兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科
教授 藤原 道郎

写真で斜面の位置によって植生が異なることがおわかりだろうか。斜面上部は緑色のアカマツが優占する常緑針葉樹林、斜面中部から下部では茶色のコナラやアベマキが優占する落葉広葉樹林、斜面下部は緑色の植栽由来のモウソウチクが優占する竹林となっている。これらの植生配置は地形のみならず人間活動の影響を受けたものである。

もともとはシイやカシといった常緑広葉樹林で覆われていたと考えられるが、燃料を得るために森林伐採が繰り返されたことによりアカマツ林へと変化した。西日本では広くアカマツ林が優占し人々の生活に必要な資源を供給してきた。

ところが、この30年ほどの間にマツ枯れと呼ばれるマツザイセンチュウ病を主な原因としたマツの大量枯死により、アカマツ林は急激に減少した。マツザイセンチュウ病はマツノマダラカミキリによって運ばれるマツノザイセンチュウという線虫がマツの樹体内で増殖する際に、マツが水を吸い上げる機能が衰えることにより生じるものである。マツノザイセンチュウは明治期に日本に侵入した外来生物と考えられている。一方、1960年代以降の木質燃料から化石燃料への変化や化学肥料の使用にともない、森林伐採や落ち葉掻きなど森林への関与が減少したことにより、アカマツ林において、林床の土壌の肥沃化、コナラやアラカシなどのブナ科の樹種や耐陰性の高い種の定着も生じ、アカマツ林からコナラ林、アベマキ林やアラカシ林などへの遷移の進行しつつあった。このような遷移は斜面下部で起こりやすく、遷移の進行したアカマツ林でのマツ枯れが著しい。

写真に示したような目の前に広がる植生も自然と人間活動との関わりにより生じたもので、これらの関係を明らかにすることがこれからのよりよい人間活動の基礎になる。

植物は生産者として生態系の基礎であるが、その植物は個々ばらばらに生育しているのではなく立地環境や自然や人為の撹乱などに応じてある一定の種類組成や構造を持った植物群落としてとらえられる。植物群落の空間的な広がりや時間的な変化の解明は興味深いだけでなく、これからのより良い人間活動へのヒントがつまっている。それらを明らかにし、応用していくことが植生学および景観生態学としての重要な役割であり、このような観点での地域貢献が現在進行中である。

 

 

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