学生用の薪ストーブを導入

 当研究科は淡路島北部の山の上にある。キャンパスの周囲には淡路島の典型的な農村景観が広がっており、里地里山の良好な生態系を観察したり研究したりするのに最高の立地だ。大学院生は学校敷地内のレジデンス(完全個室型の学生寮)に住む。つまり当研究科に入学すると漏れなく、2年間の島暮らし・里山暮らしを体験できるようになっている。
 2年間の里山暮らしをより学びの多いものとするべく、2020年にレジデンスの集会室に薪ストーブを導入した。薪を使う暮らしの体験を通して、森林の管理・活用・保全についてより多くのことを学んだり、考えたり、思いついたりするようになるだろうと、教育的効果を期待しての導入である。実は僕自身が数年前から薪を使う暮らしをつづけていて、その体験を通して多くの学びを得てきた。これをぜひ学生の人たちと分かち合いたいと考えたのだ。

レジデンスに導入したドブレ社(ベルギー)の薪ストーブ。クリーンバーン方
式で大気汚染物質の発生を抑制。炉内でオーブン料理ができます


薪ストーブとSDGsと様々な誤解

 さて、2022年のお正月、某新聞が“薪ストーブを使う暮らしがSDGsに適している”といった内容の記事を掲載したところ、SNSでは「薪を使うことはむしろSDGsに反する」との批判が乱れ飛び、ちょっとした炎上騒ぎとなった(薪だけに)。

 しかし、そこで出てきた批判は、薪や薪ストーブのことを知らない人たちが誤解に基づいて述べているものがほとんどだった。このときにSNSに飛び交った批判は以下のものに大別できる。
・薪を燃やすと二酸化炭素が出るので脱炭素に反する
・薪をとるために森林破壊がおこる
・煤煙が大気汚染を引き起こし、健康被害を出す
・脱炭素を実現できるほどの森林資源はない

 はじめの3つについては「固定した炭素を放出しているだけでカーボンニュートラル」「現在は、森林の放置(管理不足)による生物多様性の低下などが問題なので、適度な伐採はむしろ好ましい」「1990年代以降の欧米の薪ストーブは厳しい排ガス規制をクリアしているので、乾燥した薪を使うかぎり、煤煙の問題はほぼない」と、日々薪を使う暮らしをしていれば、簡単に反論できそうだ。
 4つめに関して、それほどの森林資源がないのはそのとおりだが、そもそも元の記事中でも電気・ガス・石油のすべてを薪に代替できるなどとは主張していない。

 

薪を使う暮らしから何を得るか

 薪を使う暮らしでの学びは多岐にわたる。薪の製造から消費までの段階で区分するなら、(1)森林の木の伐採と運搬、(2)原木からの薪づくり、(3)薪の乾燥・保管、(4)薪の使用・燃焼、(5)燃焼後の灰、以上の5段階の体験で、各段階に必要なスキルが得られそうだ。さらに、それらと(a)生物多様性保全と森林の再生、(b)低炭素(脱炭素)、(c)再生可能エネルギー、(d)防災、(e)生態系サービス、(f)農村文化に関する知識との相乗効果で様々な気づきが得られるだろう。

 例えば……
・どのくらいの大きさに育った木を伐採するのが合理的か
・山で伐った木を家まで運ぶことを考慮すると、薪用の林と建材用の林をそれぞれどこに作るのが良いか
・伐採したての原木としばらく放置した原木では、薪割りしやすいのはどちらか
・割った薪をどのように保管すれば菌による腐朽を防げるか
・積み上げた薪は生物生息空間(ビオトープ)としてどのくらい機能するか
・薪で暖を取るとしたら一冬にどれほどの量の薪が必要か
・それにはどのくらいの面積の森林を伐ればよいか
 ……など。みなさんはこれらの質問に答えられるだろうか。

 薪に関する上記の知識やスキルを体験的に得ておくと、里山景観の保全・創出や、森林の生物多様性の保全、公園緑地を活用したレクリエーションプログラムづくりなど、緑景観のプロとして働くときにきっと役に立つはずだ。今ここでは上記の質問のこたえはあえて書かない。ぜひ自分で体験して、こたえをみつけてほしい。

キャンパスガーデンの剪定枝や実習林の間伐材を有効活用。薪を使う暮らしは、
エネルギーを自給する暮らしです

 


 

 

 

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