嶽山 洋志

 幼児にとって自然や動植物とのかかわりは、その対象を命あるものとしてとらえ、心を動かし、多くのことに気づく経験に繋がります。幼稚園・保育所においてはこのような幼児が自ら「気づく」活動を大切に考える必要があり、そのような学びの環境づくりは非常に重要であるといえます。森のようちえんや園庭ビオトープなどは、そのような子どもの多様な気づきを誘発する環境として日本でも注目されつつあります。ここでは特に幼児期の子どもを対象に、このような環境での自然体験について考えてみたいと思います。

 まず、先に挙げた「森のようちえん」での自然体験についてみてみたいと思います。森のようちえんとは、森そのものが保育の場になっている幼稚園であり、園舎は基本的にありません。従って毎日が野外活動であり、自然を活用する術を子どもは主体的な遊びの中で身につけていきます。また、他者と協力し合って課題を克服するといった社会性などの多くの力も身につけていきます。森には遊具などの装置はありませんが、幼児にとってすべてのものが揃っているといえるでしょう。また、幼児期の子ども達は森の中に放たれた時、暗闇には決して近づかないし、斜面では重心を下げておそるおそる登っていきます。けがをするとすればクラフトをしている時くらいです。一見、森の中に幼児を放つことはリスクが大きいように思われますが、“幼児期の子ども達は自然の中では臆病な生き物である”という意識を大人が持つことも大切なことかと思います。このような環境の中で育った子どもの発達的特徴としては、保育士の視点から「乱暴性がなくなる」「友達のいうことを聞き入れるようになる」「考え方がおおらかになる」「物事を大きくみるようになる」などの変化があることが報告されています。

写真1:ドイツの森のようちえんでの一コマ。子ども達は毎日が野外活動なので、長そで長ズボン、登山靴で生活を送っている。


 また、幼児期の子ども達に対する環境学習においては、「何を伝えるか」という中身の議論よりも「どう伝えるか」という手法の議論に多くの時間を割く必要があるのではないかと思います。写真はドイツのLBV(ドイツ・バイエルン州野鳥保護協会)で開発されたエコトランクと呼ばれるもので、中には臭いや手触りなどの五感を刺激する教材や絵本、虫メガネの付いた捕虫ケースなど、こども達の興味を引くように楽しくデザインされた教材が入っており、ドイツでの自然体験の現場で使用されています。動植物や環境を学ぶことを目的に環境学習をおこなうのではなく、遊びの中で動植物や環境のことが気になったり気づいたりすることができる教材(おもちゃ)が創れるといいなと思います。

写真2:ドイツで使われているエコトランク。


※執筆教員のプロフィールについては、こちら をご覧ください。

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