平成30年10月8日、淡路景観園芸学校にて園芸療法課程全寮制学生による園芸療法実習Ⅲ報告会が開催され、修了生、AGN、受講希望者など40名の方が参加されました。
全寮制学生の園芸療法実習Ⅲは、園芸療法課程卒業生の兵庫県知事認定園芸療法士が勤務する施設において彼らの指導の下で8月から9月に7週間通して行われました。その中では、アセスメント(対象者の健康上の課題とプラスを探す)-目標設定(園芸療法の長期・短期目標)‐評価方法決定(評価尺度選定)-園芸療法計画立案‐活動実施などのプロセスが含まれます。
実習を通して、学生は園芸療法士に必要な基本的スキルを身に着けることができたと同時に、これからの園芸療法実践の道しるべとなる貴重な経験を対象者の方々からいただいたと思います。あらためて受入施設様、対象となってくださった方に御礼申し上げます。
では、発表された5つの事例を紹介します。
事例1 通所リハビリテーションに通う両下肢麻痺の高齢者に対する園芸療法
自宅階段からの転落事故で両下肢麻痺となった70歳代男性について、デイケアにおける他者との交流が少なく活動意欲の低下がみられるという課題と、課題遂行に必要な精神機能や上肢機能が保たれているというプラスに注目した。
パンジー、ハツカダイコンの播種・栽培管理、ハーブの手浴、ハーブティーなどを活動に取り入れた。その結果、植物管理では自主性が芽生え、ハーブなどを利用した活動では快感情醸成、会話促進、意欲向上がもたらされた。それは、QOLの評価や淡路式園芸療法評価表(AHTAS)にも表れた。
事例2 特別養護老人ホームに入所する意欲と活動低下が課題のアルツハイマー型認知症男性に行った園芸療法
特養で生活する90歳代男性(アルツハイマー型認知症軽度から中等度)は、「畑仕事ができない」、「野菜を植えたい」、「自宅へ帰りたいがかなわない」ことが大きなストレスで、さらにユニットで会話をする相手がいない、活動機会も限られているなどの課題がみられた。一方、園芸に関する長期記憶や近似記憶は保たれるというプラスの面も見られた。
プランターではあるが野菜栽培を行い、介護スタッフの協力も得て毎日生育観察とかん水を行ったことで野菜栽培が生活の一部となり充実した時間が増えた。収穫物をユニット利用者と共に食べる機会は大きな喜びとなった。QOL評価にでは、特に周囲との生き生きとした交流に関する得点に向上がみられた。
事例3 医療療養病棟に入院する高齢者に行った園芸療法
医療療養病棟で生活する90歳女性は、ベッドでの臥床時間が長く活動性が低下していること、発言に長引く入院への不安がのぞくなどの課題がみられた。一方、植物や園芸への興味はある、前向きな生活態度、車いす自走可、コミュニケーション能力、手指の巧緻性は保たれているなどのプラス面がみられた。
植木鉢を使った人形作りは、本人だけでなく他の入院患者からも褒められ、他者との交流回復のきっかけとなった。草花の栽培管理では、自発性が回復し、食事摂取量の増加にもつながった。
事例4 デイサービスに通所する高齢者女性に行った園芸療法
デイサービスに1年以上通う70歳代女性は軽度の認知症で、見当識低下や精神的不安がみられた。また、いまだにデイサービスに馴染めないことが大きな課題であった。一方、手芸経験があり手指の巧緻性は保たれているというプラスの面がみられた。
庭で採取した花を花瓶に生けて利用者が座るテーブルに置く活動がきっかけで、デイサービスの活動を楽しいと思えるようになり、この活動は計8回実施することになった。その結果、周囲の利用者や職員との会話も増え、QOL評価においては、「周囲との生き生きとした交流」や「自分らしさの表現」に関する項目で大きな改善が見られた。
事例5 地域密着型デイサービスセンターに通所する高齢男性に行った園芸療法
デイサービスセンターに通う80歳代男性は脳血管性認知症で、自宅での妻との会話が少なく自分の感情を表出する機会が少ない、畑仕事や外出などができなくなったストレスを抱えていることなどが課題と考えられた。一方、農業経験があること、物作りをしているときは感情の表出が豊かであるなどのプラスの面がみられた。ダイコンやキンセンカの栽培では、今までできなかった活動ができた喜びや、農業経験に関するエピソード記憶の想起がみられた。センニチコウを使ったトピアリー作りでは、男性の妻や家族を思う気持ちが行動に現れていた。QOL評価においては、「周囲との生き生きとした交流」で改善が見られた。