震災に影響されたあなたへのメッセージ

臨床心理士 天野 玉記

 

このたびの東北関東大震災は、多くの方々に影響を与えています。特に阪神淡路大震災を経験した神戸・淡路の皆様は、このたびの地震の影響を少なからず受けておられると思います。

たとえば、気持ち・・・。
阪神淡路大震災の時に経験したような「恐怖」「怯え」「不安」「落ち込み」「悲しみ」「罪悪感」「怒り」「憤り」「感情の鈍磨(麻痺)」「無力感」「絶望感」・・・など。様々な気持ちが湧いてきます。実は、こうした気持ちは当たり前のことです。阪神淡路大震災を経験したことのない私でさえも、このような気持ちが襲ってきます。人は他人の苦しみを自分の苦しみのように感じることができる前頭葉を発達させました。聞かれたことがあるかもしれませんが、ミラーニューロンというものです。人の気持ちを理解したり、共感したりすることが、人間らしさにつながる大切な能力です。ですから、上にあげたような気持ちになることは、よりあなたが高等な進化をしている人間だからなのです。ですから、こうした気持ちは無理に打ち消したり否定したりする必要はありません。まず、今自分にどんな気持ちが起こっているのか気づき受け止めてください。この湧き上がってくる気持ちに対して「こんなことで落ち込んでいたら、被災者の人に申し訳ない」「不安なんか感じてはいけない」「こんなんじゃダメだ」・・・なんて否定する必要はありません。まず、あなたのなかに湧き上がってくる気持ちを認めてあげてください。それが何よりも大切なことと思います。

私の場合をお話します。大阪にいた息子から「ビルが大きく揺れたのでネットを見たら、東北が大地震みたいや。叔父ちゃん大丈夫?」と、電話が入りました。弟が仙台に住んでいるのでその安否確認の電話でした。全く気付かなかった私はびっくりして、テレビをつけ地震の大きさに震えながら、ドキドキを押さえて弟にメールしました。するとすぐに、「今、仙台にいないから大丈夫。でもすごいことになった。怖い。怖い。」とメールが返ってきました。私は、家族に弟の無事を知らせ、ほっとしました。しかし、しばらくして自分への大きな罪悪感が湧いてきました。たくさんの方が亡くなり、今現在も苦しんでいる最中の方がおられるはずなのに、ほっとした自分への大きな罪悪感と自己嫌悪でした。それから、だんだん悲しみと落ち込みが強くなってきました。津波の映像を繰り返し見ているうちに、吐き気がしてきました。これが、私の2011年3月11日でした。その後も、地震の報道を落ち着かない気持ちで視聴し、そわそわとした自分が数日、いえ今も続いています。皆さまも少なからず、私のようなショックを受けられたと思います。

このように、まず、自分自身に起こっている気持ちを理解してあげてください。

 

次に、身体・・・。

あなたの心と身体は密接につながっています。身体はこころを正直に映します。上記に示したようなお気持の方は、身体に何らかの変化が起こって当然です。ご自分の身体の変化に目を向けてみましょう。

「冷汗」「発熱」「吐き気」「頭痛」「肩こり」「腰痛」「腹痛」「下痢」「便秘」「食欲の変化(過食・食欲不振)」「睡眠の変化(途中覚醒・悪夢・早朝覚醒・過眠など)」「めまい」「だるさ」「持病の悪化」「表情の平板化」など・・・起こることがあります。

私の場合は、はじめは食欲がなくなり、そしてなんとなくいらいらして甘いものが欲しくなり、少し過食ぎみです。寝付きも悪くなったような気がしています。一番びっくりしたのは、原子爆弾が投下されている瞬間の光景が夢に現れ、思わず飛び起きました。福島原発の不安がその悪夢を見させたのだと思いました。

このような、身体への変化は放っておくとストレス症候群を引き起こすことがあります。今のうちからきちんとケアをしなくてはならないと思います。たとえば、消化のいいものを食べたり、身体をほぐすためにスポーツをしたり、温泉に行ったり・・。皆さまもご自分の身体をいたわってあげてください。

 

さらには、考え・・・。

これは、上記の2つより深刻になる場合があります。普段なら、なんでもないことが、過度に否定的になったり、現実に即さない形でマイナス思考になったりしてしまうことがあります。たとえば、「日本はもう終わりだ」「みんな死ぬ」「自分だけ安全な場所にいては申し訳ない」「自分なんて生きる価値がない」「苦しんでいる人がいるのに楽しいことなんてするんじゃない」「誰も助けてくれない」「何をやっても無駄だ」「自分なんて何もできない」「みんな自分勝手だ」「自分は独りぼっちだ」など・・・極端で否定的な考えになったりしていませんか?

