小林 郁雄

 

復興都市計画から復興まちづくりへ
1995年1月17日早朝に兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)が起こり、1週間後ぐらいにおおよその復興方針が決まり、1月の終わりに建築制限が決められ、2カ月後の3月17日に復興都市計画事業(再開発、区画整理)が決定された。わずか2カ月後に決定したので、被災住民は避難所にいて何もわからない。神戸市や県・国の行政側が協議し、平常時の手続きを踏んで、都市計画審議会を開いて決めたということであるが、多くの事業地区市民は「むしろ旗」を立てて反対するということとなった。

通常、都市計画は構想を立て、計画をつくって、事業をするという順序であるが、震災など災害時は事業が先に進み、後から計画、構想が追っかけるので、このように短時間で対応することで問題が生じても仕方がないだろう。3カ月後に住宅や港湾など整備3カ年計画がつくられ、6カ月後に復興計画全体を決めるという形で、通常とは全く逆の順序で進められていったが、これは非常時とか、発展途上国では普通のやり方ではないかと思う。

復興都市計画はこうして強引に決定されたが、市民の反対もあって、都市計画審議会で付帯決議が付き、詳細な計画については市民とよく協議して進めるようにとされた。とにかく早く決めなければいけないので決めてもいいけれども、その後10年間かけてずっと事業をやっていくわけだから、その間は常に市民と相談しながら進めよということである。これを後に二段階都市計画決定と呼ぶことになった。

■「被災市街地における重点的な復興プロジェクト位置図」(1995年8月 兵庫県都市住宅部「阪神・淡路都市復興基本計画」29頁)に筆者が一部加筆、赤が震災復興都市計画事業/土地区画整理、市街地再開発地区)

しかし決めたらできる、という問題でもないわけで、復興都市計画の実現に向けてどのように進めていくか、そうした復興まちづくりへの支援も含めて、事業プロセスが非常に重要である。

私たち都市計画の専門家にとっても一番の中心課題は、まちづくり協議会などの市民活動に対してどのような支援をするか、ということであった。住んでいる人・営業している人たちや土地・建物を所有している人たちが、自分たちのまちを再生させていく活動に対して、どのようなことをどんな形で手伝わなければいけないか、その対応をなによりも優先すべきではないか。そういう支援を通じて、復興まちづくりも、そして区画整理や再開発の事業も進むということに思い至ったのである。

災害復興における「まちづくり協議会」の重要性
阪神・淡路大震災の復興の中で最も重要なことは、「まちづくり協議会」という形で、市民が参画するというより、市民が主体となって復興を進めていくというシステムが確立されたことである。どんな形にせよ、復興の内容について、市民が自分たちのこととして進めていくことを保証する仕組みをつくらないといけないし、用意しておかなくてはいけない。

そのためには前もって市民が中心となったまちづくり協議会の日常的な在り方が非常に重要で、それが防災まちづくりの基本であると阪神・淡路大震災の経験は教えている。

二つほど具体的な例を挙げると、一つは今、首都直下地震の到来が予測されている。阪神大震災では10万戸ぐらいの住宅が倒壊し、死者は直接死約5000人、10兆円ほどの被害が出たわけだが、首都直下では最悪で85万戸ぐらい建物が倒壊し、死者は1万人強(そんな数ではすみそうにはないと、私は思うが)、100兆円を越す被害が出るだろうということで、およそ10倍である。その中で事前復興というか、復興模擬訓練という形で、市民が前もって復興まちづくりをシミュレーションしておくということが、今、東京の区を中心に随分行われている。これは阪神大震災におけるまちづくり協議会システムによる復興協議の重要性を、東京の人々が感じ取った結果だと思う。

もう一つ、2005年夏にアメリカのニューオーリンズがハリケーン・カトリーナで大きな被害を受けて2年経過しても、いまだに人口40~50万人だったところに20~30万人ぐらいしか帰ってきていない。そうしたなかで、市民による都市再生が随分手間取っているという感じがする。2006年秋神戸を訪れたニューオーリンズ市議会議長などの視察団と話をしたが、結局、市民が自分たちのまちをどうするかという意思決定をしない限りまちの復興もない、ということについて感じ取っていただいたと思う。そのためには、市民がどういう声を上げるか、その声をどういう形で復興に反映させるか、復興まちづくり協議会の目的です。例えば、神戸では「きんもくせい」という復興まちづくりニュースを、まちづくりの専門家達による支援ネットワークで、12年間出し続けた。被災地の中で情報を共有するためのメディアを自ら持っていた。そういう自前のメディアは復興まちづくり協議会にとっても非常に大切であった。ニューオーリンズでも同じような形で「トランペット」という市民NPOによる復興ニュースが「きんもくせい」を習って発行するようになった。

このような事例を見ても、まちづくり協議会のようなプラットホームを持って復興に当たるということが、復興まちづくりの最も重要なテーマではないかと思う。

■阪神大震災復興市民まちづくり支援ニュース
「きんもくせい」創刊号(950210)
■New Orleans 復興まちづくりニュース/NPN発行
the Trumpet(左:07Jan20創刊号、右:09Sep・No3vol3)


地域での環境改善運動を、市民の手でずっと続けていくことが、市民まちづくりである。そして、実はそういうことが最も重要な防災あるいは減災につながるシステムであると思う。防災訓練も大事だろうが、地域のつながりとか、それ対して十分気を配った日常的な活動を続けることの方が、実は防災にとって大切である。そうした組織をつくっていくことに対して、住民も行政も、もちろん大学での研究教育でも、ぜひ努力して欲しい。

(この文は、『復興まちづくり』(日本建築学会叢書8・大震災に備えるシリーズⅡ、2009年12月25日・日本建築学会発行)の2章 被害からの復興と専門家の支援(小林郁雄)の一部を修正したものです。)

 

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