2022年7月31日(日)に全寮制の「園芸療法実習Ⅱ報告会」が本校で開催されました。感染予防の観点から、対面とオンラインのハイブリッドでの実施としました。参加者は合計29名(うちオンライン参加者11名)でした。

「園芸療法実習Ⅱ」は、対象者へ試行的に4回の園芸療法プログラムを行い、対象者の健康上のプラス面と課題面を見つけます。そして、どのような園芸を行っていけば健康や生活の維持・改善につながるか検討し、園芸療法の目標を立て、その目標を達成するためのプログラムを計画するものです。今年度の全寮制学生の「園芸療法実習Ⅱ」は、実習指導者(園芸療法課程修了生スーパーバイザー)が勤務する施設、または、実習指導者(園芸療法課程修了生スーパーバイザー)の指導のもと学校が依頼した施設で行われました。
では、今回の発表タイトルと内容をご紹介します。

1.サービス付き高齢者向け住宅に住む既往歴の多い90歳代の女性に行った園芸療法初期評価 
脳梗塞、糖尿病、狭心症、心房細動、腰痛と足の痺れなど既往歴が多く、身体不安を抱えている90歳代の女性に対する試行園芸として、1回目「自己紹介と花を介したコミュニケーション」、2回目「容器の装飾と花のアレンジメント」、3回目「今後のプログラムに関する希望調査会議」、4回目「花と香りのスワッグ作り」を行った。園芸経験のない対象者であったが、花などの植物に触れると生き生きとした表情や言動が観察され、不安の軽減や身体の痛みから離れる時間の提供につながる可能性があることがわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
(1)新しい環境で張り合いのある生活を送ることができる
(2)これまでの人生を振り返り、今の思いを表出することで人生の統合を行うことができる
短期目標(2ヶ月)
①新たな楽しみを得て、 腰痛やしびれを忘れる時間を持つことができる
②場を共にする他者に、思いや自己の経験を語り、自己肯定感を積み重ねることができる

実施時は他の対象者と2名で行い、野菜栽培やハーブの手浴、フラワーアレンジメント等の活動を通じて交流の場、楽しみの場となるような働きかけを行う計画である。

2.認知症対応型通所介護に通う女性高齢者に対する園芸療法初期評価
デイサービスを利用する軽度脳血管性認知症のある80歳代女性に対する試行園芸として、1回目「花(クチナシ、ヤマモモ)の鑑賞」、2回目「笹を使った七夕飾り作り」、3回目「夏の花を使った立体絵画作り」、4回目「コスモスの種まき」を行った。対象者は最近、物忘れが多くなってきたことを自覚しており、気持ちの落ち込みがあったが、自宅でも園芸経験があり、高い関心を持って取り組んだ。園芸活動が本人の楽しみや心身機能維持、身体運動の機会につながることから、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
気持ちの落ち込みが和らぎ、楽しみのある生活ができる
短期目標(2ヶ月)
①他者(学生)と喜びや達成感を共有する機会が持てる
②これまでの経験を伝える機会や手続き記憶を発揮するが持てる

試行園芸の第4回目でまいたコスモスを使った鉢植え作りや野菜のプランター栽培、秋の花を用いた創作活動等、過去の経験を活かしながらも楽しみの機会などの刺激を受けられるような園芸療法プログラムとする計画である。

3.在宅介護支援住宅を利用する進行性核上性麻痺の高齢女性に行った園芸療法初期評価
厚生労働省の指定難病である進行性核上性麻痺により、心身機能低下のある70歳代の女性に対する試行園芸として、1回目「季節の花と野菜の鑑賞」、2回目「花のお弁当箱作り」、3回目「夏野菜でうちわ作り」を行った。その結果、本人が関心のある園芸活動への参加が、病気の辛さを忘れられるひとときとなること、楽しみの時間となることがわかり、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
園芸療法活動を通して楽しみ、達成感、満足感を得て、ひたむきに作業している様子が施設職員にも伝わり、理解者が増えて生き生きとした生活を送ることができる
短期目標(2ヶ月)
定期的な栽培や創作活動を通して学生と思いの共有や達成感を共有する機会が継続して持てる

病気の進行により、本人が取り組めることに制限が出てくる可能性があるが、関心を示している季節の花や野菜を用いて本人らしさが引き出されるような園芸療法プログラムを行う計画である。

4.デイサービスに通所する認知症の高齢女性に行った園芸療法
デイサービスに通所する軽度のアルツハイマー型認知症のある80歳代の女性に対する試行園芸として、1回目「畑の野菜の収穫」、2回目「ペットボトルの花瓶作成とアレンジメント」、3回目「施設内の畑の草抜きとシソ、バジル、マリーゴールドの植え付け」を行った。家での役割が少なくなってきている対象者にとって、デイサービスの畑で野菜を栽培し、収穫することが生活の張り合いになっていること、植物を使った創作活動が達成感の獲得につながっていることから、次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
(1)園芸活動をすることで、人生の振り返る過去の話をしたり、今の気持ちを話したりすることで自己表出でき、心身機能・認知機能の低下が抑制される
(2)定期的な栽培や創造活動を通して他者との交流機会が増え、愛他的体験を得て自己有用感が高まる
短期目標(2ヶ月)
①園芸作業をすることでエピソード記録が引き出される
②植物の播種から収穫までを学生と共に行うことで、ADLが維持できる

