城水 麻衣子

私はこの4月にインストラクターになるまでは、ランドスケープの計画・設計の仕事をしていました。「設計の仕事をしています」というと、たいていは建物の設計だと思われるようです。建築家は「アーキテクト」ですが、私たちは「ランドスケープアーキテクト」あるいは「ランドスケープデザイナー」などと呼ばれます。人と自然をつなぐ、幅広く、奥深く、けれどまだ一般にはあまりなじみのない仕事。関わってまだ十数年ですが、私なりに感じてきた魅力の一端をお伝えしたいと思います。

ランドスケープとの出会い 
私の大学時代の専門は生活経営学。ここで学んだ事は身近な環境をどのように快適にマネージメントするかということ。一般的には、「ランドスケープ」とも「デザイン」とも関係のない分野ですが、その延長にあるものとして、美しい景観づくりや街並み形成にも興味を抱いていました。
この仕事を目指す直接のきっかけとなったのは、ある雑誌の記事を読んだことです。ランドスケープのコンサルティング会社に勤める女性が、公園づくりの仕事を紹介したものでした。なんて夢のある楽しそうな仕事だろう!と思いました。中でも、「緑や自然が好きな方なら、誰でも入って来られる分野です」…この一文が強く心に残りました。
折りしも就職活動の真っ只中。いろいろと悩んだ挙げ句、先生や先輩方のアドバイスもあって、ランドスケープの専門を勉強するために進学することに決めました。

国営公園の広場

夢、実現?
卒業後、晴れてランドスケープの仕事に就いたのですが、内容の幅広さは想像以上でした。
街区公園から国営公園までさまざまな公園をつくる仕事に係わりました。初めて設計した公園が現実の空間となった時、素直に感じたことは「図面に描いたとおりの形ができるものだなあ」ということ。もうひとつは、「だけど植物は描いたとおりの形にはならないなあ」ということでした。


整備された里山林

新しく「つくる」仕事ばかりではありません。「保全」「管理」「改修」など、つくらないタイプの仕事もあります。里山林整備もそのひとつ。人が使わなくなって荒れた森を整備し、生物多様性を高め、レクリエーション等に利用する計画を立てるのです。
具体的には、どの樹種をどれだけ伐採するか、散策路をどう通すかなどを設定します。森の利用プログラムや管理運営の組織づくり、実際のイベント運営もありました。整備の後にどれだけ人に関わってもらうかということが目標。時間も空間もスケールの大きなデザインです。

冬の景観を彩るプランターの緑

こんな大きな緑を扱うかと思えば、もっとずっと小さな空間もあります。個人の庭や建物に添える緑などです。街なかでは様々な要素が一体となって美しい景観をつくり出します。建築物、舗装、街路樹、プランターの花、照明灯、ストリートファニチャー等々。みんな総合してランドスケープなのですが、実際にデザインする対象はその一部だったりします。例えば小さなプランターの植栽。何をどう植えたら良いでしょう?…やっぱり街の景観全体や環境や人々の活動に与える効果をよくイメージして、配置や樹種に頭を悩ませるのです。
街路樹が葉を落とす冬枯れの季節に、プランターは日光をたくさん浴びて花の彩りを増す。そんな微妙な関係性や時間の変化もまた、緑のデザインならではのおもしろいファクターです。

長く快適な空間づくりを目指して
仕事をしていると、実際に空間が出来上がった時、その空間で誰かが楽しんでいる姿を見た時、クライアントに喜んでいただけた時など嬉しい瞬間があります。一方で、なかなか満足できない課題のひとつは、生命ある自然や緑を適切に扱うことです。
植物のこと、環境のこと、それを使う人のこと、管理する人のこと。それらを良く知って、緑にとっても、人にとっても末永く快適な空間をデザインする。その楽しくて難しい課題に日々取り組んでいます。

おわりに
本校には各種の専門領域があり、私はデザインを担当していますが、どの領域とも密接な関わりがあることを実感せずにはいられません。実際、デザインに困っても、さまざまな専門の先生方に相談することで解決の方向が見出せます。そして、多種多様な植物の育つこのキャンパス空間!デザインイメージが沸きにくい時、すぐに実際の植物や空間を見ることができます。
学生の中にも、私のように他分野からそれぞれの思いを抱いて入学してきた人がたくさんいます。目指す道はさまざまですが、緑と人に関わっていく未来の同志として、一緒に学びながら成長したいと思っています。

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