<開催日時)2025年12月17日(水)18:30~20:00
造園園芸分野におけるIT技術活用の事例

講演1  IT技術を活用した街路樹安全点検の効率化
              榎本 剛浩 (神戸市役所)

講演2 DX技術を使ったクリエイティブのありかた
           山中 康太 (山中育樹園株式会社/IKUJYUEN GARDEN STUDIO)

講演3 造園施工会社における3D活用事例と今後の可能性
           吉水 祥平 (大島造園土木株式会社)

講演4 ケニアにおけるスマート農業とトレーサビリティ
           John. B. N. (ジョモ・ケニヤッタ農工大学)

質疑・まとめ
      モデレーター:大藪崇司 (兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科/淡路景観園芸学校)


造園および園芸分野においては、設計、施工、維持管理の各工程においてデジタル技術の導入が加速している。従来、本分野は技術者の経験や人力による作業に大きく依存してきたが、LiDAR技術、3Dモデリング、ドローン、各種センサー等の活用により、業務の効率化と信頼性の向上が図られてきている。本国際セミナーでは、行政、設計、施工、および海外の生産現場における具体的な事例を通じ、IT技術が造園園芸分野にもたらす変革について知識を共有した。

■IT技術を活用した街路樹安全点検の効率化:榎本剛浩、神戸市役所
神戸市では、2022年12月に発生した街路樹の倒木事故を契機に、市内約11万本の高木に対する緊急点検を実施している。従来の作業では点検用紙を事務所に持ち帰り、再度入力する必要があり、膨大な街路樹診断結果を短期間でまとめて処理することに限界があった。そこでクラウド型業務アプリケーション「kintone」を用いたデジタル検診システムが導入された(図1)。本システムの特徴は、モバイル端末を用いた現場でのリアルタイム入力にある。位置情報(GPS)と連動し、樹種や樹冠の状況、腐朽の有無など10項目の点検データを直接入力することで、データの集約とグラフ化を自動化した(図2)。この結果、データ整理にかかる事務作業が大幅に圧縮され、従来の手法と比較して約14,700時間の作業時間削減という定量的な成果が得られた。これは、大規模なインフラ管理におけるデジタル化の有効性を示す顕著な事例であると言える

図1
図2


■DX技術を使ったクリエイティブのありかた:山中康太(山中育樹園/IKUJYUEN GARDEN STUDIO)
設計段階においては、3DスキャニングとAI(人工知能)の活用が、プレゼンテーションの質と設計精度を飛躍的に向上させている。現地の石材や既存樹木を3Dスキャナーで取り込み、精密な3Dモデルとして再現するワークフローが構築できている(図3)。これにより、フォトリアルなCG動画を用いた視覚的な合意形成が可能となり、クライアントとのイメージの齟齬が解消されている(図4)。また、生成AIの導入についても議論がなされた。AIはプランの提案や画像生成といった「判断」を伴う領域に介入し始めているが、これは技術者の感性を際立たせるための道具の進化と捉えるべきである。数値化できない「場の気配」の把握や、クライアントとの対話を通じた価値の創出、現場での最終判断といった「人間特有の領域」とAIをいかに切り分けるかが、今後の専門職としてのアイデンティティに関わる重要な課題と指摘された。

図3
図4


■造園施工会社における3D活用と今後の可能性:吉水祥平(大島造園土木)
施工現場におけるIT活用は、物理的な不確実性の排除に寄与している。樹木の物理特性の算出では、3Dスキャンデータから大径木の体積を算出し、重量を正確に推定することで、安全なクレーン作業の計画策定に役立てている(図5)。さらに既存樹木の保全では、枝振りを3Dスキャンし、そのデータに適合するようにウッドデッキ等の構造物を設計することで、樹木を傷つけることなく施工を行うことで適正な施工が可能となった。また、設計調査では、樹木と構造物の干渉チェック、すなわち設計図面を基に3Dモデルを構築することで、平面図では看過されやすい構造物間の隙間や設計ミスを事前に特定し、手戻りを防止している事例などが報告された(図6)。3Dスキャンの技術は、維持管理段階における埋設管の3D記録などにも応用が試みられており、発注者側も含めたBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling)の普及が重要であるとの指摘があった。

図5
図6


■ケニアにおけるスマート農業とトレーサビリティ:John. B. N. (ジョモ・ケニヤッタ農工大学)
ケニアの切花産業(主にバラ)は、国際競争力を維持するために高度なIT技術が導入されている。スマートグリーンハウスにおいて温度、湿度、CO2濃度、土壌のpH・EC(電気伝導度)をセンサーで監視し、自動制御するシステムが稼働している(図7)。また、欧州市場への輸出には厳格な品質基準が求められるため、生産履歴を追跡する「トレーサビリティシステム」の構築が不可欠である。個々の製品に対し識別コードを付与し、生産者、散布農薬、輸送経路、競り状況までをデジタルデータで管理する体制が整えられている(図8)。これらがケニアの花卉輸出世界第4位という品質を担保しているとの報告があった。

図7
図8


総括と将来展望
本セミナーを通じて、IT技術の活用は単なる作業効率の向上にとどまらず、造園という専門職のあり方を再定義するプロセスであることが示唆された。設計から施工、管理に至る各フェーズのデータをシームレスに連携させる体制の構築が、業界全体の生産性向上の鍵となる。技術の高度化(AIやLiDARなど)は日進月歩で進化していくが、最終的な美意識の反映や現場での臨機応変な判断は、依然として人間の領域である。造園園芸の専門家は最新のデジタルツールを「新しい道具」として受容しつつ、それによって創出された時間をより高次元のクリエイティブな創造的業務に充てることが求められていると言える。

 

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