藤原 道郎

 「アジア東岸域の環境圏とそれに依存する経済・社会圏の持続的発展のための総合研究」「アジアの環境・文化と情報に関する総合研究」というテーマで東京情報大学を中心とした中国,ロシア等の海外研究機関との共同研究に参画している。東アジアは大陸東岸に位置し、モンスーン気候によって多湿な環境が形成され水田耕作に代表される特有の景観構造を持っている。黄河や揚子江(長江)流域で発展した文明など,古くから自然環境に人為的影響が加えられてきた地域であるが,現在では急速な経済発展に伴い,さらに人為的影響が増大している。

図1.尾根近くまで続く棚田状の水田(浙江省奉化市溪口鎮黄沙坑村)

東アジアの自然環境の傾度には,南から北への温度変化,沿岸から内陸への湿度の変化,低地から山岳地への標高の変化の3つの軸があり,人為環境の傾度として自然域から都市域への軸がある。これらの軸を基に,自然環境と人との関係を明らかにし,自然環境の持続的利用の方法を構築することを目的としている。中でも,東アジアの風土的・文化的基層を形成する水田農業景観の構造と保全策を明らかにすること,水田景観をMNC(Man-Nature-Culture)システムとして捉えて,水田景観構造の地域的な特徴を明らかにすること,そして生物多様性を保全するなど自然環境に調和した,持続的な農業形態の在り方を提示することを目的として,中華人民共和国の浙江省,雲南省,四川省などを中心に調査を行ってきた。

図2.農地まで牛を連れていく(浙江省奉化市溪口鎮黄沙坑村)

浙江省奉化溪口鎮黄沙坑村における水田およびその周囲の二次林などの植生と住民の管理形態に関する調査では,尾根―谷という地形経度と集落からの距離というアクセスのしやすさという経度により,土地利用・植生の分布が規定されていることを明らかにした(Fujihara et al. 2010)。棚田状の水田が尾根近くまで続き(図1),農民は牛を耕作地まで連れて行き(図2),牛は途中の畦畔草原の植物を食べていた(図3)。現在,淡路島においても放棄水田での牛の放牧がはじまっており,畦畔草原の維持のためにも重要な試みであると考える。学生の演習のテーマにもなっており,淡路島をフィールドに活躍する学生を求めている。

図3.畦畔草原で草を食む牛(浙江省奉化市溪口鎮黄沙坑村)

Fujihara M, Hara K., Da L, Yang T, Qin X, Kamagata N, Zhao Y. 2010. Landscape and stand structures of secondary forests affected by human impact in a hilly rural are in Zhejiang Province, China-Influence of fuelwood collection-. DOI 10.1007/s11355-010-0141-0, Springer

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