令和5年1月15日、園芸療法課程通学制後期課程、全寮制の学生による園芸療法実習Ⅲ報告会が開催されました。園芸療法実習Ⅲは、園芸療法実習Ⅱで立案した園芸療法計画をもとに、園芸療法を実践し、実践結果について評価する実習です。今年度は全寮制8名、通学制3名、計11名が実習を終え、今回の報告会に臨みました。
報告会は対面で開催し、実習指導者(園芸療法課程修了生スーパーバイザー)、園芸療法課程修了生、在校生、教職員、一般参加者計41名が参加しました。以下に、発表タイトルと内容をご紹介します。

 

1.重症心身障害者デイサービスに通う脳性小児麻痺の女性に対する園芸療法
重症心身障害者デイサービスに通所する知的障害がある女性(50歳代、痙直型脳性麻痺で将来的に施設入所検討中)に対し、「他者との交流を広げ、新たな環境に慣れること」を目標として園芸療法プログラムを行った。本人が取り組める2工程までの作業にしてリース作りなど植物を用いた創作活動や栽培活動を提供した。その結果、活動参加に拒否的な反応を示さなくなり園芸療法学生(以下、HTS)との関係構築につながった。新しく出会う他者との関わりにおいて、植物を介した共感的関わりを用いることが、本人と他者との関係構築を早める可能性が示された。

 

2.介護付き有料老人ホーム入居の意欲低下が見られる高齢者に行った園芸療法
有料老人ホームに入居する90歳代女性(認知機能低下・大腿骨頸部骨折による歩行機能障害があり)に対し、「役割獲得や他者との交流から不安な気持ちやストレスが軽減される」ことを目標として、野菜や花の栽培活動、季節を感じられる創作活動を他の利用者とともに行うことを計画、実施した。
実習Ⅲ開始直前に転倒し、車椅子利用となったことから自信の喪失、気分の落ち込みがあり、他の利用者に対する引け目を感じていたが、創作活動や寄せ植えづくりを通じて自己有用感が高まり、自信回復につながった。
淡路式園芸療法評価表(以下、AHTAS)では、前期に比べて後期では「意欲」「長期記憶」「課題遂行」「コミュニケーション」「満足」のいずれの評点も向上した。また、認知症高齢者の生活の質尺度(以下、QOL-D)でも、「周囲の生き生きとした交流」「自分らしさの表現」が後期にいずれも2点から6点に向上した。
対象者の心理状況に応じて個別活動を取り入れたことも有効であり、最終的には他の利用者との関係性も向上した。

 

3.デイサービスに通所の入退院の繰り返しで精神不安のある84歳女性に行った園芸療法
デイサービスを利用する80代女性(癌や神経痛で入退院を繰り返し、抑うつ的)に対し、「デイサービスでの楽しみや役割を得ることで不安や緊張が軽減し、生き生きとした生活ができる」ことを目標として関わった。身体機能維持を目的とした寄せ植えの管理や野菜栽培、不安感を忘れて集中して取り組める押し花やフラワーアレンジなどを計画、実施した。本人が得意とする活動を提供したことから手続き記憶が発揮され、それを他の参加者や職員から称賛されることの繰り返しが自己肯定感や満足感につながった。AHTASでは、前期に比べて後期では、「意欲」2.5点→3.0点、「期待感」2.3点→3.0点と向上が見られた。

 

4.心原性脳塞栓症による左上下肢不全麻痺がある高齢女性に行った園芸療法
心原性脳塞栓症により左上下肢に不全麻痺のある70歳代女性に対し、「園芸活動によって楽しみのある生活を送ることができる」こと、「生活場面で、左手の使用頻度増加を自覚でき、自己肯定感、自己有用感が高まる」ことを目標として園芸療法プログラムを実施した。
パンジー・ビオラの栽培活動には高い関心を示し、発芽を喜び、意欲や未来展望の改善につながった。植物材料を用いた創作活動では自然に麻痺側の手を用いる機会となった。麻痺側の使用に関しては、Motor Activity Log(MAL-14)を用いて評価を行ったことも本人が麻痺側使用を意識する機会になった。MAL-14の得点は使用頻度(Amount of Use; AOU)および動作の質(Quality of Movement; QOM)に分けて評価し、AOUが前期と後期の比較において0.2点、QOMは0.5点上昇した。QOMでは慢性期において臨床的に意味のある最小変化量である+0.5点に達した。具体的には服の前ボタンを留める動作が可能となり、このことは本人の自信につながった。

