令和8年1月18日、園芸療法課程通学制後期課程の学生による園芸療法実習Ⅲ報告会が開催されました。
園芸療法実習Ⅲは、園芸療法実習Ⅱで立案した園芸療法計画をもとに、園芸療法を実践し、実践結果について評価する実習です。
今年度は通学制8名が実習を終え、今回の報告会に臨みました。
報告会は、実習指導者(園芸療法課程修了生スーパーバイザー)、園芸療法課程修了生、教職員、一般参加者 計27名が参加しました。
以下に、発表タイトルと内容をご紹介します。
1.老人保健施設に入所の90歳代女性が園芸に楽しみを見いだし、穏やかに生活することを目標とした園芸療法
老人保健施設に入所の90歳代女性に対して、施設での日常生活の中に楽しみを見いだし、心穏やかに暮らすことを目標に園芸療法を行った。対象者は自分の気持ちを表現することが苦手であり、日中は、自分の部屋でテレビを見て静かに過ごしがちで、運動量が少なく筋力が低下している。そこで栽培の経験をもつ他の入所者と一緒に栽培や創造活動に取り組むようにしたところ、子どもの頃の思い出や地域の行事を自ら語る様子が見られ、普段も他者との関わりを持てるようになった。創造活動ではHTS(実習生)の部分的支援を受けながらも、指先を動かし完成まで集中して取り組み、チャレンジする意欲を見せた。栽培活動では、植物に関するテレビ番組を視聴して栽培を学ぼうとしたり、過去の経験を活かして追肥や潅水を適切に行ったりして、草花や野菜の栽培に意欲と自信を見せた。特にコカブの栽培では収穫後に職員や他の利用者と一緒に漬物を作り職員や他の利用者と食する経験を得た。精神的自立性尺度では「趣味や楽しみがある」の自己評価が上がり、栽培活動を楽しみの一つとして自ら取り入れようとしていることがうかがえた。満足感や意欲を高め他者とともに植物の生長を楽しめる園芸活動が、施設での暮らしに新たな喜びを加えることになった。
2.在宅看護支援住宅に入居する100歳代女性への他者と交流しながら楽しむ生活を目的とした園芸療法
在宅看護支援住宅に入居する100歳代女性に対して、他者との交流機会や共用スペースで過ごす時間を増やし、施設内での生活を楽しめる園芸療法を実施した。対象者は超高齢であり、施設入居による精神的なダメージから意欲が低下、重度の難聴により他者との交流も困難であった。対象者は栽培や生け花の経験を持ち、集団での園芸活動を実施した。繰り返し動作を取り入れた夏花(ジニア・ヒマワリ)の栽培やマリモのアクアリウム作り、誕生祝の生け花などを実施し他者との交流を経て快感情を得て成功体験を重ねるようにした。実施回数を経るにつれて、AHTAS「意欲」「満足」「思考」の評点と、QOL-D「周囲との生き生きとした交流」得点の増加が顕著、作品は施設に展示され認知の機会が増えた。「笑い」「笑顔」が観察され楽しそうな表情を職員も把握し、介入前よりも改善が見られた。
3.グループホームに入居中のアルツハイマー型認知症80代女性を対象に栽培活動を中心に行った園芸療法
認知症対応型共同生活介護施設(以下GH)に入居のアルツハイマー型認知症の80歳代の女性に対し、家庭菜園の経験を活かした栽培活動を中心とした園芸療法を行った。対象者は精神的不安から離床困難や物盗られ妄想が時折見られた。しかし、気分の落ち込みがあっても園芸活動には積極的であり、屋上庭園を活用した栽培活動を実施した。庭園散歩をプログラムに取り入れた結果、運動機会が増え、植物のことをHTSに教えたい気持ちが高まり、収穫時には手続き記憶を発揮した。庭園の様子が窓越しに見える開放的な場所での活動は、強い不安の表出を抑え、精神的に安定した状態での活動が可能となった。小鳥のさえずりに気づく様子も見られ、園芸活動を心待ちにするようになった頃、職員からは他者との会話がスムーズになっているとの情報があった。QOL-D「周囲との生き生きとした交流」「自分らしさの表現」においても得点が上昇した。庭園散歩を取り入れた園芸活動により気分が切り替わり、心理的症状の軽減に寄与すると考えられる。
4. 見当識障害・短期記憶保持困難で交流の少ない老犬入所中のアルツハイマー型認知症90歳代女性に行った園芸療法
対象者は中等度~重度アルツハイマー型認知症、要介護4の90歳代女性であり、施設で他者と共に安定した生活を送っている。見当識障害や短期記憶保持困難であるが、幼少期の植物にまつわる記憶が保たれている。コスモスの栽培やサシェ・スワッグ作りなど諸感覚に働きかけるよう園芸活動を実施した。その結果、言語表現や笑顔・アイコンタクトなどの非言語表現が豊かになり快感情の表出が増えた。集団活動ではHTSが他者とともに寄り添い共感する関わりを大切にしたことで安心できる環境が整い自己表出につながったと考えられる。AHTASでは「時間の見当識」以外の項目が維持または上昇、QOL-D「周囲との生き生きとした交流」のすべての項目が上昇した。このような快感情を引き出す取り組みがリハビリへの意欲を支え、生活の質の維持につながると期待する。
5.グループホームに入居するアルツハイマー型認知症のある高齢女性に交流機会増加および満足感向上を目的として行った園芸療法
