緑地景観の効果
緑地はさまざまな機能を持っています。これまで、生物の生息空間としての機能や景観の保全機能、レクリエーション機能などを対象に多くの研究が行われてきました。最近では、人間のストレス緩和といった視点からの研究も増加しており、美しいといった評価だけでなく、緑地が人間に対してどの様な効果をもたらすのかを把握することが求められています。
このような社会状況の中、私は、主として公園や里山などの緑地で構成される景観を対象に、その景観を把握する際の人間の視認行動(何を見ているかといった視線解析など)と人間の反応特性(体内で起こる現象の結果としてのストレス緩和など)との関係を把握する研究を進めています。
景観を認識するとは?
棚田の景観がすばらしいと言われることがあります。では、人間は棚田のどの様な景観を見てそう判断しているのでしょうか。人間の視線を追跡することで、実際に棚田のどの部分を見ているかを捉えると、水田の畦と田の内部が明瞭な田植え時期の景観では、水を張った田の内部への視線が多くなっていることがわかります。すなわち、畦がはっきりわかり、棚田の形が分かりやすい時期が棚田の認識には適していると考えられます。市販されている棚田の写真集などを見ると、棚田上部から俯瞰(見下ろす)する方向での景観が多く、特に、水を張った直後の景観が多いことに気づかれるでしょう。
このように、景観の視認状況を具体的に明らかにすることで、保全・整備していく対象をある程度特定することが可能となります。
景観研究の可能性
景観を視認した場合、人間はなんらかの反応をします。好き嫌いを判断したり、癒されると感じたりすることもあるでしょう。その様な反応は、アンケート調査など感覚的評価指標を用いた手法により捉えることが多く行われてきました。近年では、血圧や人体内のストレス反応物質など人間の生理的反応を計測するといった手法による評価も試みられています。さらに、唾液などによりこれらのストレス反応物質を測定できる簡便な計測方法の発達も見られます。このような生理的評価指標と感覚的評価指標の関係を明らかにすることが、より良い緑地景観の形成には重要となります。
各手法による効果計測の精度を高め、景観と人間の生理的反応との関係性を明らかにすることから、都市部や農村部の良好な景観の保全・再生・創出の方策を検討出来ればと考えています。