兵庫県立淡路景観園芸学校園芸療法コース講師 
臨床心理士 
天野 玉記

皆さまは表題の「原風景」という言葉を聞いてどのようなイメージを持たれるでしょうか?
最近流行の「日本の原風景」と題された写真や「山里の合掌造りの集落」を思い描かれた方が多いのではないかと思います。しかし、心理学における「原風景」とは、極めて個人的な幼年期の記憶の中にある風景または青年期の自己形成における深層意識に貼りついた心のイメージのことで、一般化された風景のことを指しません。
そこで、ちょっとあなたの「原風景」を探る旅をしてみましょう。

白い紙と鉛筆を用意して下さい。(勿論、本格的に描きたい方は絵具などを用意して頂いても良いです。時間がない方はただ思い出すだけでも結構です。)
ご準備ができましたら、ご自分が生まれて初めて見たであろうと思われる風景を思い出して下さい。
その思い出した風景を紙に描き始めて下さい。たとえば、自分の家はここで、隣には○○君の家があって、家の前に道があって、道の向こうに公園があり、その横に交差点があり信号があって・・・などなど。人によっては住宅街であったり、繁華街のマンションであったり、漁村であったり、山間の田舎であったりします。また、風景と共に波の音や風、匂いなど五感を伴った記憶が出てきたりします。そして、それは不思議と自然に関連する風景が多く、緑の景観が鮮明に浮かび上がってくる場合や生き物が出てくる場合が多いようです。

先日、20歳の息子が何気なく友人と話しているのを聞きました。
「俺んち転勤族でなぁ、世田谷の環七通り沿いの街の中に住んどってん。(すっかり関西弁になっている息子)。それで、大学受験の時に東京をグーグルで色々検索してたんやけど、ふと自分の住んどった東京の町を探したろうと思って調べたんや。そやけどなぁ、わからへんでなぁ。そんで、どんどんクローズアップさせてみたら、初めて自分のおったとこが分かったんや。びっくりしたわ、あんな狭いとこを広い世界のように思どったんやなぁ。ほんまに子供の頃は半径500メートルくらいが世界のすべてやったみたいや。(私は本当に面白くなって、ますます聞き耳をたてた。)お兄ちゃんと2人だけで決死の覚悟で行った公園のことを、もっと遠いところの公園で、2人でこっそり冒険していると思ってたんやけど、地図でみたら道路を挟んですぐ目の前の公園やったみたいで・・。そこにあった池なんて幼稚園の簡易プールぐらいの大きさでなぁ。そやけど俺のイメージでは、ジャングルみたいな森とか、木の遊具とか、池に住んでいた亀とか、オタマジャクシとか・・・。ほんまに色々おって、俺にとってはあそこが世界やったわ。あの公園、なんか懐かしいなぁ。今行ったら、たぶんちょっとした木があって浅い池があるだけのしょぼい公園なんやろうなあ。」と。息子は「あの公園にまた行ってみたいなぁ」とつぶやいていました。

人が癒しを求める空間というのは、記憶の中にある「原風景」とそれに伴うあたたかい思い出や心地よい感情、そして命の発見に結びついた景観なのかもしれないと思います。

今回あなたの描かれた「原風景」の世界はいかがでしたか?
現代社会で生きる心にちょっと閉塞感を感じ、癒しを求めたいと思われているあなた。一度ご自分の「原風景」を思い出し、その風景に似た空間に身をおいてみるのもいいかもしれません。また、そのような景観や環境を作る勉強をしたり、空間を演出する職業に携わるのも楽しいかもしれません。淡路景観園芸学校に見学にいらして下さい。あなたの心の中にある「原風景」に出会えるかもしれません。

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