平田 富士男

1.「伊能図」はすごい!
みなさんは、伊能忠敬が作成した地図の原図を見たことがありますか?

原図の写しはときどき各地で展示会が開かれていますし、「写し」は国土地理院で購入することもできます。
しかし、一度その原図に触れるとその「正確さ」に魅了されることでしょう。そして、その地図を彼が60歳を過ぎてから作成し始め、約16年の歳月をかけて完成させたということを聞くとさらにその驚きは増すことでしょう。

ここで、その現物をご紹介しましょう。これは、現在の姫路市街地にあたる部分です。

その「正確さ」が実感できるでしょう。そして、このように正確な地図なので、そこに描かれている赤い道筋は、区画整理などで道路自体が無くなっていない限り、今もその道をほぼ全てたどることができるのです!

2.伊能図に描かれた道をたどってみると
実は、上記の地図を見たとき、私の実家の前の道が描いてあるのにびっくりしました。私の実家は、今では細い道に面していますが、実はその道は播磨から但馬にいたる昔の街道筋だったのです。
事実、実家のすぐ近くには、大きな道標が二つあり、小さな頃からなぜこんな小さな道に道標があるのだろう、と思っていましたが、改めて旧街道の存在をこのとき意識したのです。

それ以来、兵庫県内の旧街道を暇を見つけてはたどってみることを始めてみました。

するとどうでしょう。そこには、数多くの昔のまちなみが残っていることがわかったのです。これらは、決して観光地として有名なところではありません。また、保存地区としての位置づけがなされているところでもありません。しかし、それだけに「観光地化されていない本当の日本のまちなみ」を感じることができるような気がするのです。

3.明石の西部にある旧西国街道を歩いてみる
そのようななかでも、私がたどってよかったな、と思ったのは、明石市の西部、JR大久保駅~JR土山駅にいたる数キロメートルの旧西国街道です。

この区間は、一部工場敷地となって西国街道が潰されてしまったところがありますが、それ以外の区間では昔の雰囲気が比較的残っている区間です。

そして、この区間のまちなみの特徴は以下のようなことが言えると感じています。
1.まちなみの構成が「町屋」からなるのではなく、「農家住宅」から構成されている。
2.農家住宅には、かならず大きな「前栽(せんざい)」があり、まちなみが「家並み」から構成されているのではなく、「庭の景観の連続」で構成されている。
3.そのようなまちなみが、大都会のすぐ近く、しかも国道2号の裏道として存在し、気軽に公共交通機関で訪問することができる。
4.全く観光地化されておらず、ふつうの住民の暮らしぶりを感じることができる。

そのようなことから、ある郷土庭園研究家といっしょに見学をし、コメントをもらいました。そのコメントを写真とともに紹介しましょう。

・これだけ、民家(農家が多い)の家々の庭が集まっているところは県内では珍しい。

・各家の庭は、前栽であり、それが長屋門と母屋との間にある。昔は、この空間は収穫物の整理や天日干しなどを行う中庭だったところが、それらの農業に関する機能だけではなく、快適な住空間を形成するための機能が加わっていったのだろう。




・したがって、作庭の時期は、江戸後期から明治時代にかけてではないか。

・庭は、母屋の裏側にその家の住人の観賞のために作られることが多いが、ここでは前栽として、また、街道筋から見られることを意識して作られている。

・特に、長屋門を街道筋に面してつくるのではなく、街道から直角に入った露地に面してつくり、そこから入ったところに前栽をつくると、街道から見たときその前栽が長屋門で隠されてしまわず、よく見える。そのようなデザインになっているところがけっこうある。
これは、街道筋に張り付いて民家が立地している町割りの構造からそのようになったのだろう。


・庭園の形式としては、築山を中心とした枯山水の池泉観賞式となっているものが多い。




・植栽は、多様な門担ぎのデザインにも特徴がある。


・また、植栽の剪定・仕立ては段仕立てを基本としている。

 

4.まちあるきプログラムを実施中!
私は、こんな資源をほうっておくのはもったいない!と感じました。

そこで、以上のような専門家のコメントが現地で認識していけるようなまちあるきプログラムを考え、ときどき人を誘っては「身近な歴史まちなみ探検ツアー」として実施しています。特に、外国からいらっしゃった方々に、本当の日本の姿を感じていただきたく、留学生の皆さんなどをお誘いしてツアーを実施しています。

そして、その参加者から好評をいただいているのです。

観光というと、重要な文化財などをイメージしがちですが、決してそのようなものばかりではないと思います。

特に「国際化」社会と言われるなか、「英語を話すことが国際化」と思われますが、互いに違う文化を知り、理解し、その上で互いの文化を高めていくことこそが真の国際化ではないでしょうか。

外国の方は、その意識から「本当の日本の姿」を知りたがっています。私たちは、このような本当の日本の庶民の暮らしが感じられるまちを大切にし、そのことを日本人自身が知り、海外にアピールしていくことが必要なのではないでしょうか。

そんな「普段着の日本の姿を感じられる資源」を探すのに「伊能図」はぴったりなのです。

※まちあるきの様子などは、私の個人ブログに紹介していますので、こちら をご覧ください。
http://blogs.yahoo.co.jp/gardencity21から、「緑環境を活用した新たなツーリズム振興による地域活性化方策検討」のコーナーにお入りください。

※執筆教員のプロフィールについては、こちら をご覧ください。

 

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