の認知機能低下と推定)、高血圧、高脂血症、難聴のある80歳代前半の女性へ、試行園芸として、1回目「季節の花観賞と園芸活動についての説明」、2回目「花瓶への夏の花の投げ入れ」、3回目「季節の花の寄せ植え」、4回目「フラワーアレンジ」を行った。
 その結果、身体機能や園芸に関する手続き記憶が保持、手指の巧緻性が高い、施設や自宅に園芸できる環境があり娘も花が好き、支援する側になった抵抗感はあるが他者への気遣いや経験豊富な園芸活動で他者を支援することができるというプラス面、外出や運動機会が少なく高血圧や高脂血症悪化の可能性があり、活動への意欲低下や難聴などを理由とする他者交流機会の少なさからアルツハイマー型認知症が進行する可能性があるという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
①施設や家庭で役割を得ることでストレスが軽減され、自分らしさを取り戻し、生き生きと過ごすことができる
②定期的な運動機会を確保することで、心身機能を維持し、前向きな気持ちで生活することができる

短期目標(2ヶ月)
①集団活動の中で、他者を支援するような過去の仕事の経験を活かした役割を得る
②栽培管理を通して、経験や手続き記憶を発揮し、達成感、満足感を得る
③週1回栽培管理を行い、運動機会を得る

 園芸療法プログラムとして、花やサツマイモ、ダイコンなどの野菜栽培・管理を継続的に行い、季節の花の生け花、サツマイモリースを作り施設で展示、スイートポテト・イモ餅を作り施設のおやつとして提供、切り干し大根を作り施設の昼食で提供などを実施する計画である。

 

 

「地域活動支援センターに通所中の不登校からひきこもりとなった男性に対する園芸療法初期評価」

 身体的・精神的疾患はないが、心理状態が不安定、気分が落ち込むと動けなくなるという20歳代前半の男性へ、試行園芸として、1回目「季節を味わうウメ仕事」、2回目「夏の花の寄せ植え(オンラインでの園芸活動)」、3回目「ハーブのさし芽」を行った。
 その結果、ひきこもりから立ち直ろうとしている、感受性が豊か、芸術性が高く手指の巧緻性が高い、周囲への気遣いができるというプラス面、心理的に不安定になりやすく通所できない日も多い、自然体験が乏しいという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(6ヶ月)
①他者との関わり、植物との関わりによって良好な心理状態を保ち、安定して通所ができる
②栽培活動や創作活動を通して、自己有用感や自信をもち前向きな気持ちで生活することができる

短期目標(2ヶ月)
①植物や人と過ごす時間を「心地よい」と感じられることで園芸療法のある日は休まずに通所することができる
②植物が人に与える影響を知り、自発的に植物に関わる場面が増える

 園芸療法プログラムでは、集団活動(2名)で、施設の庭仕事、さし芽したハーブの鉢上げと管理・活用、ハツカダイコンの播種・栽培管理・収穫・調理、ビオラの播種・定植・栽培管理を行い、植物の観察、寄せ植え作り、創造活動(フラワーアレンジメント、ドライフラワー作りとそれを用いたクラフト)を実施する計画である。

 

 

「認知症対応型通所介護に通う女性高齢者に行った園芸療法初期評価」

 認知症(軽度の認知機能低下)、貧血(胃全摘術によると推測)のある90歳代前半の女性に対して、試行園芸として1回目「フラワーアレンジメントを鑑賞しながら楽しく過ごす」、2回目「夏のお花でお弁当箱を作りましょう」、3回目「葉っぱスタンプで園芸療法用エプロンを作りましょう」、4回目「夏のお花で寄せ植えを作りましょう」を行った。
 その結果、園芸療法活動が行える身体機能・注意機能・手続き記憶が保持されている、農家育ちで野菜の栽培をしたい気持ちを持っているというプラス面、認知症の進行により日常生活の出来事を忘れることが増えている、疲れやすい、義妹への介護量の増加という課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
園芸活動の時間の中で、人生のふりかえりに繋がる昔の話をしたり、栽培活動をしたりすることで自分らしさを維持することができる

短期目標(2ヶ月)
①週1回の園芸活動の継続により、残存能力を活かす機会を増やし、認知機能低下の抑制をすることができる
②園芸療法の時間に、満足感や達成感を得ることができる

 園芸療法プログラムでは、個別活動で、野菜(ハツカダイコン)の栽培管理、花(パンジー、コスモス)の栽培管理を継続的に行いながら、創造活動(フラワーアレンジ、リース作り、スパイスツリー、野菜スタンプ)などを単発活動で実施する計画である。

 

 

「鬱病による反芻思考がある高齢女性への園芸療法初期評価」

 鬱病(X-22年)、腰椎圧迫骨折(疑い)、認知症(軽~中等度の認知機能低下と推測)、高血圧、便秘症がある90歳代前半の女性へ、試行園芸として、1回目「夏野菜と夏の花のウェルカムフラワー鑑賞」、2回目「キュウリ、ハツカダイコンの播種」、3回目「ハツカダイコンの間引き」、4回目①(昼食前)「ハツカダイコンの間引き」、4回目②(昼食後)「ミニパプリカ・ペンタス・ブッシュバジルの寄せ植え」を行った。
 その結果、園芸経験があり手続き記憶がある、野菜が好き、園芸活動を楽しんでいる、面倒見の良い性格で園芸療法学生の手助けをするなどのプラス面、体を動かすと腰痛が出現、日中活動がないときはベッド上で過ごすといった課題面、園芸活動開始時、鬱病による反芻思考のためネガティブな発言が出現するが野菜に注意の対象が移行しネガティブな感情が消失することがわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
(日中)離床時間が伸びる

