里山のキャンパス

当研究科のキャンパスは淡路島北部の中山間の農村にある。1990年代後半、研究科の母体である「兵庫県立淡路景観園芸学校」の設立時にはここ以外の候補地も検討されたそうだが、よくぞこの場所に決めてくださった。場所の選定に関わった方々には、ダブルサムアップと満面の笑顔でお礼を申し述べたい。ぐっじょぶ!である。というのは、当研究科の使命「自然と調和した都市や地域を実現する高度専門職業人の育成」のために、この学校のロケーションが重要な役割を担っているからだ。
良好な里山、そして全寮制。学生の人たちは2年間の里山暮らしを通して、里地里山の生物多様性とその恵みに日々触れられる。また、里地の自然環境の成り立ちや持続のための課題をつぶさに観察し、その解決に向けた試行ができるのだ。どう考えても最高の立地である。

 

キャンパス周辺で生き物の豊かさに触れる

これからのネイチャーポジティブの時代を生きる技術者には、里地里山の生き物の豊かさに触れる体験は必須である(断言する)。当キャンパスやその周辺で見られる里地里山の生き物を少し紹介してみよう。

 


写真1 ニホンアカガエル

 

ニホンアカガエル。毎年1月下旬の深夜にキャンパス内の湿地帯で産卵する。天候から産卵日の予想ができるので、例年、産卵のありそうな日には僕から学生の人たちにメールで連絡をする。興味のある学生は深夜に産卵場所にやって来る。全寮制の良さがここで活きる。 

写真2 深夜にカエルの産卵を観察する学生の人たち


写真3 セトウチサンショウウオ

セトウチサンショウウオ。これも1月頃に産卵にやってくる。かつては山間の水田生態系では普通にみられたものと思われるが、いまでは絶滅危惧種である。

 


写真4 シュレーゲルアオガエル

シュレーゲルアオガエル。4月になるとこのカエルの鳴き声がキャンパス中のあちこちで聞こえる。でも鳴いている姿を見るのはとても難しい。シャイな性格で人目につかない場所に潜んでいる。

 


写真5 アカハライモリ
写真6 トノサマガエル
写真7 ヒキガエル
写真8 ツチガエル
写真9 ニホンイシガメ


アカハライモリ、トノサマガエル、ヒキガエル、ツチガエル、ニホンイシガメなど、各地で減少している生き物が、淡路島の里地里山ではまだ息づいている。

 


写真10 トラフトンボ
写真11 ホソミオツネントンボ



春にトラフトンボやホソミオツネントンボに会えると今年もいきもののにぎやかな季節がはじまったと思える。

 


写真12 ヒメケシゲンゴロウ
写真13 オオマルケシゲンゴロウ
写真14 キイロコガシラミズムシ


最近の僕のお気に入り。体長5mmに満たない微小な水生昆虫類。このような生き物が、地域の自然環境の健全さを表している。

 


写真15 ミズニラモドキ
写真16 サンショウモ
写真17 ミズオオバコ



ミズニラモドキ、サンショウモ、ミズオオバコ、。淡路島は日本一のため池地帯であり、山間のため池では、いまではすっかりめずらしくなってしまった水生植物や湿生植物に会える。いつまでもこういう植物の生える環境が存続してほしい。

 


 

写真18 カワラナデシコ 
写真19 オミナエシ 
写真20 ワレモコウ


カワラナデシコ、オミナエシ、ワレモコウ。これらの草原の植物が比較的健全に残されているのもまた、淡路島の中山間地のよいところ。ただし、これらの自生地は淡路島でも年々減りつつある。

 

 このほか、昆虫では、ゲンジボタル・ヘイケボタル・ヒメボタルのいずれもがキャンパス周辺で観察でき、ときには学生寮に飛来する。鳥類も豊富で、夜になるとキャンパスでフクロウの鳴き声が聞こえ、晴れた日の日中には様々なタカの仲間が上空を帆翔する。また、淡路島の北部は鳥類の渡りのルートとなっており、春や秋の渡りの季節にはサシバやハチクマ、ミゾゴイ、アマツバメなどが通過していく。キャンパス内では、テン、ノウサギ、イノシシをときどき見かける。

写真21 ノウサギ


このような健全な里地里山で暮らしていると、ホタルや猛禽類などはけして希少な生物ではなく、ごく普通の種類であったことが実感できる。このように、生き物の豊かさに触れ、「当たり前の感覚を書き換えること」がネイチャーポジティブの時代の技術者にとって大切だ。なぜなら、良好な自然環境を知らない人は、保全の目標像を低く見積もりがちになるからだ。

とはいえ、エラそうにこんなことを書いている僕もまた、保全のベースラインを適切に思い描けているのかどうか自信はない。常に揺らいでいる。それでも、当キャンパスの周辺の比較的良好な里地里山を知っていることは、知らないよりは断然よい。

 

キャンパス周辺のフィールドで里地里山の課題を考える

豊かな生物相を支えているのは、里地里山の環境である。具体的には、湿田、素掘りの水路、ため池、棚田畦畔、里山林など、人の営みと自然の回復力とのバランスの中で成立した多様な「二次的自然」である。

写真22 素掘りの水路を備えた湿田


しかし、比較的豊かな自然にかこまれた当キャンパス周辺でも、これらの二次的自然の存続には課題が生じている。担い手不足から放棄農地や放棄ため池が増えていることや、里山の林が伐採され太陽光発電施設がつくられることなど、課題は様々だ。二次的自然が抱える課題を知り、解決策を考えるには、現場に頻繁に足を運び、地域の人と会話をし、人間側と自然環境側のそれぞれの現状を整理するといった作業が重要だ。そのような現場主義のためにも、良好な里地里山にかこまれたキャンパスで暮らす意味は大きい。

生物多様性保全のプロを目指したい方は、ぜひ当研究科の受験を検討してほしい。おそらく全国でも有数の、保全技術者のトレーニングにうってつけのキャンパスがここにある。

 



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