令和3年1月17日、園芸療法課程通学制後期課程、全寮制の学生による園芸療法実習Ⅲ報告会が開催されました。
園芸療法実習Ⅲは、園芸療法実習Ⅱで立案した園芸療法計画をもとに、園芸療法を実践し、実践結果について評価する実習です。今年度の園芸療法実習Ⅲは、新型コロナウイルス感染症のため、実習施設変更、実習延期、感染症予防対策の実施など、例年にない苦労を伴いましたが、全寮制5名、通学制10名、計15名が園芸療法実習Ⅲを終え、今回の報告会に臨みました。
また、今回の報告会は、兵庫県に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されたため、会場での発表とインターネットを介した発表を併用して行われました。参加者は、学校関係者に限定し、実習指導者(園芸療法課程修了生スーパーバイザー)、園芸療法課程の修了生、在校生、来春の入学予定者が47名参加しました。
以下に、発表タイトルと内容をご紹介します。
1.他者とのかかわりに消極的になり意欲が低下したグループホームの認知症高齢者に行った創作活動中心の園芸療法
アルツハイマー型認知症(中等度)、高血圧症、骨粗しょう症で、老健からの転居や腰痛に対する不安がみられる90歳代前半の女性へ、植物を介して楽しかった思い出を引き出し、心穏やかに生活することを目標に、『お花の会』と名付けた園芸療法を、同席者を交え、週1回計14回実施(試行園芸を含む)。毎回“七十二候”の本を使用し季節の植物にまつわるエピソードを引き出し、1回で出来上がる作品づくり(花のお弁当箱作り、フラワーアレンジメントなど)をこころがけた。「今はここが家みたい」「次はいつ?」など肯定的な発言が増え、認知症高齢者の生活の質尺度(QOL-D)の「対応困難行動のコントロール」の評点に改善がみられた。
2.特別養護老人ホーム入居の認知症高齢者に行った栽培を中心とした園芸療法
脳梗塞の既往と、認知症がある90歳代前半の女性に対して、生家が農家で、野菜作りに馴染みがあることに注目し、ミニダイコン、ベビーリーフなどの栽培管理、創作活動の園芸療法を週1回計10回実施(2名の集団活動)。徒長したミニダイコンを見て「土入れて、根元まで、お日さんに当てて、夜露にも当てて」と陽の当たる場所に置くことを学生に指示したり、野生のサルトリイバラを見て「この葉にお餅を挟んで作る」といった発言が聞かれたり、園芸療法が、人生の最終章に生業であった農業や昔の経験を思い出す機会となった。
3.通所リハビリテーションに通う左上下肢の軽度麻痺がある高齢女性に行った園芸療法
ラクナ梗塞(大脳深部にできた直径1.5cm以下の梗塞)による左上下肢の軽度麻痺、心不全、アルコール性肝障害がある80歳代後半の女性へ、園芸に興味があること、園芸作業を行える心身機能が保持されていることに注目し、週1回全14回の園芸療法(秋まき野菜・観葉植物・寄せ植えの栽培管理)を実施。感染症対策のため院内での行動機会が減少し、時間を持て余していたが、園芸活動により体を動かす機会が確保され、1週間の身体活動量は活動量計で平均150分間3.6 メッツ・時*に増加した。また、活動に熱中することでQOL-Dの「周囲との生き生きした交流」の評点に改善がみられた。
*メッツ・時:運動強度の指数であるメッツに運動時間を乗じたもの
4.地域密着型デイサービスセンターに通う認知症高齢男性に行った園芸療法
アルツハイマー型認知症 (中等度)、脊柱管狭窄症で、午後になると施設から帰ろうとしていた70歳代後半の男性へ、家庭菜園の経験と施設に畑があること、園芸作業に必要な運動機能が十分あり、手指の巧緻性が高いことに注目し、腰への負担を軽減しながら週1回計12回の園芸療法(野菜栽培、ストロベリーポットへのイチゴの植えつけ、創作活動など)を実施(2名の集団活動)。栽培している野菜に「3月が楽しみやな」「ここにイチゴがなったら可愛いやろうな」、押し花作品に「本当の花より渋い色で芸術的やな」などの発言が聞かれ、園芸療法実習中、帰宅しようとしたのは1度だけに減った。
5.就労継続支援B型に通う精神障害のある女性へのソーシャルスキル向上をねらいとした園芸療法