短期目標(1ヶ月)
①園芸療法時のネガティブな発言が減る
②園芸療法時にポジティブな発言が増える

 園芸療法プログラムでは、野菜(リーフレタス、ベビーキャロット、サラダ用ホウレンソウ、コマツナ)の栽培管理、寄せ植え作り・花壇作りと管理を継続的に行い、創造活動(カレンダー作り、ツリー作り、リース作り)などを単発活動で実施する計画である。

 

 

「デイサービス利用のアルツハイマー型認知症高齢者に行った園芸療法初期評価」

 アルツハイマー型認知症(中等度の認知機能低下)、糖尿病のある80歳代後半の女性へ、試行園芸として、1回目「学校に咲く花で作成したフラワーアレンジの鑑賞」、2回目「コスモスの種の播種」、3回目「コスモスの間引き、キバナコスモスの花の投げ入れ」を行った。
 その結果、園芸経験があり園芸活動が行える心身機能を保持、生活意欲もあり、身近な人との関係が保たれているというプラス面、活動低下により認知機能低下の可能性があるという課題面がわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
①人と心地よい関係を持ち、日常生活で自分らしさを現在より表現することができる
②認知機能低下を抑制することができる

短期目標(2ヶ月)
①通所時の栽培管理が日課となり、植物の成長に期待感を持つことができる
②園芸活動継続により身体を動かすことができる

 園芸療法プログラムとして、集団活動(2名)で、季節の花を使った寄せ植え作りと管理、秋播き野菜(ハツカダイコンなど)の栽培管理を継続的に行いながら、創造活動(押し花を使った作品作り、野菜のペイント、ドライフラワーを使った作品作り)などを単発活動で実施する計画である。

 

 

「デイサービスに通所するうつ病のある高齢者に行った園芸療法初期評価」

 うつ病、狭心症、高血圧、糖尿病のある70歳代後半の男性に対して、試行園芸として、1回目「園芸療法の誘い~五感で楽しむ園芸療法~、エプロンに葉っぱのスタンプ」、2回目「初夏を呼ぶフラワーアレンジ~グラジオラスを使って~」、3回目「コスモスの種まき」、4回目「コスモスの発芽観察とキバナコスモスの簡単な投げ入れ」を行った。
 その結果、認知機能が高く維持されている、動作はゆっくりと丁寧で慎重、未経験であることにも自然に取り組み興味を持ち集中できる、寡黙、現在も毎朝玄関先に立ち通学途中の子供たちの見守りをしているというプラス面、日によって気分に差がある、家族の希望として、『今よりも楽しみのある生活を送ってほしい』ということがわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
施設、家庭の中で自己有用感を得て生き生きと過ごすことができる

短期目標(2ヶ月)
①植物に触れたり、栽培したり、創作活動を行ったりする中で自らの気持ちを表現することができる
②園芸活動の中で期待感やよろこびを得ることができる

 園芸療法プログラムとして、播種した花や野菜の栽培管理、季節に合わせた寄せ植え作りとその管理を継続的に行いながら、創造活動(フラワーアレンジ、花で絵を描く、散策など)を単発活動で実施する計画である。

 

 

「特別養護老人ホームに入居するアルツハイマー型認知症の高齢者に対してオンラインで行った園芸療法初期評価」

 アルツハイマー型認知症(軽度の認知機能低下と推測)、骨粗鬆症、腰椎圧迫骨折のある80歳代前半の女性へ、オンラインを使った試行園芸として、1回目「夏の花を見ながらお話し」、2回目「花のお弁当箱」、3回目「観葉植物の寄せ植え」を行った。
 オンラインでの試行園芸は、園芸療法学生が事前に準備した植物・資材を使って、実習指導者(兵庫県園芸療法士)が症例の支援を行った。園芸療法学生は、学校からオンライン試行園芸を行い、手を振る・お辞儀をするなどミラーリングが発生しやすい動作(症例が画面の学生を意識しているか確認するため)をとりながら、症例の名前を呼ぶ、ジェスチャーを交えて説明する、嬉しいときは拍手をするなどの症例の注意を向けるための工夫を行った。
 その結果、座位安定、手と目の協調性が高い、手続き記憶保持、情動制御が正常で発語も流暢、他の入居者とも楽しく会話ができる、手伝いなどを積極的にするというプラス面、見守りがないと注意機能が維持されない、何もしていない時に不安な表情が出現する、帰室願望などの行動・心理症状があることがわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
①精神的に安定した時間が増え、穏やかに過ごすことができる
②見守りの下でリビングの花の管理が役割となる

短期目標(1ヶ月)
①園芸療法の中で、落ち着きや快感情(安心・集中・喜びなど)が表出される時間が増える
②園芸療法の中で、水やりや葉のほこり取りへの興味が高まる

 オンライン園芸療法実習を想定した園芸療法プログラムとして、観葉植物の葉を拭く栽培活動を継続して行い、花のお弁当箱、葉っぱスタンプの作品作り、押し花の作品作り、レモングラスのにおい袋、リースの飾り付け、ミニ門松作りを単発活動で実施する計画である。

*相手の動作に対して、鏡のように自分の動作も合わせる方法


 

 

 8月末から始まる「園芸療法実習Ⅲ」では、今回計画した園芸療法プログラムを実施し、園芸療法目標の達成度を評価していきます。この報告は、「園芸療法実習Ⅲ報告会」として、2022年1月16日(日)に淡路景観園芸学校で行う予定です。一般公開(予定)ですので、園芸療法を知りたい・学びたい、施設で園芸療法を導入したいという園芸療法に関心のある方はご参加ください。詳細は、別途ホームページにてお知らせします。

 

(文責 金子みどり)

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