<開催日時)2025年6月12日(木)18:30~20:20
農地の生態系を公園緑地で守るには?

講演1    公園緑地で農地の生物多様性をなぜ守る?どう守る?
              中濱直之 (兵庫県立大学/兵庫県立人と自然の博物館)

講演2    あわじ石の寝屋緑地で保全に取り組んで思うこと
              澤田佳宏 (兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科/淡路景観園芸学校)

ディスカッション
     コーディネータ 藤原道郎 (兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科/淡路景観園芸学校)



2025年6月12日(木)の夜、ランドスケープ・オンラインセミナー「農地の生態系を公園緑地で守るには?」を開催しました。87名の事前登録があり,当日は約70名が参加しました.

セミナーの趣旨

今回のセミナーは,農地の生物多様性を公園緑地で守る意義やその方法などについて議論し,公園緑地での農地生態系の保全について,理解を深めることを目的としました.
農地は,日本の生物多様性を支える重要な生態系です.水田・水路・ため池には,様々な両生類,カメやヘビなどの爬虫類,カメムシ目,コウチュウ目,トンボ目をはじめとする水生昆虫,淡水魚や淡水貝類,コウノトリなどの鳥類,そして水生植物・湿生植物が生息/生育し,また棚田畦畔は多様な草原生生物のハビタットとなっています.

しかし,農地生態系に依存するこれらのいきものの中には,絶滅危惧種・準絶滅危惧種とされる種が高頻度で含まれています.これは近年の農地の環境の変化(特に,中山間地域での耕作放棄)が原因となっています.こうした背景の下,公園緑地は,農地の生物多様性を守る場所のひとつとして期待されています.

講演1 「公園緑地で農地の生物多様性をなぜ守る?どう守る?」

中濱氏の講演では,前半の「なぜ守る?」のパートでは,世界の生物多様性の喪失の実態,それによる経済的損失,農地の生物多様性が受粉や害虫防除を通じて農業生産に果たしている役割,ESG投資などの国際的な保全の潮流などが紹介され,農地の生物多様性を守る理由や意義が示されました.後半の「どう守る?」のパートではまず,生物の人為的な導入や放流は遺伝的攪乱などの悪影響を及ぼすため,導入ではなく生息環境の確保・拡大が重要だという説明があり,生息環境確保のために,ビオトープ整備,外来生物コントロール,シカ対策,インセクトホテル,地域性種苗を用いた緑地づくりなど,様々な手法とその特徴が紹介されました.そして,生物多様性の保全は専門家だけでなく,多くの人が関わって楽しみながら進めて行くことが重要だとまとめました.


講演2 「 あわじ石の寝屋緑地で保全に取り組んで思うこと」

澤田の講演ではまず,放棄畦畔や放棄ため池での調査結果をもとに,耕作放棄が生物多様性を低下させている状況が示されました.つぎに,公園緑地で農地生態系を保全する利点として,管理の継続が期待できる点,農薬の影響を受けずに保全できる点が挙げられ,また,公園側のメリットとして,保全した生物や生態系を活用することで利用価値が高められることや,絶滅危惧種の保護の場となることで存在価値が高められることが挙げられました.その後,兵庫県立あわじ石の寝屋緑地での保全の実践内容として,調査機会を増やして公園緑地の生物相の解像度を高めていること,大学院の演習科目の中で実際の保全作業にとりくみはじめたこと,自然の豊かさを売りとして公園緑地の知名度を高めようとしていること,環境省の自然共生サイトに申請し認定されたこと,これらの結果,設置者・管理者と保全目標の共通理解が進んだことなどが紹介されました.


ディスカッション

ディスカッションでは,参加者の方からの質問をもとに,公園緑地における農地生態系の保全について議論がおこなわれました.「公園緑地で守られた農地の生物多様性が,将来,地域の農業が再開したときの回復ソースとなる可能性」「公園緑地の指定管理者が変更されたときに保全活動を途切れさせないための方策」「農地の大規模化・近代化が進む中で農地生態系を守るために何ができるか」「棚田オーナー制度で維持される農地での除草剤使用と生物保全のコンフリクト」など,興味深い問題について意見を出し合いました.


最後に,中濱さんからは「たんぼビオトープにこどもたちが集まる様子をみて,公園緑地には次世代を育成するポテンシャルがあると感じた」という話,澤田からは「農地の生態系やいきものを農家の方といっしょに観察する機会をつくっていきたい」という希望,藤原さんからは「公園管理者や農業従事者,地域の方々といっしょに現場をみることで公園での保全がひろがっていく」という感想が伝えられて,セミナーを終えました.

兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科は,みどりを活かしたまちづくりや生物多様性保全のプロフェッショナルを養成する専門職大学院です.このため,農地の生物多様性保全や湿地再生などの活動に,学生が取り組みやすいカリキュラムとなっています.また,当研究科のキャンパスは淡路島の自然豊かな中山間地域にあり,自然環境を扱う知識・センス・技術を磨くのに最適です.保全のプロを目指したい方は,ぜひ当研究科へ.

 


<開催日時>2024年6月8日(土)14:30~16:00
都市公園におけるインクルーシブな遊び場づくりの現状と課題

 話題提供
  趣旨説明 美濃伸之 兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科
 ■「都市公園におけるインクルーシブな遊び場づくりの動向」
      曽根直幸 国交省・近畿地方整備局・建政部・公園調整官
 ■「大阪府営公園の施設整備における当事者参画の取組み」
      堤公平 大阪府・都市整備部・公園課・公園整備グループ総括主査
 討論
  コメンテータ 剱持卓也(兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科)
         鈴木千春(日本福祉のまちづくり学会関西支部幹事)
 閉会
  北川博巳(近畿大・日本福祉のまちづくり学会関西支部長)


2024年6月8日(土)14時30分~16時にて、セミナー:都市公園におけるインクルーシブな遊び場づくりの現状と課題をオンラインにて実施しました。

本セミナーは日本福祉のまちづくり学会関西支部と兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科の共催によるもので、事前登録77名に福祉のまちづくり学会関西支部幹事の方々10名、話題提供者およびコメンテータ4名を加えての実施となりました。

セミナーでは、まず、整備する側として国土交通省の曽根直幸氏からインクルーシブ公園についての全国的な動向を、大阪府庁の堤公平氏からは府営公園整備における障がい当事者参画に関する取り組みについて報告していただいた後、利用者側として兵庫県立大学の剱持卓也氏と福祉のまちづくり学会関西支部の鈴木千春氏(当日は体調不良のため欠席)からコメントをいただく形をとりました。



曽根氏からは、まず、都市公園そのものの役割といった基本的なところから、これまでの公園バリアフリー化の現状、さらには目指すインクルーシブな遊び場づくりの姿を4月に国交省から出されたばかりの参考事例集を引用して紹介いただきました。ここでは、特別な仕様を備えた公園整備というよりは、対話を基盤とし、公園を多様な主体と共に育てていくといった考え方が重要であることが示され、課題としては、日常的に現場が手一杯ななか対話を具体にどう進めていくか、さらには庁内連携の重要性や難しさなどを挙げていただきました。



続いて、堤氏からは、大阪府営公園、主として久宝寺緑地での新規整備あるいは出入り口やトイレの改修の際の障がい当事者参画について報告をいただきました。ここでは、整備の様子はもとより、これまで現場で取り組んできた内容を整理して共有している様子や職員向け研修を実施している様子が紹介されるほか、参加のあり方そのものや利用者さん同士の理解をどのように促せばよいのかなど現場ならではの悩みなども紹介いただきました。

議論の場では、剱持氏からインクルーシブが取り込まれる経緯や整備後のモニタリングの様子、さらには当事者参画の場づくりのノウハウなどに関する質問がなされました。ここでは、共生社会づくりや多様性尊重といった行政課題が挙げられるなか、公園がそのツールとしてわかりやすく注目されているのではないか、現状把握についてはなかなか実現できておらず、ここは学ががんばる必要があり、いかにして双方向的に建設的な当事者参画の場にしていくのかについての意見交換がなされました。また、公園財団の浅田増美氏からは公園は作ることで完成ではなく、利用されてこそ価値があり、時代の変化、ニーズに合わせて変化していくことが必要などもコメントもいただき、最後は福祉のまちづくり学会関西支部の北川支部長よりご挨拶いただき、セミナーを終了しました。

インクルーシブな公園づくり。耳触りが良い反面、実際は問題が山積です。担当してみて、継続的に現場での知見を共有して、次につなげていくしかないことがあらためて確認できたかなと思います。ご尽力いただいたみなさまにあらためて感謝申し上げる次第です。

【文責・美濃伸之】

 


 

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