 

5.脊椎間狭窄症により歩行困難な高齢男性に行った園芸療法
二度の腰椎脊椎間狭窄症手術後、思うような改善が見られず、歩行困難、気力低下のある80歳代の男性に対し、「できることを発揮する機会を得ることで、生きがいや役割、向上心を持つことができる」ことを目標として園芸療法を実施した。アセスメント時は提供した活動に対して面倒がる発言が聞かれていたが、本人が飼っているウサギの餌としてエン麦(猫草)の栽培を提案すると、意欲的な取組みが見られた。また、短期間に生長し、変化のわかりやすいスプラウト栽培を行ったところ、栽培したものを家族と食べることが楽しみとなり、自発的に取り組んだ。その結果、AHTASの「意欲」「思考」「満足」の評点は目標値を超えた。かつては園芸を好んでいたこともあり、自身ができることの再発見や家族内での役割の獲得、栽培による達成感を実感できたことが変化につながったと考えられる。

 

6.デイサービスに通所する身寄りのない軽度認知障害(MCI)の女性に対する園芸療法
軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)があり、デイサービスに通所する70歳代一人暮らしの女性に対し、「楽しみや役割の確保により通所が安定し、他者交流や残存機能発揮機会が得られる」ことを目標として栽培活動、植物材料を用いた創作活動を行った。知的好奇心の高い方で、馴染みのある材料だけでなく、新奇性のあるものを持参したことが関心向上につながった。活動前は不安そうな様子が見られたが、栽培したものが順調に育つ様子を観察し、作成した作品に対して繰り返し賞賛を受けたことが、本人の満足感、達成感につながった。QOL-Dでは「周囲との生き生きとした交流」の点数が20.5点→33.0点に大きく向上した。特に「微笑みや笑いがあり、明るく楽しそうにして見える」という項目の変化が大きかった。一人暮らしであり、引きこもりがちであったが、園芸療法を通じて自己有用感が高まり、他者交流の機会となったことが本人の変化につながったと考えられる。

 

7.就労継続支援B型事業所に通所中の愛着障害がある女性に行った園芸療法
軽度知的障害と愛着障害があり、就労支援のB型事業所に通所する20歳代の女性に対し、「就労継続支援B型事業所で取り組める作業の種類と、作業時間が増える」「自己肯定感が高まる」ことを目標とした。本人は園芸に高い関心を示すことから、本人が取組みたくなるような活動を提供することで作業時間の延伸を試みた。14回の中では、対象者とHTSの関係性が不安定になることもあったが、植物を介し、対象者が安心して過ごせることを意識することで最後まで関係を維持できた。終盤に向けて活動内での集中時間は延びたが、事業所での作業の集中時間への反映には至らなかった。しかし、植物を介した関わりを通して他者と比較的安定したつながりを持てたことは本人の自信となった様子がうかがえた。その後、園芸療法プログラムで学んだことを他者に教える場面を重ねたことで、本人の他者との関わり方に変化がみられてきている。

 

8.認知症対応型デイサービスに通所する高齢男性に行った園芸療法
デイサービスに通所する80歳代男性(アルツハイマー型認知症)に対し、「エピソード記憶が引き出され認知機能の維持・低下抑制することができる」「役割を実感し自己肯定感が高まる」ことを目標として園芸療法を実施した。対象者の過去の職業から、製図や絵画を得意とすることがうかがえ、野菜の絵画を取り入れたところ、非常に熱心に取り組む様子が見られた。当初は「こんなことをさせてもらって申し訳ないです」と自信なく話すことが多かったが、作品を職員や他の利用者から称賛される機会を通じて、徐々に自信を回復する様子が見られた。栽培したハツカダイコンを調理して提供した回では他の利用者から感謝の言葉をかけられると、にこやかに応じていた。MMSE(Mini-Mental State Examination)では認知機能の低下は見られなかった。QOL-Dでは、「周囲との生き生きとした交流」のほとんどの項目で点数の向上があり、特に「満足しているか、満たされているように見える」という項目では当初の2点から6点に向上した。本人が得意としていたことに着目し、傾聴を意識して関わったこと、他者から称賛される機会を提供したことが今回の変化につながったと考えられる。

*認知症をスクリーニングする際に用いられる神経心理検査のひとつ。30点満点で23点以下を認知症疑い、24〜27点を軽度認知障害(MCI)疑いと判断する

 

