移動はすべての活動や参画の基本。この移動空間のあり方はユニバーサルデザインにおいては1丁目1番地。まちのあちこちにある段差や急な傾斜といったものは、ながらく障がいのある人々にとっての大きなバリアとなってきました。いまでは、大規模で公共性の高い施設、駅や官公庁、病院、学校周辺の徒歩空間などを中心に整備がなされ、移動円滑化に関しては法的にも義務化となりました。
この際の原則は(だれもが同一経路を)。これは、車椅子やベビーカーの人だけ別ルートはかわいそう・・・的な面もないではないですが、大きな理由はやはり運用面。安全確保や日々のメンテを考えても、一般ユースのなかに、より多くの人を取り込んでいくことが肝要です。
図は、当研究科がある淡路緑景観キャンパス。いろいろな法整備がなされる前の整備かつ丘陵地にもかかわらず、主要な施設間は階段なしに移動できます。地味ですが、なかなか実現できることでもなく、基本計画の段階でしっかりと考えられていたことがうかがえます。
一方で、我々が対象とするような公園緑地においては、丘陵地に立地するなど環境的な制限、あるいは日本庭園や城郭など歴史文化的な制限などから、移動円滑化の実現が難しい場合が少なくありません。このような真のアクセスが難しい場合には、そのアクセスが保障している楽しみや体験を適切に把握しつつ、まずは視覚的アクセスの確保を考え、それも難しい時には、何か別の代替体験を提供するなどが検討されます。このような考え方は(プログラム・アクセシビリティ)と言い、米国の国立公園などでユニバーサルデザインを考える際に用いられています。プログラムというと、イベントや催しなのかな?と思ってしまいがちですが、そうではなく、目的をもったひとまとまりの行動群という意味合いでプログラムという言葉を使っているようで、例えば、キャンプをする・景色を楽しむ・ビジターセンターで情報を集める、のようなものに相当します。このプログラム毎に、現状では、どういった人に不具合があるのかていねいに調べ、それらの解消方法を多様なアプローチで考えていきます。
写真は神戸市立相楽園。日本庭園あり、重要文化財が3つもあり、移動円滑化が一筋縄ではいきません。特に、日本庭園は魅力とトレードオフとなってしまいかねませんので留意が必要ですが、ここでは、車椅子を利用している人などで、真のアクセスは難しいものの、その風致が視覚的に楽しめるように移動円滑化の整備をしています。また、これ以外にも利用者さんの実際の動きを見ながら、少しづつ細かな改善を進めていて、お手製の手すり作成や管理通路の活用など、ルールうんぬん度外視で、(プログラム・アクセシビリティ)を地で行く、上手な対処がなされています。
最近では、環境省の自然公園等施設技術指針などにも、これらの考え方が明記されるようになりました。それらを見ると、まずは利用者さんの目的をしっかり把握、それらを妨げるバリアを確認した後に、その解決方法を多様なアプローチで考えよ、必要であれば空間を切り分けて柔軟に考えよ、などとの記載があります。公園の移動円滑化を考える上で、この技術指針は大変によくできていて、ほぼ完璧、非の打ちどころなしと思います。あとは、現場レベルでの様々な工夫がうまく共有されれば、さらに言うことなし。今後に期待したいものです。