令和2年1月19日、園芸療法課程通学制7期、全寮制17期の学生による園芸療法実習Ⅲ報告会(※)が開催されました。今回は、通学制、全寮制、合同での報告会となり、実習受入施設の管理者、実習指導者(園芸療法課程修了生スーパーバイザー)、園芸療法課程の修了生、在校生、来春の入学予定者など、約50名の方が参加されました。
(※)2018年に入学した通学制(2年間)の学生は旧カリキュラムでの園芸療法実習18回、
2019年に入学した全寮制学生は新カリキュラムでの園芸療法実習14回の報告です。
参加者からは、
- 疾患に対してではなく、疾患と共に生きる対象者の心に働きかけていることがわかった。
- 対象者のありのままを受け入れ、対象者の能力に合ったこと、できることがプログラムとなっていた。
- 認知症でありながら、配偶者のことは覚えている対象者に対して、配偶者の遺影に花を供えるといった日本の伝統文化をプログラムに取り入れた事例が印象に残った。
- 園芸療法実習が終わった後も、施設の職員や園芸療法士にプログラムの引き継ぎができていることがわかった。
- スーパーバイザーである修了生のサポートが充実している。今日発表した学生さんたちも今後は修了生として後輩を指導できるよう活躍していって欲しい。
- これからも謙虚さを忘れず、努力をおしまず、活動していって欲しい。
など多くの講評をいただきました。
以下に、通学制学生、続いて、全寮制学生が発表したタイトルと内容をご紹介します。
【通学制】
1.グループホームに入居している認知症高齢者に対して行った園芸療法
認知症(中等度)で気分の浮き沈みがある90歳代女性へ、他者との交流の中で認められる機会を得て、穏やかで自分らしい生活を送ることができるよう、週1回の園芸療法(野菜・花の栽培管理、観察など)を実施(個別活動)。屋外で植物を見ながら体操をしたり、野菜や花の栽培をしたりするうちに、カブへ「いっちょ前の形をしてかわいい」、学生へ「ご苦労様」と愛着や感謝を示す言葉が聞かれるようになった。また、収穫した野菜を食べたり、花を飾ったりすることで職員、入居者との交流を図る機会になった。
2.医療療養型病棟に入院する認知症高齢者に行なった園芸療法
アルツハイマー型認知症(中等度)、Ⅰ型(生まれつきの)糖尿病で、意欲低下、依存傾向などがある70歳代女性へ、手指の機能が維持されていて、課題遂行能力や平易なことへの判断力があることに着目し、週1回の園芸療法(花の寄植えと管理、アルバム作り、創作活動など)を実施(個別活動)。馴染みのある植物や生花に触れることで意欲的になり、園芸作業や活動後の片付けを自ら立ち上がって実施するようになった。馴染みのある人と自ら会話するようにもなった。実習期間中も認知症は進行していったが、“認知症高齢者の生活の質尺度(QOL―D)”の「周囲との交流」の小項目「表情がいきいきしている」、「ユーモアがある」などの評点は維持して、本来の対象者らしさを保つことができた。
3.介護付有料老人ホームに入居する高次脳機能障害高齢者に行った園芸療法
くも膜下出血後遺症による高次脳機能障害(特に記憶の障害)のため、新しい出来事が覚えられず、施設で暮らしているという認識がない70歳代男性へ、施設で落ち着いて生活することができるよう、週1回の園芸療法(野菜・花・観葉植物の栽培管理、アルバム作成、創作活動など)を実施(2名の小集団)。小集団での活動では、他者への手伝いを積極的に行った。居室に飾った観葉植物へも、学生の声かけがあれば1人で水やりができるようになった。施設における役割が生まれた結果、スタッフからは、「家に帰る」の発言が減ったという情報があった。
4.一年間の職業訓練を経て就労を目指す知的障害者に行った園芸療法
知的障害(軽度)、自閉症スペクトラム、注意欠如・多動症のある10代後半の男性へ、就労に必要な集中力や作業遂行能力が向上し、自信がつくことを目標に、週1回の園芸療法(耕作作業、作業に伴う報告連絡相談など)を(2名の小集団で)実施。園芸療法介入期間中に何度か同じ作業・工程を繰り返した結果、作業に対する正確さ・速さ・集中力が増した。男性が作業を理解しやすいように行っていた演示付き作業指示も、作業を何回か経験すると口頭指示でできるようになった。“能力開発センター評価表”の作業領域「持続力」「集中力」「正確性」「速度」「作業ベース」などの評点が向上し、新年度からのA型事業所就労につながった。
5.介護付き有料老人ホームに入居する認知症高齢者に行った園芸療法
認知症(軽度)で、他者交流がなく、「何かしたいが何をしていいかわからない」という90歳代女性へ、コミュニケーション能力が高く、社交性があることに着目し、週1回の園芸療法(エアプランツの管理、野菜・花の栽培管理、園芸活動ノート記入、創作活動など)を実施(個別活動)。居室入口に置いたエアプランツは、毎日霧吹きで水やりをする機会となり、職員・入居者との会話のきっかけづくりにもなった。介入後期には、“認知症高齢者の生活の質尺度(QOL―D)”の「周囲との交流」の評点に、改善が見られた。
6.サービス付き高齢者向け賃貸住宅に入居する変形性脊椎症の高齢者を対象とした園芸療法