このような考えを持ってしまうことも普通のことです。上記の感情に直結しているからです。もし、あなたが今まで述べたようなことが一つでも当てはまったら、どうかゆっくり深呼吸をしてください。落ち着いてからよくまわりを見回してください。

生き延びようと努力している人。その方々を少しでも支援したいと考えている人。あなたを気にかけてくれている人。あなたの助けを待っている人。その人たちの中にあなたはいます。あなたは決して一人ぼっちではありません。

たとえば私の場合。臨床心理士でありながら、すぐにも被災地に出かけて行って援助したいと思っても、遠くて何もできない。自分の無力さを感じ、「罪悪感」「無力感」「孤独感」が悪循環していきました。でも、その考えをゆっくり吟味して「できることは限られているけれども自分にできることがある。」という考えになり、みなさんに園芸療法を用いた支援の輪を作ることを訴え始めてから、これらの考えが減少していきました。前向きにできることを少しずつ、輪を広げながら頑張っていこうと思えるようになっています。

このように、気持ち・身体・考えの反応は当然のことと受け入れながらも、その反面、極端になっていないか、偏っていないかを確かめつつ行動することが大切であると思います。

 

そうです。最後に、「行動」についても吟味してください。「記憶力・集中力・判断力の低下」「なんとなくボーとしている」「同じことを繰り返し考え続ける」「落ち着けない」「攻撃的になり喧嘩や口論をする」「涙が出る」「出かけるのがおっくうになり引きこもりがち」「ニュースを見続ける」「何もしない、何もできない」「仕事が手につかない」「飲酒・喫煙が増えた」・・・などなど。

こういうことも当然に起こることです。いろいろ大変なニュースを聞き、今まで通りの生活を当たり前にこなせるのは難しいです。これもまた、自分の穏やかでない感情を守るために起きている行動なのです。これも自分自身で理解してあげてください。無意識に起こっている行動なのですから。ただし、これは周囲との適応に欠けてしまいトラブルの元にもなることもあります。行動は少し注意をすると改善しやすいので、ご自身で行動の変化に気付いたら、改善のためにちょっと焦点をあて、セルフケアをしてみてください。

 

さて、今までいろいろ述べました。今、あなたは「自分は無力だ」「何もできない」と思っていませんか?そんなことはありません。あなたにはたくさんできることがあります。自分の状態を見極めることができたら、さあ日常のケアをしましょう。

1、身体からケアしましょう。
朝早く起き、きちんと三回の食事を取り、できるだけ運動をし、「当たり前」の日常を取り戻しましょう。また、暴飲暴食傾向の方は、一時的に楽になるかも知れませんが、長い目で見ると健康を害します。できるだけ健康的な方向に改善してみてください

2、自分のためにできるだけ楽しい時間を持ちましょう。
あなたの心と身体は大変疲れています。もちろん被災地で苦しんでいる方のことを思うと休むことや楽しむことは罪悪感がわくかも知れません。しかし、今後支援を長くしていこうと思われるのなら、なおさらあなたのエネルギーを低下させないようにしなくてはいけません。1日のうちに少しだけでも楽しいことをする時間を見つけて、エネルギーの充電に努めてください。また、震災のニュースを見続けることも、不安と心配を増幅させます。時間を区切って、そのようなストレスにどっぷり漬からないようにしてください。

3、考えの吟味
否定的な考え方になっていないか意識を向けてください。否定的な考えになっている方は、是非「自分は自分のできることをすることが一番大切である」と考えてください。被災地で救助している人と同じことをしなくてはいけないのではありません。あなたにはあなたの役割があり、あなたのできることがあるはずです。今、日本人がひとりひとり勤勉に働くことも、自分のケアをして病気にならないことも、募金や身の回りの品物を寄付することも大切なことです。自分とその周囲を大切にすることが、今後の日本を守り、回復させ、復興に導くことであると考えます。つまり、一人一人がくじけないで健康維持をしていくことが、日本全体に大きく貢献することだと思います。

4、気持ちを表現すること
気持ちは押さえつけると爆発するか身体を蝕みます。身近な安全な人の中で表現していきましょう。方法は、①自分自身の気持ちに気付き、認める、②話を聞いてくれそうな身近な人に気持ちを話す、③日記や文章に思いを書いたり、絵・ダンス・音楽で表現したりする ④セラピストに話す・・・・など、色々あります。大切なあなたの気持ちを大切に扱ってあげてください。

5、信じること
テレビで広告機構がコマーシャルを出していますね。「日本の復興を信じてる」「日本人は強い」「私は大丈夫」「私たちは決して負けない」「私たちはつながっている」「日本の団結力は何にも負けない」私も信じています。信じること、祈ることはとても大切なことと思います。

皆さん、一緒に頑張っていきましょう!!

PAGE TOP