岩手県立大学看護学部主催の「園芸療法によるストレスマネジメント研修会」の講師として招聘され、9月11日から14日まで岩手県の4か所で園芸療法の実習と講義を行ってきました。

 この研修会は、花と緑を活用した園芸療法体験により、発災時より身を粉にして日夜尽力している対人援助職の方々のストレス軽減を図るとともに、学校・職場など各方面でストレスマネジメントの実践プログラムのヒントとして活用して頂くために行われました。研修会の会場は、11日(日)岩手県立大学看護学部、12日(月)江刺生涯学習センター、13日(火)住田町保健福祉センター、14日(水)釜石地区合同庁舎で行われ、参加者は養護教諭・一般教諭・スクールカウンセラー・保健師・看護師・保育士・学童クラブ指導員・生活支援員・相談員・作業療法士など、子どもをはじめとした地域住民の心身の健康増進・発育発達に携わる対人援助者の方々で、4日間で合計152名参加されました。


研修会の内容は、上地あさひ講師をはじめとする高畑雅子講師、須藤基匡講師の3名の兵庫県園芸療法士による園芸療法実習と、天野玉記講師(兵庫県立大学講師・臨床心理士)による「花と緑によるストレスマネジメント」の講義で構成され、園芸療法の体験と園芸療法によるストレスマネジメントの理論を学んで頂けるようにプログラムしました。
兵庫県園芸療法士による園芸療法実習は、「ハーブの手浴」「芝人形作成」を行いました。そして、「学校やその他の職場で簡単にできるプチ園芸療法」もご紹介しました。

 「ハーブの手浴」では、フレッシュなアップルミント・レモングラス・ローズマリーを淡路景観園芸学校のガーデンより刈り取り、飛行機で持参しました。また、研修会が4日間に渡りましたので、阿久根瑞美インストラクターに研修会のためのハーブをクール宅急便で追加送付して頂きました。実習では、お一人ずつ洗面器に暖かいお湯をご用意し、生のハーブを細かくちぎって入れて頂き、香りを楽しみながら手浴をして頂きました。参加者のみなさまは、思わず「わぁー、いい香り」「あ~、気持ちいい」という感嘆の声を出して感動してくださいました。また肘をお湯につけて楽しむ「肘浴」をされた方は、「全身お風呂に入っているみたい」とその心地よさに驚かれていました。淡路のフレッシュハーブにこだわり、生のままハーブを使って頂いたことで、会場全体がいい香りに包まれ、五感を刺激する園芸療法の良さを実感して頂くことができました。


会場全体がほっこりとした暖かい雰囲気に包まれあとで、芝人形を作りました。手順は、片足のストッキングを汁椀にかぶせ、そこに芝の種を播き、土を詰め、頭の部分を作ります。その芝の種を播いた土入りの頭に、フェルトなどで好きな表情の顔を作っていくクラフト作業のような園芸療法プログラムです。参加者の方々は、慎重に芝の種を播き、土をストッキングに入れて顔を作り、「なかなか難しいものだ」と夢中になられました。そして顔の表情作りにフェルトやモールを使って色々工夫される頃には、自分のイメージを膨らませ「どんな顔にしょうか」と人形作りに没頭され、独自の世界を築いて行く楽しさを感じておられました。参加者の皆様にとって、無意識に自分の内面に目を向け(内省)て、人形の表情を作る作業をされることは、対人援助中心の日常から自分に没頭する非日常の時間でもありました。そして、上地あさひ講師に、「作られたお人形は不思議とご自身のお顔に似てきます」という一言で、思わず新たな自分自身を発見する瞬間を持つ経験をされ、笑いが起こりました。


実習終了後は、天野玉記講師が「花と緑によるストレスマネジメント」の講義を行い、園芸療法実習での体験を元に、園芸療法のストレスマネジメント効果の理論を「五感の刺激」「内省」「非日常」「自然との調和」という4つの観点から説明しました。ハーブの手浴で「五感の刺激」を経験し、芝人形作りで無意識のうちに自己に没頭する「内省」と「非日常」の楽しさを味わい、今後芝人形の発毛(発芽)を楽しむことで命を実感する機会を持つ「自然との調和」が、過去と現在だけにとどまりがちなストレス状態を前向きな思考に変えていく力を持っていることを講義しました。

 また、今回の津波による命の危険を感じたトラウマティックストレスと日常ストレスの違いをモデルを使って分かりやすく説明し、自身の研究中であるPTSDを発症している脳血流データを示しながら、脳神経学的にPTSDを発症している脳と通常の脳血流の違いから、PTSDは生理的な反応であること、そして対処方法として安心安全感を持てる仲間との語りや共同作業をすることでゆっくり癒して行く(いく)必要のあることを伝えました。

 さらに、兵庫県立淡路景観園芸学校では、園芸によるストレス軽減効果を生理学的に研究中(豊田・天野)であり、そのストレスマネジメント効果のデータを示しながら、ストレス症状の軽減やPTSD発症予防の一つとして園芸療法を提案し、花と緑を用いた園芸療法をご自身のストレスマネジメントに活用して頂き、また援助しておられる方々へも提案して頂くことで、震災支援のお役に立てて頂きたいと講演しました。

 参加者の皆様は、園芸療法を実体験することより身も心も軽くなったと言われ、明日から現場ですぐにでも活用できる提案が多く、是非園芸療法を震災支援に活用したいと笑顔で帰られました。

2011年9月19日
兵庫県立淡路景観園芸学校 園芸療法課程
天野 玉記

 

                                東日本大震災被災者支援事業-花と緑を活用した暮らしと心のケア-

 

PAGE TOP