健康食品市場が拡大するわけ

グルコサミン、ヒアルロン酸、ペプチド、セサミン、カテキン、DHA、・・・ 
最近、テレビCMでこのような健康食品の成分名を聞かない日はありません。

このようにCMがやたら流れる、ということは、「売れている」ということでもあり、今やその市場規模は2兆円に迫ろうという勢いだそうです。(大和総研新規産業調査部レポート)

しかし、ひと昔前はこんな健康食品なんというものはありませんでした。もちろん、精力をつけるために「にんにく」や「ウナギ」を食べたりはしていましたが、あくまでそれは食事の一環としての摂取であり、薬の一種のようにそれらの成分だけを摂取することが盛んになりだしたのは、ここ2,30年のことではないでしょうか。

このように健康食品が売れるのは、人が自分の健康に不安をもっているからにほかありません。

 

健康への不安はどこから来る?

でも、冷静に考えてみると、私たちはそれほど病気の心配がある衛生状態におかれているのでしょうか。

そこで、わが国における死因の原因別の割合を見てみましょう。

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これを見ると、明らかに「三大疾病」(ガン、心臓疾患、脳疾患)が、現代の私たちの死因のほとんどを占めていることがわかります。さらに、それらに続く死因を見ても、事故あるいは、自殺などが続き、衛生状態が悪いから、栄養状態が悪いから、死ぬのではないことがわかります。

同じことを昭和25年で見てみると、その違いは明らかであり、このころは明らかに衛生状態や栄養状態の悪さのために死んでいった人が多かったことを示しています。

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これに対して、現代人が死ぬ原因は、衛生状態や栄養状態が良すぎ、さらに日頃から体を動かさなくなったことに起因する「ぜいたく病」とも言えそうです。

しかも、衛生状態がよい環境が整っていますので、重大な病状を発症したとしても「寝たきり」の状態が長く続くこともあります。

つまり、「ぜいたくな暮らし」ができているのに、病気になってしまい、それが発症したときには重篤なケースが多い、ということが人々にどことなく不安感を与え、その不安感が人々を、健康食品に駆り立てるのではないでしょうか。

 

本人だけの問題ではない

しかし、このような健康状態の人が多くなることは、その本人だけの問題ではなく、わが国全体に大きな影響をおよぼしています。

そのなかでももっとも深刻な問題が、増え続ける医療費や介護費などが財政を大きく圧迫していることでしょう。

たとえば、平成21年度から23年度にかけて、国の一般会計予算がどう推移しているかを、下のグラフで見ても、いかに医療費や介護費を含んだ社会保障費が財政支出の一番多くの部分を占めていることがわかります。

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しかも、この直近の年度の推移が示しているように、高齢化はますますこの傾向に拍車をかけていくことでしょう。

 

高齢化が進めば必ず医療費・介護費が増える、とは限らない

しかし、この状態を手をこまねいて見ているだけでいいのでしょうか。「少子高齢化なのだからしかたない。」とあきらめていていいのでしょうか。

そこで少しこんなデータを見ていただきましょう。

実は、少子高齢化の進展と医療費・介護費の増加には、必ずしもリニアな関係にあるわけではない、という事実があるのです。

下のグラフは厚生労働省の作成によるものですが、都道府県別に見ると一人あたりの老人医療費は県によって大きな違いがあることがわかります。

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さらに、単に県によって違う、というだけではなく、少子高齢化がより進んでいると考えられる地方部の県でも老人医療費が都会部の県より相当低いところがある点にも注目すべきです。

たとえば、老人医療費が少ない県のトップ5に長野県、新潟県、山形県、岩手県という地方部の県が入っており、逆に高額な県のトップ5に、大都市圏を抱える福岡県、大阪府、が入っているのです。

 

元気な高齢者の割合が多くなる環境とは?

では、なぜ長野県などの老人医療費が少ないのでしょうか。残念ながらこの理由はまだはっきりとはしていません。

しかし、その原因を考えていくうえで大いに参考となる以下のようなデータが、厚生労働省の同じ資料に掲載されていました。

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グラフ内の字が小さくて見づらいかもしれませんが、それは、高齢者の就業率が高いほど、一人あたりの老人医療費が低くなっており、両者の相関係数は、-0.491だというのです。

これをもって必ずしも「高齢者の就業率が高くなると、一人あたりの老人医療費が下がる」と因果関係を論じることはできませんが、両者に相関関係があるのは確かです。

とすると、高齢者がいつまでも活き活きと働き続ける環境を整えることは、老人医療費削減の取っかかりになるのではないでしょうか。

でも、高齢者の就業環境を整える、というのは、どのようなことを行えばよいのでしょうか。

高齢者の就業環境として、思い浮かべやすいのは、やはり「農業」ではないでしょうか。

そこで、「人の生活の場に身近に農地がある」という環境の指標として、「住民一人あたりの市街化区域内農地面積」をとり、県別に老人医療費とその相関を見てみたのが以下のグラフです。

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これを見ると、住民の身近なところに農地が多いほど、老人医療費が少なくなる、ということがわかります。

ことは、そんなに単純な話ではないと思いますが、農地も含めた緑環境は、「健やかな高齢化社会形成の切り札」となるかもしれないのです。

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