(学校報2012年より) 園芸療法課程10周年に思うこと

                                  
 2012年12月8,9日に淡路景観園芸学校および兵庫県公館にて開催された園芸療法課程10周年記念行事に参加しました.兵庫県知事をはじめとする来賓の方々や国内外で園芸療法の普及や指導,研究に取り組まれている先生たち,そして実践者やそれを支えてくださる方々など,多くのひとが集い,10周年を祝う様子を眺めているうち,ふと,この10年間の自分の来し方が思い起こされました.

 園芸療法課程が開講した2002年当時,私は大学4年生で,花卉園芸学のゼミに所属していました.元々はバイオテクノロジーを専門とする学科に入ったのですが,大学入学後,植物栽培を始めたことをきっかけに,生産的側面だけではない植物とひととの関係について考えたいと転学科をしました.しかし,卒業後の進路については迷いがあり,どうしたものかと考えていた頃,アメリカ園芸療法協会会長をしていたダイアン・レルフ氏が著した「しあわせをよぶ園芸社会学(邦訳は佐藤由巳子氏)」を偶然手に取りました.そして,その本に書かれていた園芸療法というものについて興味を持ち,調べてみたところ,兵庫県の淡路島にある学校で園芸療法を学べるコースが始まったこと,そしてオープンキャンパスが近々開催されることを知り,すぐさま申し込みをして参加したのです.

 その時のことは今でもよく覚えていますが,学校の環境や授業のスタイルに強い感銘を受け,その帰り途には入学を決意していました.当時は9月入講でしたので,大学卒業後に受験し,淡路にやってきました.そして,未だ忘れもしませんが,初めての授業で自分にとって驚くべき事実を聞かされることになるのです.それは,園芸療法課程は園芸療法士を養成するところであり,修了後は園芸療法士として社会に貢献していくのだ,というものですが,この至極当然な事柄になぜ驚いたかというと,恥ずかしながら,それを聞くまで私は園芸療法について学びたい,知識を得たい,それを何らかの形で仕事に活かしていけたらという程度の思いしかなく,実際に園芸療法士として医療や福祉の現場で働くことは想像していなかったからです.今振り返っても,大層ぼんやりしていたものだなあと情けない気持ちになりますが,そんな自分が修了生のなかでも比較的長く園芸療法士として仕事をしているのですからわからないものです.その後,様々な専門分野の先生の授業を受け,実習現場で対象者の方々と関わるうちに,園芸療法士という仕事に大きな魅力と可能性を感じ,精神科病院に就職することになりました.

 それからおよそ8年半,淡路での学びを礎に,臨床実践に取り組んでいますが,ここまで続けられているのは,様々なひとの支援や協力,そして何より,日々向き合う患者さんたちとの素晴らしい時間があるからです.園芸療法士という国家資格でもなく,耳慣れない職種として病院で仕事をしていくなかでは,やりきれない気持ちを抱いたり,将来の展望を見出せない苦しい時期が幾度もありました.しかし,植物を介して関わる患者さんの反応や返ってくる言葉からは,常に確かな手応えがあり,園芸療法が医療現場で果たし得る役割が重要なものであると感じると共に,大きな励ましとなって,私の背中を押してくれているのです.

 園芸療法課程の10年は,そのまま,私が園芸療法と出会い,実践を始めた10年でもあります.模索の時期を過ぎ,自分の形ができてきた現在,これからはより広い対象に園芸療法をプレゼンテーションしていきたい,認知を拡げたい,この機会に,改めてその思いを強くしています.

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