2023年6月11日(日)に「園芸療法実習Ⅱ報告会」が開催されました。今回は実習指導者(園芸療法課程修了生)、園芸療法課程在校生、教職員計33名が参加しました。
「園芸療法実習Ⅱ報告会」は、学生が「園芸療法実習Ⅱ」の実習内容をまとめ、発表するものです。実習Ⅱでは、通学制後期課程の学生が勤務している医療・福祉施設、ボランティアを行っている福祉施設、対象者の自宅などで対象者へ試行的に園芸療法プログラムを行い、対象者の健康上のプラス面と課題面を見つけます。そして、どのような園芸活動を行えば対象者の健康や生活の改善につながるか検討し、園芸療法の目標を立て、この目標を達成するためのプログラムを計画するものです。
今回の発表タイトルと内容をご紹介します。

1.グループホーム共用型デイサービスに通所中の脳血管性認知症高齢者に行った園芸療法初期評価
脳梗塞の既往があり、脳血管性認知症となった80歳代女性に対する試行園芸として、1回目「かごに盛った花の鑑賞」、2回目「初夏に向けた花の寄せ植え」、3回目「初夏の押し花の作成」、4回目「押し花を使ったはがき絵作り」を行った。過去に花道や書道の先生をしていたことから、得意なことを発揮する機会となった。認知機能低下を自覚しており、自信の低下があるため、自身ができることを実感することで自己肯定感を高められると考え、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(5ヶ月)
植物を介しての楽しみや感動を他者と共有することで、自尊心を保ちながら生活することができる
短期目標(2ヶ月)
“できること”を実感することで自己肯定感を得る

活動性維持のため、季節の草花寄植えなどの栽培活動も取り入れながら、植物を用いた創造活動を中心とした園芸療法プログラムを提供する予定である。

2.腰椎圧迫骨折後、自己肯定感が低下している回復期リハビリテーション病棟に入院中の高齢女性に行った園芸療法初期評価
腰椎圧迫骨折を機に入院し、回復期リハビリテーション病棟で治療する90歳代女性に対し、試行園芸として1回目「花のお弁当箱作り」、2回目「押し花の材料集めと押し花作り」、3回目「押し花ランチョンマット作り」、4回目「花のお弁当箱作りと園芸療法活動の振り返り」を行った。華道経験があるが、入院前に利用していた施設のフラワーアレンジメント活動には参加していなかったが、今回の活動を通じて、植物に触れる快さを再認識し、「これからも花と関わる人生を送りたい」との発言が聞かれた。自身の好きなものに触れる時間を持つことで意欲の改善等に繋げるため、次の園芸療法目標を設定した。
長期目標(2ヶ月)
花による癒しを再認識し、日常生活でも花と触れる時間を作り、花を介して他者と交流する機会を持ち、楽しみを持って生活することができる
短期目標(1ヶ月)
好きな花に触れる活動を再開することで
①意欲と自信を取り戻す
②入院生活のストレスや退院後の生活への不安が軽減する

今回の試行園芸では、花について学生に教えることが、かつての華道の指導を思い起こさせ、意欲や関心の向上につながったことから、場面設定を工夫するとともに、他者交流をねらいとして後半からは集団での活動も行う予定である。

3.通所リハビリテーションを利用する四肢機能低下のある80代女性に行った園芸療法初期評価
変形性膝関節症などの既往により四肢の運動機能低下のある80歳代女性に対する試行園芸として、1回目「花のお弁当箱作り」、2回目「ハツカダイコン播種」、3回目「ハツカダイコンの栽培管理(間引き・灌水)」、4回目「ハツカダイコンの栽培管理(間引き・施肥)」を行った。かつて自宅でも好んで園芸を行っていたものの、機能低下により自宅では園芸活動が困難となっていたが、試行園芸では意欲的な取り組みが見られた。園芸療法目標を次のように立案した。
長期目標(4ヶ月)
生活内で役割や楽しみを感じ、自己有用感・自己肯定感が高まる
短期目標(2ヶ月)
①園芸活動の中で、楽しみや喜びを表出することができる
②園芸活動の中で、自身の役割を感じ、主体的に活動する場面が増える