就労継続支援B型事業所を利用する精神障害のある60歳代前半の女性へ、仕事の正確性が低い、ソーシャルスキル(状況を読みとる力、会話)が低いなどの課題面に対し、14回の園芸療法(ハクサイ、ワタ、ダイコンなどの播種・栽培管理・収穫)を実施(2名の集団活動)。ピーマンの収穫では、治具(じぐ)を用いて収穫基準を明確化することにより、作業がスムーズになり、収穫時間が短縮した。話す・聞くスキルに対しては、言葉による説明、視覚的支援を用いた説明(Social Skills Training:SST)を行い、「あいづち」「アイコンタクト」「会話への言語的応答的」の出現がみられ、自己記述式アンケートでは、「SST の指導をしてもらい通常作業よりも意識してコミュニケーションをとった」との記載があった。
6.障害者施設に入所する中度の知的障害を伴う脳性麻痺の男性に行った身体活動量の増加をねらいとした園芸療法
10歳代後半から障害者施設に入所し、中度知的障害を伴う先天性脳性麻痺の40歳代後半の男性に対して、14回の園芸療法を実施(個別活動、3~4名の小集団活動)。今後も続く施設での生活の中で、活動量が増え、現在の運動機能や体力の維持・向上、健康で生活すること、また、「野菜を育ててみたい」「散歩がしたい」という現在の希望をかなえることを目標に、施設内の緑の癒しの空間、休憩場所や散策ルート、菜園や花壇などの環境を利用し、園内散策、野菜の栽培管理、毎朝の中庭活動(日課としてのかん水)を行った。園芸活動中の歩数は活動を行わなかった日の歩数と比べ、約2.6倍~約9倍増加し、多重比較検定(Steel-Dwass)の結果、活動日の歩数は活動日以外の歩数より明らかに多かった(p=0.001)。現在も自発的に毎朝の中庭活動は継続している。また、栽培管理し、収穫した野菜を厨房へ届け他者から感謝される経験も活動の持続に効果的であった。
7.55歳男性会社員(健常者)への日常生活心理向上をねらいとした園芸療法
単身赴任で独身寮住まい、管理職としてストレスを抱え、休日に屋外で身体を動かすことのない50歳代後半の男性へ、日常生活において植物や自然と触れ合う機会をもち、健康を維持することができることを目標に、週1回計14回(試行園芸を含む)の園芸療法(公園などの散策、野菜栽培、手浴、創作活動など)を実施(個別活動)。14回の実習終了後、植物や自然と触れ合うことの効果を実感し、日常生活に園芸、植物を取り入れたいとの発言があった。活動前後の気分状態を自己記入するPOMS2(短縮版)では、ネガティブ因子(【怒り・敵意】、【混乱・当惑】、【抑うつ・落ち込み】、【疲労・無気力】、【緊張・不安】)は、全回とも活動後に評点が低下または維持となり、活動後にポジティブな気分が高まったことが示された。
8.医療療養型病棟に入院する筋萎縮性側索硬化症の高齢者に行った園芸療法
筋萎縮性側索硬化症のため6年前に医療療養型病棟に入院、離床の機会が少なく、四肢の筋力低下、両肩関節の可動域制限などのため病院内の私物の植物管理ができなくなった80歳代前半女性へ、認知機能が良好で、手指の運動機能が保持されていることに注目し、週1回計14回(試行園芸を含む)の園芸療法(コスモスの寄せ植えと管理作業、リース作りなどの創作活動)を実施(個別活動)。道具や作業環境を工夫した園芸活動で、植物の成長を慈しみ喜びを持って見つめる姿がみられた。次第に学生や職員とのコミュニケーションも増え、生活満足度指標(自己記述式)の「人生を振り返ってみて、あなたは求めていた大事なことのほとんどを実現しそこなったと思いますか」は、実習初期に「思う」だったが、実習後期には「思わない」に改善された。
9.デイサービスに通う認知症高齢者に行った園芸療法~ストレスからの解放・自己肯定感獲得を狙って~
アルツハイマー型認知症(軽度)で、物忘れの自覚があるため不安がみられる80歳代後半の女性へ、生け花の経験があり、花を見たり活けたりすることに興味があることに注目し、週1回計14回の園芸療法(花活け、寄せ植えの管理、ハンギングバスケットの管理、ハボタンの栽培管理、センニチコウを使った創作活動)を実施(2名の集団活動)。経験を活かした花活けや潅水・花がら摘みという継続した植物管理により、学生の演示なしで意欲的に作業を行うようになり、期待・自信・満足ある発言、意欲的・積極的行動がみられるようになった。
10.デイサービスに通所する認知症高齢者に対して行った栽培活動を中心とした園芸療法
