緑環境の基礎的で統合的な考え方を「いえ」と「にわ」の関係から考えると共に、今日の公園や緑環境の計画設計のプロセスで欠落していると思われる「ビジョンの共有」と「マネジメント」の必要性について述べる。

 

「いえ」と「にわ」

緑環境を身近に考えるために「いえ」と「にわ」との関係から、庭を例にして考えてみる。ここで「いえ」は日照、風や雨などの気象現象に対して人工的に制御された安定的な空間であり、一方「にわ」は不安定あるいは変化する空間である。私達人間は、本能的に「いえ」で安定を求めると共に、時には「にわ」で変化を享受したがるという矛盾した行動をとる場合が多い。この不安定あるいは変化を人間に提供するという意味において「にわ」の積極的な存在意味が見出せる。(中村、1968)。

にわの要素として、「日照」の確保、窓越しに眺める良好な「景色」の確保、夏場などの涼しげな「日陰」や「通風」の確保、家を美しく装飾し、季節の変化を演出する「花壇」や「植栽」への配慮、「子どもの遊び場」、他にユーティリティー空間としての「物置・ゴミ」「日曜大工」の場の確保などが必要である(中村、1968)。家族の多様なニーズやウオンツに基づいて、これらの諸要素を統合し、デザインし、マネジメントしていくことが庭づくりであるといえる。関係する要素が多くなるが、この「いえ」と「にわ」の考え方は、「まち」と「公園・緑地」、「都市」と「自然緑地」……などの関係へとスケールを拡大して考えることができる。

 

ビジョンの共有と参画のマネジメント

未曾有の大被害をもたらした阪神・淡路大震災後、公園や緑地などの緑環境の果たした役割や効果について多くのボランティアの参加により現地調査がなされ、避難地、救援・救護の場などとして機能した公園、焼け止まり線を形成した植栽群、倒壊寸前の木造家屋などを支えた街路樹など、緑環境の果たした役割に関係する多くの事実が見出され、復興計画などに提言され、反映された。被災地の復旧・復興に少なからず貢献したものと考えている((社)日本造園学会、1995)。これらの調査のなかで、日常時、市民によく使われていた公園は、非常時には避難地として、さらにはテントなどを用いた野営地として有効に活用され、臨時の自治会までもが形成されていたケースが散見できた。これらから得た知見などに基づいて、図に示す「ビジョンの共有」と「参画のマネジメント」の考え方を提示する。


これまでは公園・緑地の計画設計、里地・里山整備、河川整備のみならず、多くの施設整備に際して、図中の「従来のプロセス」に示すような[計画→設計→施工→管理]といったリニア・モデル的な考え方が多かったと推測される。

市民1人当たりの面積を達成目標として、公園などの社会資本の量的拡大と充実を進めた時代には、このリニア・モデル的な進め方が適合していたかも知れないが、成熟社会では参画と協働を基礎にした「構想」段階である「ビジョンの共有」と「運営」段階である「参画マネジメント」は、公園などの質的内容を考えるのに必要不可欠である。しかも、構想段階から運営、管理などを十分に把握したリニア・モデル的なプロセスからチェイン・リンク・モデル的なプロセスへの変換が望まれる。このためには、多くの市民、団体、NPO、企業、行政などの参加を通じたワークショップなどのプロセスと、そこで得られた成果の計画、設計、マネジメントへの反映が必要である。

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