本人の好む園芸活動を通して、ストレス軽減を図るとともに、他者交流を通じて自己有用感を高められるように関わっていく。

4.緩和ケア病棟入院中の男性に対する園芸療法初期評価
がん転移により下半身麻痺となり緩和ケア病棟に入院する80歳代男性に対し、植物の動画や写真を介した会話、押し花を使ったポスター作成の試行園芸を行った。緩和ケア病棟の特性から、土や生きた植物を持ち込むことが難しいため、写真を介した会話が主であったが、長年、自身の趣味として畑での野菜作りをしており、畑の写真を見ながら会話をすることで、癌性疼痛から意識が離れ、穏やかに過ごす様子がうかがえた。そのため、目標を「HTS(園芸療法学生、以下同)との交流で疼痛の和らぐ時間を過ごす」と設定した。
今後、症状の進行により癌性疼痛用麻薬の増量の可能性があり、意識レベルの低下が考えられる。覚醒時間に、本人が大切にしてきた畑の作物について会話することや、HTSが栽培する野菜の写真を見て会話をする中で、疼痛の緩和とともに安心感を得られるよう工夫して取り組んでいく。

5.サービス付き高齢者向け住宅に住み自室にこもりがちな80歳代女性に行った園芸療法初期評価
筋力低下などから歩行能力が低下し、転倒への恐れから部屋にこもりがちになっている80歳代女性に対する試行園芸として、1回目「花のお弁当箱作り」、2回目「押し花を使った小物作り」、3回目「初夏から秋にかけて楽しむ寄せ植え」、4回目「寄せ植えの花がら摘み」を行った。試行園芸では意欲的に参加し、こもりがちな生活の改善につながる可能性が示されたため、次の目標を設定した。
長期目標(4ヶ月)
植物の栽培や管理を通して他者と会話や想いを共有する機会が増え、生活に張り合いが得られることで、自室から出て過ごす時間が増える
短期目標(2ヶ月)
①園芸療法プログラムの中で、植物に触れるために自室を出て外の空気を吸ったり、体を動かしたりする時間が増える
②栽培や創作活動が他者交流や手続き機能発揮の機会となり、自己肯定感が高められる

施設内には中庭や農園があることから、園芸療法をきっかけとして自室から出て植物栽培を楽しめるようになることを期待している。

6.甲状腺機能低下症、陳旧性脳梗塞により自発性が低下した介護付き有料老人ホーム入居者に行った園芸療法初期評価
病歴が多く、動作が緩慢で言葉の出にくさもある70歳代の女性に対する試行園芸として1回目「花壇の散策と季節の花の観察」、2回目「ローズマリーで作るハートリース」、3回目「屋上ガーデンに咲く草花で作る小さな花束」、4回目「屋上ガーデンに咲く草花の花がら摘み」を行った。最近、夫を亡くしたことから気分低下が見られたが、草花に触れている最中は穏やかな表情で過ごしていた。植物との触れ合いが本人の意欲向上につながると考え、次の目標を設定した。
長期目標(4ヶ月)
①日常生活や他のレクリエーションに自発的に参加できる
②日々の生活の中で楽しいと思うことが増え、張り合いのある生活を送る
短期目標(2ヶ月)
①園芸プログラムの中で自発的な行動ができる
②園芸療法プログラムの中で自分の思いや考えを表現できる

屋上に庭園がある施設であり、屋上庭園での散策や草花の手入れを行うことや、植物を用いた創作活動に取り組む中で、気分の安定、意欲の向上につなげていく。

7.地域密着型デイサービスに通う脳梗塞後遺症のある90歳代女性におこなった園芸療法初期評価
脳梗塞後遺症により右上下肢に軽度の麻痺がある90歳代女性に対する試行園芸として、1回目「ハンギングバスケットの鑑賞・フラワーボトルの作成」、2回目「ハーブを使った手浴・パンジー、ビオラの押し花づくり」、3回目「花のお弁当箱」、4回目「押し花を使ったカード、しおりづくり」を行った。麻痺による行動制限からできることが少なくなり、自信低下があったものの、試行園芸場面ではともに行う他の参加者の世話を焼くなど、役割を持って取り組み、それが意欲的な参加につながったと考えられた。そのため、次の目標を設定した。
長期目標(4ヶ月)
デイサービスに通い、園芸活動をHTSや利用者と行うことで、喜びや達成感を得て楽しみのある生活を送ることができる
短期目標(2ヶ月)
①デイサービスで植物の世話や栽培などを他者と協力しながら行うことが出来る
②創造活動の中で自発的な提案などが出来る

