園芸療法とは

園芸療法1

園芸療法とは、“花と緑で人を癒す”療法です。
いいかえると、草花や野菜などの園芸植物や、身の回りにある自然とのかかわりを通して、心の健康、体の健康、社会生活における健康の回復を図る療法といえます。

園芸療法の実践には、農業・園芸、医療、福祉、心理、教育などさまざまな分野の知識や技術が必要になります。
淡路景観園芸学校では、主として医療、福祉、園芸などの学習・実践経験のある方を対象に1年間の全寮制および2年間通学制教育の中で、集中的に園芸療法に必要な知識・技術を教授し、園芸療法の実践者として活躍できる能力を養います。

 

 




約400万年前に誕生した人類は、草原のような環境で生活してきたと考えられています。こうした、はるか昔から続いている人と緑の関係は、現代社会では、ガーデニングや自然・公園の散策といった形で続いていると考えることもできます。
園芸療法は、人類が古来から育んできた人間と植物の相互関係を再び活用しているといえるのかもしれません。
人の健康に植物や自然を活用することは、古代ギリシアの医師が健康改善に自然散策や農作業を勧めたという記録に始まりますが、現在では、欧米諸国・アジア諸国に広がり、園芸療法やグリーン・ケアなどの活動として行われています。

園芸には、感じる、(植物と)過ごす、育てる、採る、利用するなど、多くの人の興味をひき、楽しみながら精神や身体を刺激する要素、社会的健康を育む要素が含まれています。
その結果、ストレス軽減、意欲回復、認知機能の維持・向上、日常生活に必要な能力の維持・向上、社会性の向上、生活の質の維持・向上など、いろいろな健康上の効果が期待でき、療法となりうるのです。
園芸療法では、園芸療法を学んだ専門家が、一人で園芸を行うことは難しいけれども、園芸を取り入れたら、より健康的な生活を送ることができると考えられる人(幼児から高齢者まで)を対象に、健康状態を含む本人の全体像や思いなどを十分理解した上で、目標を定め、緑のある環境や、花や緑とのかかわりを通して、興味や意欲を引き出し、ときには、周囲の人々の影響力も借りて、心や身体が動くようなプログラムを継続的に提供し、目標達成をはかります。

園芸療法の構造

日本では、明治時代以降、精神疾患、結核、知的障がいなどの人々に対して農耕・園芸が用いられてきました。1990年代になると、バブル経済の崩壊や大阪花博以降のガーデニングブームなどがおこり、心の癒しを求める人々が増えるのを背景に、アメリカで行われるHorticultural Therapyを学んだ日本人の実践がマスコミを通じて紹介され、市民の関心も高まり、関連する団体や学校の設立が始まりました。
特に兵庫県は、2002年に、全国で唯一、県知事が園芸療法士を認定する本校の園芸療法課程を開講しました。今や、園芸療法課程を修了した兵庫県園芸療法士は240名(2021年3月現在)にのぼり、日本各地で園芸療法の普及・定着に尽力しています。
日本における園芸療法のニーズが多様であるのと同様に、本課程では、大学や短大を卒業したばかりの人、社会経験を積んで入学する人、子育ての一段落や定年を機に入学する人などが学んでいます。年齢も経験も多様な人たちが本課程に入学し、0時間目(朝の植物の栽培管理)、グループでの園芸療法プログラムの準備・計画など、ここでしか得られない経験を元に園芸療法を身につけ、働き方の希望に応じて、常勤、あるいは非常勤講師として多方面で活躍しています。

現在は、次のような分野で園芸療法に対する関心やニーズが高まっています。

リハビリテーション病院における園芸療法
リハビリテーション病院における園芸療法

医療分野:
リハビリテーション・精神・慢性期医療・緩和ケアなどで、ストレス軽減・意欲向上・身体機能の維持や回復・痛みの軽減などを目的とした園芸療法が行われています。
本校では、保健師、看護師、作業療法士などが園芸療法を学びに入学し、現職兼園芸療法士として医療現場に復帰するだけでなく、異分野出身の人も園芸療法士として医療機関に就職しています。

高齢者に対する園芸療法
高齢者に対する園芸療法

福祉分野:
高齢者福祉分野では、認知症予防・進行抑制、対応困難行動やうつ症状緩和、日常生活機能や生活の質の維持・向上などを目的に、障がい者福祉分野では、生活や就労の支援などを目的に園芸療法が行われています。
本校では、介護福祉士、社会福祉士、ホームヘルパーなどの資格を持った人が園芸療法を学び、現職兼園芸療法士として現場に復帰するほか、いままで現場経験がない人も、専任の園芸療法士として就職しています

障がい者の農業就労支援(タマネギの選別作業)
障がい者の農業就労支援(タマネギの選別作業)

農園芸・造園分野:
農業生産を行う人、造園の施工・管理業務を行う企業の中にも、障がい者就労によって労働力拡大を図ったり、公園などにおける市民の健康増進などの目的で、園芸療法を学ぶ人が増えています。

 

公園で行われる一般市民・障がい者が一体となって健康改善をはかる園芸
公園で行われる一般市民・障がい者が一体となって健康改善をはかる園芸

 

その他の分野:
また、発達障がい・不登校・引きこもりの人などには、園芸を活用した発育の手助け、コミュニケーション能力の改善、自信の回復など目標とした園芸が行われています。
 近年は、特別支援学校教員が、上記のような園芸の活用を目的として入学する事例もみられます。
 この他に、今後は、ストレスを抱える、いわゆる未病段階の人々に対するストレス軽減のツールとしての園芸療法にも大きな可能性があります。

最後に今後の展望について説明します。

現代の欧米やアジア諸国では、医療・福祉予算の増大抑制、高齢社会やストレス社会への対応など共通の課題があがっています。

園芸療法は、アメリカにおいても、日本においても、歴史的には作業療法の一種目(園芸)から発展したものととらえることができますが、すでにその枠を越えて、前述のような現代社会の課題を解決するツールの一つとしての期待も世界的に高まっています。

各国の園芸療法士が国を超えて技術や研究成果の交流を行うことも、近い将来、普通
に行われるようになるでしょう。
淡路景観園芸学校の園芸療法課程は、日本の園芸療法を牽引していく人材を養成することはもちろん、世界を舞台に活躍できる園芸療法士の育成をめざしていきます。

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