林 まゆみ

最近、「生物多様性をめざすまちづくり―ニュージーランドの環境緑化―」という著書を学芸出版社から出していただきました。昨今は、本というものの売れ行きが悪く、出版社にはそれぞれ、厳しい状況らしいのですが、今回出版できたことは大変幸運だったと思います。さて、内容なのですが、そもそも「生物多様性」と「まちづくり」と言う二つの少し離れたところにあるような話題を提供しています。中身については後に記すとして、なぜ、NZの本を出すにいたったかを少し書いてみます。

哲学の変換!、伝統的な教会広場にある自生種をかたどった聖杯

私が勤務する兵庫県立大学は、淡路景観園芸学校と併設されていて、生涯学習講座が大変充実しています。特に「まちづくりガーデナーコース」は年間30日に及び受講プログラムが準備されており、その講座を修了される方は、「まちづくりガーデナー」として認定され、多様な市民活動や専門的な活動にまで入っていかれる方が多いのです。

その講座のなかで、開学当初の1999年からいつも用いていたのが、「ニュージーランドの花とみどりのまちづくり」というビデオです。このビデオは、財団が作ったものですが、19世紀に移民が入ってきた当初から、ニュージーの人々がボランティアなども活発に行いながら、美しいまちづくりを進めてきた様子が大変見事に映像化されているものです。

美化協会会長の自宅の庭園

何年か、受講生の方に見せていると、そのうち、「先生、NZに行って来たわ!」、「素晴らしい街ですね!」などという方が増えてきました。とはいうものの、実は私は行ったことがなかったのです。それで、機会を待っていたのですが、2004年に初めて、クライストチャーチやオークランドなどの都市を訪問したり、地方の美しい自然に触れたりすることができました。市民が日常的にガーデニングに親しんでいることも心に残りました。

家と庭を一体的に楽しむ

しかし、特に印象的だったのは、ミルフォードトラックというトレッキングロードを歩いた時のことです。原生の自然の森を大切に、入場制限がかけられているのですが、それでも大勢の人々がおもいおもいにリュックを背負ったり、あるいはガイドに連れられて、設備の整ったコッテージに宿泊したりと様々なスタイルで山歩きを楽しんでいます。他の国立公園も厳しい規制がありますが、世界中からの来訪者を集めています。 
同時に、各都市の公園や緑地関係の部署をできるだけたくさん廻って、大勢の専門家と話をすることができました。その結果、すっかりNZの虜になってしまいました。

マウント・クック国立公園

それは、NZの美しい自然や明るいまちづくりの様子に感動したことはもちろんですが、そこで暮らす人々が簡素な生活の中にも、豊に暮らす様子を目の当たりにしたり、また、役所や専門家の人々が素晴らしいシステムを作りだしていること、行政と市民、そして専門家の連携が本当に、充実していることに心底驚いたからなのです。

自生種で緑化された河川公園

本を出してからは「NZに住みたいですか?」とか、「NZと日本とならどちらがいいですか?」という質問を受けることもありますが、私は、ぜひ、この日本の中で、発想を転換するきっかけとして、NZの事例を知っていただけたら、というのがこの本を書いた最大の理由です。「哲学の返還」、「暮らしの中のアイディア」、・・・そのような内容を精一杯表現したつもりなのが、この本になります。ぜひ、皆様も読んで頂きたいと思います。

※執筆教員のプロフィールについては、こちら をご覧ください。

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