デイルームに好きな花を飾ることで他の利用者や職員との交流を生み出し、本人の自信や意欲、役割の保持につなげていく計画である。

8.介護付き有料老人ホームに住む意欲低下・難聴がある90歳代高齢者に行った園芸療法初期評価
難聴と認知機能低下のある90歳代女性に対する試行園芸として、1回目「屋上で日向ぼっこと植物観賞」、2回目「四つ葉のクローバー摘み、ハーブと草花の押し花作成」、3回目「花のお弁当箱作り」、4回目「花がら摘み、花と野菜のカタログ閲覧」を行った。難聴や認知機能低下から意欲低下が見られたが、試行園芸時は高い関心を示して集中して活動に参加しており、意欲低下抑制の可能性が示された。そのため、次の目標を設定した。
長期目標(5ヶ月)
楽しいと思うことが増え、張り合いのある生活を送ることができる
短期目標(2ヶ月)
①成功体験を得ることで自発的・積極的な行動が増え、意欲が向上する
②学生との交流を通して、想いや達成感を共有でき他者との交流を楽しむ

認知機能低下に伴い、できないことに気が向きがちであるため、本人ができる活動、したい活動を中心とした園芸療法プログラムを計画している。

9.救護施設に入所する統合失調症と精神発達遅滞(中等度)の女性に行った園芸療法初期評価
統合失調症と精神発達遅滞(知的障害)中等度の30歳代女性に対する試行園芸として1回目「押し花アート」、2回目「花のお弁当箱作り」、3回目「庭の散策」、4回目「ドライフラワーを使ったリース作り」を行った。障害の特性から日常生活場面ではうまくできないことが多く、そのことで自信を喪失し、自己評価が低い様子がうかがえた。しかし、試行園芸時は本人のできる活動を提供したことから、表情よく過ごしていた。このことから、次の目標を設定した。
長期目標(5ヶ月)
日常生活の中に楽しみを見出し、自己評価を高め自立した日常生活を送る
短期目標(3ヶ月)
①栽培活動で決まった時間に水やりをし、確実に自分でできることを認知する
②創作活動で自己効力感と充実館を得られる時間を持つ

施設には野菜を栽培できる農園もあり、環境を活用して継続的な栽培活動を提供する。また、本人が好む創作活動も併用し、自分ができることを認識することで自己評価を高められるよう関わっていく。
*救護施設とは生活保護法に基づく自立支援のための施設であり、身体や精神に障害があり、経済的な問題を含めて日常生活を送るのが困難な方々が、健康で安心して生活することができるよう援助を受けている

10.生活介護事業所に通所する右上肢麻痺の男性に行った園芸療法初期評価
幼少時から右上肢麻痺があり、現在は生活事業所に通所する30歳代の男性に対する試行園芸として、1回目「季節の花の観賞(花壇の花の観賞)」、2回目「ジャガイモ苗の定植・袋栽培」、3回目「野菜スタンプの作品づくり」、4回目「袋栽培中のジャガイモの管理」を行った。仕事のやりがいを感じたいとの本人の希望があるものの、自信を持って取り組める事柄が少ない状態であり、試行園芸では本人のできることに注目して関わることで非常に熱心に取り組む様子が見られた。このことから、次の目標を設定した。
長期目標(5ヶ月)
園芸活動で自信を得て、仕事にやりがいを持ちながら施設通所を続けることができる
短期目標(2ヶ月)
①園芸活動の中で、満足感や達成感を積み重ねることができる
②栽培や創作活動を通して、他者との協働作業や共感を積み重ねることができる

繰り返しの動作を含む作業には集中して取り組む様子が見られることから、本人が夢中になって取り組めるような園芸活動を提供する中で、達成感や満足感を得て、自信を持てるよう関わっていく。
*生活介護事業所とは、常時介護を必要とする障害者に対して、通所することにより、入浴や排泄、食事などの介護、調理、洗濯、掃除などの家事、生活などに関する相談、および助言や創作的活動、生産活動の機会の提供などを行う施設である

新型コロナウィルス感染症の影響が続くなか、園芸療法実習を受け入れてくださった施設関係者様、実習対象者様、学生を指導していただいた園芸療法課程修了生(スーパーバイザー)の皆様に心より感謝申し上げます。

(文責 剱持 卓也)

 

PAGE TOP