施設に付随する畑での野菜栽培や、栽培した野菜の収穫と調理、押し花作りなどの創作活動によって、心身機能への働きかけを行うとともに、自身が役立つ体験を通じて自己有用感が高められるような園芸療法プログラムを実施する計画である。

5.就労継続支援B型事業所に通所中の愛着障害がある女性に行った園芸療法初期評価
 軽度の知的障害と愛着障害があり、就労支援のB型事業所に通所する20歳代の女性に対する試行園芸として、「庭の散策とフラワーアレンジメントの鑑賞」を行った。施設で実施している園芸活動にも熱心に参加しており、園芸療法学生にも高い関心を示している。まだ通所して期間が浅く、事業所内でできることは限られているが、将来自立して生活したいとの思いがあることから、以下の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
自己肯定感が育まれ、就労継続支援B型事業所で取り組める作業の種類と、作業時間が増える 
短期目標(2ヶ月)
自身の好む園芸活動を通じて、作業の集中時間が延びる

愛着障害がある対象者とは、対人関係の持ち方に配慮しながら、関心のある園芸活動を通じて、作業を継続するための集中力が身につくように働きかけていく計画である。

6.デイサービスに通所するアルツハイマー型認知症の高齢女性に行った園芸療法初期評価
デイサービスに通所する軽度のアルツハイマー型認知症の80歳代女性に対する試行園芸として、1回目「ハーブを使ったアイスブレイク」、2回目「花のお弁当箱作り」、3回目「庭の散策と押し花作り」を行った。対象者には、軽度のうつや不眠もあるが、試行園芸参加時は園芸活動への参加を楽しみにしている様子が窺え、熱心な取り組みが見られたことから次の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
他者交流や残存機能を発揮する機会、楽しみを得ることで、ネガティブな気持ちで過ごす時間が減少する
短期目標(2ヶ月)
①手続き記憶を発揮する機会から満足感や達成感が得られる
②他者との交流を通して、会話や思いを共有する機会が増え、自己肯定感が得られる

活動は別の1名を含めた2名で行うこととし、栽培活動や創作活動内での交流を図る。対象者が好む材料を用い、本人の不安軽減や意欲向上につながるような園芸療法プログラムとする計画である。

7.デイサービスに通所する身寄りのない軽度認知障害(MCI)の女性に対する園芸療法初期評価
軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)があり、デイサービスに通所する70歳代女性に対する試行園芸として、1回目「アジサイを用いた押し花作り」、2回目「夏の花(ケイトウ)を生けましょう」、3回目「押し花(アジサイ)を使って、しおりとはがき絵を作ろう」、4回目「ガーデンの花を使って、みんなでアレンジメントをしよう」を行った。知的好奇心の高い対象者は、園芸活動に強い関心を示し、意欲的に取り組むとともに、他者との良い交流機会になることから、以下の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
楽しみや役割の確保により通所が安定し、他者交流や残存機能発揮機会が得られる
短期目標(2ヶ月)
①新しい知識を得ることや体験を通して、他者と喜びや思いを共有する場が持てる
②定期的な栽培や創作活動を通して、手続き記憶が発揮され、満足感や達成感を得ることができる

対象者はひとり暮らしであり、食事の不規則な摂取やこもりがちな生活から身体機能の低下が心配されており、デイサービスへの定期的な通所が重要である。園芸療法活動を他の通所者と2名で実施することで他者との良好な交流機会を保持するとともに、本人の好む園芸活動による楽しみの機会を提供することで、デイサービスへの通所が安定するような働きかけを行う計画である。

 

8.心原性脳塞栓症による左上下肢不全麻痺がある高齢女性に行った園芸療法初期評価
心原性脳塞栓症により左上下肢に不全麻痺のある70歳代の女性に対する試行園芸として、1回目「ハーブを利用したアイスブレイク」、2回目「夏に楽しめる花の寄せ植えづくり」、3回目「寄せ植えの鑑賞と手入れ/花飾り(センニチコウ)の夏帽子作り」、4回目「寄せ植えの鑑賞と手入れ/夏の花を一緒に生けましょう」を行った。元々、自宅の庭で花を育てることを趣味としており、園芸への関心は高いことがわかった。また、麻痺のある左手を使って作業をしたいとの本人の思いがあり、試行園芸の活動時は自然と両手を使っての作業を行うこともできていた。これらのことから以下の園芸療法目標を設定した。

長期目標(4ヶ月)
(1)園芸への意欲が維持でき、植物を育てる喜びや愛でる楽しみのある生活を送ることができる
(2)生活場面で、左手の使用頻度増加を自覚でき、自己肯定感、自己有用感が高まる
短期目標(2ヶ月)
①寄せ植えや植えた野菜を継続的に管理することができる(実習中、花がら摘みなどの手入れを実施)
②花や園芸に対する思いを表出できる
③園芸活動場面で、左手の使用頻度が増える

花や野菜の栽培活動、植物材料を用いた創作活動において、自然な形で本人が左手を使用できる場面を作り出し、本人の自信や自己肯定感につなげられるような働きかけを行う計画である。

8月末から始まる「園芸療法実習Ⅲ」では、今回計画した園芸療法プログラムを実施し、園芸療法目標の達成度を評価していきます。その報告は、「園芸療法実習Ⅲ報告会」として、2023年1月15日(日)に淡路景観園芸学校で行う予定です。一般公開(予定)ですので、園芸療法を知りたい・学びたい、施設で園芸療法を導入したいという園芸療法に関心のある方はぜひご参加ください。詳細は、別途、ホームページにてお知らせします。

(文責 剱持 卓也)

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