グリーンインフラとは「自然環境が有する機能を社会における様々な課題解決に活用しようとする考え方」で、特に米国で良く見られるのが、雨水の排水システムに自然の力を利用している事例です。

写真1 駐車場の一角に緑地帯を設け、道路に傾斜を付けて、緑地帯に雨水が流れるようにしています(Woman’s hospital)
写真2 雨天時に種子が拡散するので、自生種を用いることは大切です(St. Louis public media common)


写真1や2はもともとコンクリートだったところをはがすなどして植栽地にしている例ですが、降った雨は地上部を流れて排水溝に注がれるだけでなく、一部は植栽箇所から地下に浸透します。その結果、大雨が降ったとしても、従前よりか排水システムへの負荷は軽減され、街に水が溢れかえるといった災害のリスクが減ることになります。

写真3 貯めながら流す。この公園では89,000ガロンの水を貯めることが出来ます(NORA STORMWATER DETENTION LOTS)


また、写真3は公園の中に窪地を作っている例ですが、大雨が降った際に一時的に雨水を貯留することができ、一気に大量の雨水が排水溝に注ぎ込むことを軽減しています。集中豪雨などの自然災害を想定した際、これらの事例のように、いかに「ゆっくり」排水するかは非常に大切なことで、台風や梅雨前線等の影響による洪水被害をほぼ毎年のように受けている日本においても重要なテーマであるといえます。

写真4 立体型のレインガーデン(Perez Art Museum Miami)
写真5 余分な水はパイプを伝って別のお庭に注がれます(Perez Art Museum Miami)


さらに、グリーンインフラは災害のリスクを懸念するだけでなく、ランドスケープとしていかに人に愛される空間とするかということも重要です。写真4と5はマイアミにある美術館のエントランスに設置されている、立体型のレインガーデンです。棒の下に水を受けるお皿がないものと、あるものとがあり、ないものは雨水がその下のガーデンにしたり落ち、あるものはパイプを伝って別の敷地に運ばれる、そんな構造になっています。

写真6 大雨と洪水の両災害に対応するとともに、市民利用にも貢献する広場です(First Avenue Water Plaza)


さらに、写真6はニューヨークのイーストリバー付近にあるポケットパークで、周囲に雨水浸透のための植栽帯を設けるとともに、中央には飛び石で子どもたちが遊んだり、周辺の商業施設を利用される方々が休憩したり出来る小さな噴水デッキが設けられています。ちなみにこの噴水のデッキには傾斜が付いていて、水の増減を視認できる構造になっています。このように米国のグリーンインフラの主流は、防災機能に加えて、レクリエーションや交流、教育などの機能も合わせ持っており、雨水を資源として利用することや、雨水に対する人々の認識に変化を与えることなども求められています。

写真7 右:レインバレル。雨樋からの雨水を一時的に溜めています(出典: Water Wise Workbook, Water Wise Gulf South)左:第7地区でのプランターづくり(New Orleans 7th Ward)


ところでインフラというと大規模な印象がありますが、小規模な取り組みもあります。例えば写真4の左は、コンクリート製のプランター(この後、自生種のミキナシサバルを植栽)を市民が作っているところで、プランターの上部に穴が空いていますが、大雨が降った時はプランターに水を貯めるとともに、余分な水はその穴から排水される仕組みになっています。あるいは右の写真はレインバレルと呼ばれる雨水を貯めるタンクで、プランターと同様に雨樋からの水を引き込みながら、余剰分は排水される仕組みになっています。

これらはGlobal Green USAという市民参加型でグリーンインフラ整備を進めるニューオリンズの団体の取り組みですが、同時に人材育成のプログラムも行われており、地域のアセスメントと提案を出すトレーニングや、レインバレルの制作などものづくりの技術、そこで使われる自生植物の知識、メンテナンスの方法などを市民は学んでいます。このような小さな取り組みの積み重ねで、街全体が大きな遊水池になり、災害のリスクを軽減させることが出来ます。皆さんの街でも取り組んでみてはいかがでしょうか?





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