斉藤 庸平(YOHEI SAITO)
【略歴】計画、造園コンサルタントで実務に従事し、現職
専門は、緑地計画、都市防災計画
地域計画系の演習で、学生諸君とともに取り組んだまちづくり活動<小さな橋の広場づくり>を紹介します。
淡路島北部の漁港の町、岩屋の真ん中を茶間川が流れています。密集した漁村集落にとって、川は風通しも見通しもよい街の環境景観軸ですが、残念ながら現実は、写真のとおりコンクリート3面張り、ゴミが散乱するドブ川です。
演習で、この川をとりあけ、修景計画を考えることをテーマとしました。当校には、計画を立案するだけでは物足りないと思う学生達が集まって来ますので、教室を飛び出し具体的に何かしようということになりました。しかし、河川改修を伴うような本格的な修景が簡単に出来るわけありません。学生達といろいろ考えたあげくたどりついたのが橋の暫定修景(年末年始の期間の竹飾り)でした。ここまでは前回のコラムで紹介しました。今回はその続きです。
竹飾りの試みにより、橋を修景することは、まちの景観向上ばかりでなくコミュニティの活性化に効果があることが分かってきました。
そこで、次の展開として橋の一部を拡大して恒久的な緑化空間創出に挑戦することにしました。
<プラン概要>
茶間川にかかる中道橋(町管理)は、現状でも庭のない近隣の住民(特に高齢者)が集う憩いの場ですが、幅3mと極めて狭く、自動車が通行する際には危険な状況となっていました。この橋を上下流側に約1mづつ拡大し、憩いのグリーンスポットを創出するというものです。木製デッキ、コンテナ植栽、簡単なベンチというシンプルな構成としました。なお、できるだけ地域周辺に自生する低木や草花を選びました。
<先立つもの=お金の検討から>
最大の課題は、お金=整備費をどうやって確保するかでした。淡路町の財政状況では、整備費の道筋が示せない限りどんな計画を提案しても、絵に描いた餅になります。試しに町の財政部局の方に打診してみましたが、「とんでもない」と予想どおり否定され警戒感すら持たれました。数十㎡の小空間でも、数百万円以上の整備費用がかかります。そこで、様々な緑のまちづくりに対する補助制度や助成金を調べることにしました。いろいろ探すとあるもので、最大1,000万円の緑化助成金がでる「緑のデザイン賞」(財団法人都市緑化基金、第一生命保険相互会社主催)を見つけ、これに挑戦することにしました。もちろん入選(4~5団体/年)しなければなりませんが、目処は立ちました。
<推進は協働で>
具体的になると、緑化空間設計、助成金の応募書類の作成以外に、河川管理者である県との協議、住民説明、町議会説明など様々な課題が生じてきました。
そこで竹飾りでできた町役場職員の方や住民の方との絆を基にプロジェクトチームを設置し、このチームを中心に推進することとしました。
<実現化へ>
ドキドキでしたが幸いにも緑のデザイン賞に入選し、実現にむけ踏み出しましたが、いくつかの課題がありました。第1は、計画検討の過程で橋本体を補強した方がよいことが判明しました。しかし助成金は緑化以外には使えません。これについては、町長と建設課長の大活躍で、町議会を説得し町で負担してくれることになりました。第2は、実現の段階で近隣の住民の一部の方から、不良のたまり場になるとの懸念が表明されました。これについては教員、学生、若手職員で丁寧に説明を繰り返しなんとか納得してくれました。これら様々な経過を経て完成したのが下の写真です。
<住民管理>
ようやく完成しましたが、当初、住民の方は近寄りませんでした。そのような時、近隣のおばちゃん達と話す機会があり、なぜ利用しないのと聞いてみたら、町の施設だから許可がいると思っていたと誤解されていたことが分かりました。自由に使ってくださいねと説明したところ、さらに植物もいじって良いか訪ねられました。実は皆さん、大の植物好きで、植栽をお任せすることになりました。それからは、約10年経過した今でもきれいに管理してくれています。また、これをきっかけに高齢者の方の社交の場となり、夏場は多くの方が集う場となっています。ところでこのおばちゃんグループは、かつて整備に懸念を表明された方達です。いまでは中道橋広場の最大のファンです。
このプロジェクトに参加した学生達は、とっくに卒業し専門家として活躍しておりますが、今でも自分の原点ですと言ってくれています。私にとっても、多くの思い出とともに貴重な体験をすることができました。興味のある方は学校に来てください。もっと詳しくお話しますよ。
さて、次回は、淡路島には瓦、線香などユニークな地場産業があります。これを活かした地域活性化計画演習を紹介します。