(2020年学校報より)園芸療法課程(通学制)を修了して

はじめに
 東日本大震災のあった日、ふるさと岩手が大地震に襲われ、大津波にのみ込まれる様子を、5歳と2歳の我が子を抱きしめながら神戸の自宅のテレビで観ていました。その後、友人と連絡が取れない日々が続き、加えて傷ついた方々に何もできない無力感で、すっかり憔悴しきった私は、ふと自宅の庭のギボウシの芽をみつけました。冬の間は枯れたようなギボウシが春を迎え力強く芽吹く姿に、前進する勇気をもらったように感じました。
 この経験から、植物が持つ力と人の精神的な関係を学びたいと、園芸療法に辿り着きました。下の子の小学校入学を待って、園芸療法課程通学制に入学しました。同じ志をもった様々な年代の同級生との出会い、初めての分野を多くの先生方から学ぶ刺激に、充実感を覚えました。課題や実習に追われる毎日は楽しいだけではなかったものの、家族の協力のおかげで、2年間の学生生活を満喫することができました。

 

コーディネーターとして
 修了後は、園芸療法コーディネーターとして、淡路景観園芸学校に勤務し、兵庫県が実施する『園芸療法定着促進助成事業』を担当しています。結婚後、子育て中心の生活をしていたため、約10年ぶりの社会復帰でした。
仕事は、園芸療法コーディネーターとして『園芸療法定着促進助成事業』を導入する施設の開拓、園芸療法士の紹介です。また、施設・対象者・園芸療法士が充実した園芸療法の時間をもてるようにサポートしています。
 施設開拓は、最も苦戦を強いられますが、園芸療法士からの紹介や、園芸療法の良さを実感した施設からの口コミなどで少しずつ普及しています。また、自分の子育ての経験から、孤立しがちな母親へ向けて植物を使ったストレスケアを実施したいとの考えに共感する園芸療法士と共に、こども園の理解を得て、『園芸療法定着促進助成事業』実施に至ることがきました。
しかし、昨年からの新型コロナウイルス感染症の影響で、園芸療法の多くの現場である医療・高齢者施設での導入件数が激減している現状です。そこで、園芸療法の対象を『コロナ禍でストレスを抱えている全ての方』と広げて捉え、感染予防のため外出を控えた高齢者のフレイル予防や引きこもり防止、ストレス軽減のための園芸療法を賛同する施設団体や園芸療法士の協力を得て公園や農園で開始しています。
 園芸療法コーディネーターとして様々な現場に同行する中でいつも勉強になるのは、対象者に寄り添う園芸療法士の姿です。植物の栽培や創造活動を通して、どのように対象者の気持ちや身体機能が変化するのか、園芸療法士の声かけ、寄り添いが何よりも大切だと感じます。『今日は何をするの?ずっと楽しみに待っていた』などの対象者の気持ちを知ると、一人でも多くの方に園芸療法を経験していただきたいと思い、そのような場面に立ち会えることにやりがいを感じます。
    

園芸療法士として 
 私自身も園芸療法士として、精神科デイケアで園芸療法を実施しています。活動前にスタッフから対象者の様子を伺い活動に入りますが『最近は調子が悪い』といった対象者も活動に集中することで気分が晴れるようで、最後に笑顔で感想を発表できるまでに回復します。植物の力とこれまでの関係作りの相乗効果を実感します。
 『震災で傷ついた方を癒す』ことは10年たった今でも私にとってまだまだ大きな目標ですが、まずは身近な方を癒すことでいつか故郷に恩返しができればと思っています。

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