認知症(中等度からやや高度)、生活習慣病(糖尿病、高血圧症、脂質異常症、心疾患、脳梗塞歴)があり、活動量低下の80歳代後半の男性へ、野菜栽培の経験があり、栽培知識が豊富であることに注目し、週1回計14回(試行園芸を含む)の園芸療法(ミニニンジン・ベビーーリーフの播種・栽培管理・収穫、寄せ植え作り・管理、押し花作りと活動アルバム作成)を実施(2名の集団活動)。「今はもう出来ない」と思っていた野菜栽培をプランターで行ううちに、幼少期の農作業体験を語り、学生へ野菜栽培の知識を伝え、妻に対して「畑を借りよう」という発言もあった。また、施設での植物の水やりに意欲的に取り組み、認知症高齢者の生活の質尺度(QOL-D)の「自分らしさの表現」「周囲との生き生きとした交流」の評点に改善がみられた。
11.アルツハイマー型認知症高齢者に行った栽培の経験を活かした園芸療法
アルツハイマー型認知症(軽度から中等度)、非ホジキンリンパ腫(化学療法の治療中)で、不安や無力感の発言があり、自分らしさを失っている80歳代前半の女性へ、園芸経験あり、花が好き、クラフト作成を楽しむ点に注目し、週1回計14回(試行園芸を含む)の園芸療法(寄せ植えの観察・管理、アルバムづくりなどの創作活動)を実施(2名の集団活動)。毎回、寄せ植えの観察・管理を行い、花がら摘みが自身の判断でできるようになり、創作活動では花材の配置を考え作り上げ、笑顔で過ごす本人らしさが見られた。職員による日常生活アンケートでは、「他者との植物を介した話題や役割が増えた」との回答を得た。
12.中学校園芸部に所属する男子生徒への自信向上をねらいとしたアプローチ
ストレス耐性、コミュニケーション能力にやや課題がみられ、自分に自信がなく、集団の中で自分らしさが発揮できないでいた園芸部所属の男子中学生へ、自然現象に興味・関心が高く、役割を果たしたいという意欲があることに注目し、18回*の園芸療法(花壇・畑での花・野菜の栽培管理、校内の「憩いの広場」の維持管理、自分の栽培スペース作り)を実施(2名の集団活動)。栽培した野菜の収穫により達成感・満足感を得たり、部員への園芸活動の説明・実演をしたりすることで園芸の知識・技能、コミュニケーションの自信がついた。今は、「高校進学後も園芸を続けたい」「将来の夢は庭師」と言っている。
*旧カリキュラムでの園芸療法実習のため、18回の実習を実施
13.認知症により不安を抱えるデイサービスの高齢者に行った園芸療法
脳梗塞の既往があり、認知症(軽度)でできないことが多くなり不安をかかえている70歳代後半の女性へ、ADL自立、園芸などの手続き記憶保持、コミュニケーション可能であることに注目し、週1回計14回の園芸療法(花壇と畑の散歩・草引き、栽培計画の相談、花や野菜の植付け・栽培管理、季節の生け花、調理など)を実施(個別活動、小集団活動)。草引きや作物の成長を見る散歩が習慣化し、仲間と野菜の様子を話あい、収穫・調理への関わりが増え、認知症高齢者の生活の質尺度(QOL-D)の「自分らしさの表現」「周囲との生き生きとした交流」の評点に改善がみられた。
14.通所リハビリテーションを利用する高齢女性に対して行った園芸療法
要介護4の夫の世話をしながら、自身の生活習慣病の治療中に、2度目の脳梗塞発症と転倒骨折を繰り返した表情が乏しい70歳代前半の女性へ、好きな園芸活動の中で自然に体を動かし、リラックスする機会が増えることを目標に、週1回計14回の園芸療法(毎回の体操と庭の散策、ハーブティー、手浴、野菜栽培、創作活動など)を実施(2名の集団活動)。黙々と作業に集中しながら自然と立位になったり、学生の失敗に微笑んだり、育った土地への思いを語ったりA氏らしさが見られるようになり、自宅でプランターの野菜栽培も開始した。認知症高齢者の生活の質尺度(QOL-D)は、「自発性」「活動性」の評点が改善した。
15.就労継続支援B型事業所に通所する高次脳機能障害の男性に対して行った園芸療法
くも膜下出血後遺症による高次脳機能障害のため短期記憶の低下や易怒性があり、集団生活への適応や人間関係の構築に困難がみられる50歳代前半の男性へ、依頼された仕事に責任をもって取り組めることに注目し、週1回計14回の園芸療法(ダイコン・イチゴなどの栽培活動、創作活動)を実施。植物の発芽・成長に喜び、イチゴの苗に声をかけ、毎朝黙々と灌水作業を行うことが1日の生活に組み込まれた。次第に心が開かれ、学生との会話も広がり、他者へも笑顔で返事をするようになり、職員アンケートには、「穏やかな表情で過ごすことが増えた」との記載があった。
コロナ禍の厳しい状況の中、園芸療法実習を受け入れてくださった施設関係者様、学生を指導していただいた園芸療法課程修了生(スーパーバイザー)に感謝申し上げます。
(文責 金子みどり)