Ulrich 先生には、多彩で、学際的なご専門の行動科学、
建築・景観設計(ヘルスケア施設)、造園、環境心理学の
視点から、エビデンスに基づくヘルスケアデザインの研究
・実践の成果について講義いただきました。
Roger S. Ulrich 先生の教育活動
Ulrich 先生の専門分野は、行動科学、建築・景観設計(ヘルスケア施設)、造園、環境心理学など多岐にわたる。
先生は、学際的な領域で活動をしており、エビデンスに基づくヘルスケアデザインの研究・実践を多数行っている。
また、多くの研究論文を発表しているが、とりわけ有名なものが、「窓からの自然の眺めが術後の回復結果に及ぼす影響 」という1984年にサイエンス誌に発表された論文である。
胆嚢手術後、窓から緑の木立の見える病室で療養した患者は、レンガ塀しか見えない病室で過ごした患者に比べ、在院日数が短く、強い鎮痛剤の要求量が少なかったというものであった。
これは建築、造園、ヘルスケア・デザイン分野で最も頻繁に引用される実証的研究である。
先生は、エビデンスに基づくヘルスケア・デザインに関して、世界で最も頻繁に引用される研究者(Google Scholar:8、000件以上の引用)であり、科学的貢献度は高い。
授業では、植物や緑の環境が人の健康に及ぼすポジティブな効果について、根底にあるさまざまな理論や実例・研究紹介を交えて、わかりやすく解説し、効果をエビデンスとして示すことの重要性を説いた。
学生からも活発に質問が投げかけられ、積極的な受講態度が見られた。
以下、授業内容の要点を紹介する。
1.ヘルスケア・ガーデン・デザインのための理論と研究
上手なガーデンデザインすることにより、ストレスを低減し、健康アウトカムは向上する。
デザインのポイント:
1)社会的支援(コミュニケーション等)を得やすい場
2)自己統制感向上(プライバシーの確保・アクセスのしやすさ)
3)活動性向上(運動の機会の提供)4)植物/花/水などの自然の要素と気分転換。
2.ヘルスアウトカムとガーデン特性
向上:草木、花、水、野生生物、自然の音(鳥の声・風)、可動式の椅子、日陰、アクセス
避ける:都市/機械の侵入的な音、混雑、入口付近の喫煙エリア、抽象的/挑戦的なアート
3.感情一致理論
進化論と一致して、国を超え、文化を超えて、成人の大多数は自然アートを好む。
患者の立場になった時、写実的な自然風景を好む傾向が強くなり、抽象的アートに対する嫌悪感が増す。
4.バイオフィリア仮説における進化論的視点
バイオフィリア仮説(人間は、植物や他の生物を含め、自然に対してポジティブに反応する強い傾向)とバイオフォビア仮説(生物学的に備わった自然に対するネガティブな反応)には一部遺伝子的根拠がある。
様々な文化に関して行われた研究から、ヒトが進化を遂げた場所であるサバンナに似た風景が一貫して好まれる(サバンナ仮説)ことが示されている。
こうした環境を好み、生存してきたヒトの遺伝子が現代人にも伝わっている。