対象者は認知症対応型GHに入居する80歳代のアルツハイマー型認知症のある女性である。青年期の農作業や生け花の経験をもち、手続き記憶や手指の巧緻性、嗅覚が維持され、昼食づくりの役割をもつ。難聴があり他者とのコミュニケーションに支援が必要である。そこで園芸活動では馴染みがあり栽培期間の短い植物を栽培し、写真とカレンダーの視覚支援や感想文の筆記を取り入れた。また手続き記憶を発揮し、会話を促し他者との交流機会や満足感を得られるようアレンジメントやフォトフレームつくりなどの創造活動を行った。その結果、感想文の記述量が増加し、ポジティブな感情を伝えられた。対象者のできることを活かした取り組みや納得できる作品の出来栄え、新たな植物の活用を知ったことなどが楽しさや満足感につながりAHTAS「満足」が上昇した。ときにリビングダイニングで園芸活動をしたことにより、リラックスでき話しかけやすい雰囲気となった。QOL-D「自分らしさの表現」は介入前24から介入後48と倍増した。集団活動で親しんだ他者とともに園芸活動を継続しながら、ネガティブな感情に寄り添い安心できる関わりが今後も必要である。
6.障害者支援施設に入所の中度知的障害(自閉傾向)のある45歳男性に対し、日課としての作業定着と自己表出の促進をめざした園芸療法
障害者支援施設に入所の中度知的障害(自閉傾向)のある45歳男性は、中度の知的障害(3~4歳レベル)と自閉傾向がある。模倣や視覚的支援を通じた作業習得が可能だが主体的な行動や意思表出は少なく職員主導の生活を送っている。そこで園芸活動では視覚支援や達成感のある活動に段階的に取り組めるようにし、集団活動を取り入れながら自己表出や対人交流の促進などを目標とした。ヒマワリやジャガイモ栽培などでの潅水は単独で行うことが困難ではあったが、物品の定位置化という物理的構造化や、水やりカードによるパターン化が確立し、一緒に集団活動を行った他者の支援を得て行える場面が増加した。AWAASでは後期にかけて「コミュニケーション」が顕著に向上し、植物名の発語や相手の発言を受けた応答等が増加した。職員アンケートでも「表情やことばで感情を表現することを日常生活において多く見受けることがある」との評価が得られ、他者との集団活動によって言葉のやり取りを楽しむ行動が促された。集団活動を共にした他者との関わりを継続することが主体的な関わりへと発展していくと考える。
* AWAAS(淡路式作業チェックシート:対象者の作業能力や行動特性を多面的に評価する指標)
7.特別養護老人ホームに入所の90歳代女性に対し植物と関わる役割を得て交流の機会を増やし心穏やかに過ごせることを目指した園芸療法
対象者は、糖尿病をはじめ高血圧症他複数の生活習慣病の持病がある要介護Ⅳの90歳代女性である。肩・肘・膝に可動域制限があり動きづらさがある。施設ではぬり絵に毎日取り組み意欲的だが、難聴であることが会話への意欲を低下させ一人で過ごす要因になっている。生け花や畑仕事の経験をもち毎回実習開始時の迎え花への関心が高い。外の景色が見える開放的なサンルームで多肉植物や芝人形の栽培活動やハーバリウム、押し花などの創造活動を実施した。施設内に鑑賞してもらえる場を得て喜びや自信を実感することができた。フェイススケールの「やる気」「思考」の得点が上昇し、職員との対話場面でもコミュニケーションが増え、ポジティブ思考につながった。みどりに触れる楽しみを他者に伝えたい対象者の思いを大切にした関わりの結果、職員アンケートからは「デイルームの展示で周りと共に喜べる実感を得た」と記載があった。今後も施設内でみどりの環境を職員と一緒に作っていく役割を暮らしの生きがいとして継続することで、寂しさやネガティブな感情の軽減が期待される。
8.デイサービスに通所する複数疾患により意欲低下が見られる高齢女性に対する園芸療法
対象者は週3回デイサービスを利用している80歳代女性である。糖尿病、腎臓病などの複数の疾患がある。自宅の鉢植えをすべて処分して転居。DSでは特に体操に進んで参加し杖歩行が継続できるよう励んでいる。園芸活動では、集団活動としてミニトマトやシソなどの栽培活動や、手芸の趣味が生かせるよう押し花の絵はがき、ドライフラワーのクラフトなどの創造活動を実施した。対象者は収穫適期や適切な管理方法を自ら判断するなど、栽培経験と知識を活かし意欲や満足、自己有用感に繋がった。感情表現が少ない傾向があったが植物を介した場面では会話が増えAHTAS「長期記憶」「コミュニケーション」が上昇、QOL-D「周囲との生き生きした交流」「自分らしさの表現」ともに上昇した。職員からは園芸療法で表情が明るくなり、レクリエーションの手伝いをするようになったとの情報が寄せられた。集団活動では指導役やアドバイス役として関わり、他者のアドバイスを快く受け入れるなど良好な関係が築けた。園芸活動で得た意欲や満足は、心身の健康を維持し自宅での栽培活動の再開へと繋がった。
園芸療法実習を受け入れてくださった施設関係者様、実習対象者様、学生を指導していただいた園芸療法課程修了生(スーパーバイザー)の皆様に心より感謝申し上げます。
(文責 森 晴美)