9.在宅介護支援住宅を利用する進行性核上性麻痺の高齢女性に行った園芸療法
厚生労働省の指定難病である進行性核上性麻痺により、心身機能低下のある70歳代の女性に対し、「花瓶の花を見て日々の生活の中で生きていると実感できる時間が生まれる」「日常生活の中で喜びの感情を外に表すことができる」と目標を設定し、園芸療法を行った。プログラム実施日に起床できない場合は、ベッドサイドでハーブを入れた温水に浸けたタオルを用いた。座位で過ごせる際には植物を用いた創作活動を提供した。限られた発語や本人の取組みの様子から生け花の経験がうかがえたことから、後半は生け花を中心に行った。本人に残された能力を活かす機会を持ったことが、生きていることを実感し、生活の中の楽しみになっていた。また、植物材料に触れる機会から、過去の両親との思い出や感情表出が見られた。AHTASにおいても、「意欲」「満足」において特に評点が上がった。進行性の疾患であり、できないことが増える日々の中で、植物を介した関わりが本人の喜びの時間につながったと考えられる。

*核上性眼球(眼球運動障害)で眼球を自発的に動かすことができなくなる。発語障害、動作緩慢、認知期の障害も併発し、気分の落ち込みやうつ状態、意欲低下も発現する。発症から4〜5年で寝たきり状態になることが多いとされている

 

10.認知症対応型通所介護に通う女性高齢者に対する園芸療法
デイサービスを利用する軽度脳血管性認知症のある80歳代女性に対し、「気持ちの落ち込みが和らぎ、楽しみのある生活ができる」ことを目標として園芸療法プログラムを実施した。内容はハツカダイコン、コスモスの栽培、木の実や季節の花を用いた創作活動を行った。
園芸経験があることから、栽培には意欲的に取り組む様子が見られた。創作活動では、HTSの作品と見比べて自信のない発言をする場面も見られた。実習期間中、自信の低下が顕著となり、一度休むことがあったため、負荷を調整するとともに、保育士として働いていた時のこと思い出せるよう童謡を効果的に用いることとした。脳血管性認知症の特徴である、思考緩慢ではあるが疎通性が高いこと、不安や焦燥などの心理症状が多いといったことが当てはまる症例であった。そのため、本人のペースを理解することを意識して関わったことで、終盤には生き生きとした表情で参加し、日中活動の場での積極的な行動につながった。AHTASにおいても「意欲」が前期2.3点から2.8点に向上した。QOL-Dでは、自分らしさの表現の項目の各点が2点から4点に向上した。対象者の障害特性を理解し、馴染みのある園芸作業を通じて手続き記憶を発揮し、無理なく取り組める作業を提供したことが効果的であったと考えられる。

 

11.サービス付き高齢者向け住宅に住む既往歴の多い90歳代の女性に行った園芸療法
脳梗塞、糖尿病、狭心症、心房細動、腰痛と足の痺れなど既往歴が多く、身体不安を抱える90歳代の女性に対し、「新しい環境で張り合いのある生活を送ることができる」「これまでの人生を振り返り、今の思いを表出することで人生の統合に向かうことができる」ことを目標として園芸療法を行った。まだ入居して間もないことから、他の入居者とのつながり作りも意図して2名で実施した。ジャガイモとハツカダイコンの栽培、押し花作りやクリスマスリース作りといった創作活動を行った。栽培活動では「種まきから行うのは初めて」と話し、不安も見られたが、順調に生育する様子を楽しみにするようになり、自身の体調を気にせずに過ごせる時間となった。創作活動においては夢中になって取り組む場面も見られたほか、ともに取り組むたの入居者との良好なコミュニケーションの場となっていた。栽培という本人にとって新たな体験は、新たな役割を生み、本人の張り合いにつながった。QOL-Dで、「日常生活で意思表示する」が3点から6点、「表情がいきいきとしている」が3点から5点に向上した。新しい住環境となる中で、園芸療法場面において、安心して交流を持つことができる相手ができたこと、新しい役割を持つことができたことは、本人が自身の人生を肯定し、人生の統合に向かうための一助となったのではないか。

コロナ禍の影響が続く中、厳しい状況にも関わらず園芸療法実習を受け入れてくださった施設関係者様、実習対象者様、学生を指導していただいた園芸療法課程修了生(スーパーバイザー)の皆様に心より感謝申し上げます。

(文責 剱持 卓也)

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