変形性脊椎症、認知症(軽度)のため活動制限があり、施設スタッフとの関わりに馴染めない90歳代男性へ、農作業の経験、施設に畑があることに着目し、週1回の園芸療法(野菜・花の栽培管理、栽培した植物を食べるなど)を実施(2名の小集団)。園芸活動中、「天気がはれるように、気分も晴れたらええんやけど」など気持ちを表現するようになった。その気持ちを、その都度、学生が施設スタッフに伝えることで、スタッフの症例に対する関わり方が変化し、症例のスタッフに対する信頼感も生まれていった。“認知症高齢者の生活の質尺度(QOL―D)”の「周囲との交流」「自分らしさの表現」「対応困難行動のコントロール」の評点、“Zarit介護負担尺度短縮版”施設職員向けの評点に改善が見られた。
7.有料老人ホーム入所中で拒食・介護抵抗がある高齢女性に行った園芸療法
認知症(やや高度)と摂食障害があり、介護・活動に拒否が見られる80歳代女性へ、上肢機能が維持され、故郷の話には応答することに着目し、週1回の園芸療法を実施(個別活動)。散策、押し花の創作活動などを実施したが拒否が続いたため、認知機能、快感情が得られる出来事などを再度評価し、活動内容を、季節の花を配偶者の遺影に供えるアレンジに変更。拒否はなくなり、故郷の話が出たり、笑顔が見られたりした。“認知症高齢者の生活の質尺度(QOL―D)”の「周囲との交流」評点、意欲を評価する“バイタリティーインデックス”の「意思の疎通」評点に改善が見られた。
8.特別養護老人ホームに入居する右上下肢不全麻痺高齢者への園芸療法
左脳梗塞後遺症で右上下肢不全麻痺、高次脳機能障害(特に判断力の低下)があり、右上下肢の麻痺による自信低下、日中活動が減少してきた80歳代女性へ、ADL(日常生活動作)ほぼ自立、注意機能維持、植物に興味があることに着目し、週1回の園芸療法(散策、野菜の栽培管理・観察、創作活動など)を実施(個別または小集団)。「できひん」と言いながら作業を夢中になって実施したり、野菜栽培が職員との会話のきっかけになったりし、ベランダ栽培の野菜の観察・水やりが日課となってきた。“認知症高齢者の生活の質尺度(QOL―D)”の「周囲との交流」の評点に改善が見られた。
【全寮制】
9.ケアハウスからデイサービスに通う不安神経症の高齢者に行った園芸療法
ケアハウス入居により情緒不安定となり、症例らしさがなくなった80歳代女性へ、園芸の経験があり華やかなものが好きなこと、デイサービスにいる仲のよいB氏の存在に着目し、週1回の園芸療法(花の寄せ植えの管理・その花を利用した創作活動など)を実施(B氏と2名の小集団)。園芸活動の楽しい気持ちをB氏と共有したり、作ったクラフト作品をケアハウスの公共の場に飾ってもらったりするうちに「ケアハウスの暮らしにはケアハウスの暮らしのいろいろがある」などの言葉が聞かれ、情緒の安定、症例らしさが戻り、“認知症高齢者の生活の質尺度(QOL―D)”の「周囲との交流」「自分らしさの表現」の評点に改善が見られた。
10.自立支援型デイサービスを利用する独居高齢者に行った園芸療法
腰部脊柱管狭窄症・両変形性膝関節症による行動制限、高血圧、便秘、不眠などがあり、主婦として長年果たしてきた役割を失った80歳代女性へ、施設での園芸活動が心の安定となり、心身の健康維持につながるよう、週1回の園芸療法(花・野菜の栽培管理、創作活動など)を実施(個別)。活動を通して肯定的な気持ちが生まれ、不安を表す発言が徐々に減り、他者との積極的な交流も増え、“認知症高齢者の生活の質尺度(QOL―D)”の「周囲との交流」「自分らしさの表現」の評点に改善が見られた。
11.介護老人保健施設に入居するアルツハイマー型認知症高齢者に行った園芸療法
アルツハイマー型認知症(軽度)、両耳難聴があり、自発的な発言がなく、居室にいることが多い90歳代女性へ、花が大好き、職員からの話しかけに笑顔で会話することに着目し、週1回の園芸療法(観葉植物の寄せ植え作り・管理、花の栽培、アルバム作り、創作活動など)を実施(2名の小集団)。小集団での活動や会話を楽しんだり、観葉植物を毎日観察し、その成長を学生に報告したりするなど、症例らしさを発揮しながら他者との関わりが増えた。実習期間中、“認知症高齢者の生活の質尺度(QOL―D)”の「周囲との交流」「自分らしさの表現」の評点を維持することができた。
12.通所リハビリテーションに通う左延髄脳梗塞後73歳男性に行った園芸療法
左腹側延髄脳梗塞により右上下肢麻痺(軽度)があり、病身の妻を生活面で手助けするという病前の役割が果たせず、悲観的な考えを強めていた70歳代男性へ、認知機能・身体機能の保持、妻が庭で花を育てていたことに着目し、週1回の園芸療法(野菜・花の栽培管理、花壇管理、創作活動、栽培植物の持ち帰りなど)を実施(2名の小集団)。「(妻が)喜ぶから花を持って帰る」、「こんなことできんと思っとったけどできるようになった」などの発言が聞かれ、“認知症高齢者の生活の質尺度(QOL―D)”の「周囲との交流」「自分らしさの表現」評点に改善が見られた。
(文責 金子みどり)