古い墓地は草原の植物をまもっている

澤田 佳宏

 

教員コラムpart1では,草原生生物の重要なすみかである半自然草原が減っている,というおはなしをしました。part2では,本研究科の授業の一環として半自然草原の創出に取り組んでいる,というおはなしをしました。今回は,「お墓」には消えゆく半自然草原のなごりが見られる,というおはなしです。

 

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淡路島ではカヤ場(屋根材や家畜飼料を得るためのススキ草原)のような広大な草原はみあたらず,半自然草原といえば,田畑のまわりの畦畔草原が主要なものとなっています。しかし近年,大規模な圃場基盤整備によって,昔ながらの畦畔草原は急速に失われつつあります。圃場整備後の畦畔では,ツリガネニンジン・ヤマハッカ・カワラナデシコなど,特定の草原生植物が欠落することが知られています。

さて,淡路島の北部には,伝統的な「両墓制」の墓地が数多くみられます。両墓制とは,遺体を埋葬する「埋め墓」(共同埋葬地)と,おまいりのために墓石を建てる「詣り墓」を別々の場所に設ける葬送方式で,かつては近畿地方を中心に広く分布していました。火葬の発達によって両墓制墓地への埋葬は減っていると言われていますが,淡路島北部では,伝統的な「埋め墓」「詣り墓」が今でも多数残されており,地域の人々によって掃除や草刈りなどの手入れがおこなわれています。そのような墓地には江戸時代からつづくものもあるようです。

2010年の秋,本研究科の学生・高島基郎君が伝統的な墓地46ヶ所において植生調査を実施しました。その結果,31ヶ所の墓地に,畦畔草原とよく似た種組成の半自然草原が成立していることがわかりました。これらの墓地ではチガヤ・ススキ・ネザサなどが優占し,ツリガネニンジン・ヤマハッカ・アキノタムラソウ・タツナミソウ・ネコハギ・ミヤコグサなど,圃場整備によって欠落しやすい草原生植物が混生していました(写真1)。絶滅危惧種ツチグリ(写真2)の生えている墓地もありました。いずれの墓地も,年1回から数回の草刈りがおこなわれており,このために草原植生が維持されているのです。

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写真1 ミヤコグサが咲き乱れる墓地の草原

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写真2 ツチグリ

 

また,このような半自然草原を有する墓地の約半数は,その周囲で圃場整備が実施されており,墓地だけが造成を免れて,島のようにして残っていました(写真3)。造成されずに残っていることも,半自然草原が残るポイントだと考えられます。

そこで,圃場整備などの開発の際に墓地を残すのは一般的なことかどうか,地域の方々にインタビューをおこないました。その結果,“圃場整備や市道・県道の敷設は,墓地(とくに埋め墓)を避けておこなわれることが多い”“お墓には先祖が眠っているため,壊しにくい”“共同の墓地は土地の所有が複雑なので手続きがややこしくて開発しにくい”などの声が聞かれました。伝統的な墓地は草原を開発からまもっているといえるでしょう。

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写真3 圃場整備は墓地を避けておこなわれている

 

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旅行にいったときに,新幹線や特急列車の窓から景色を眺めていると,丁寧に草刈りがおこなわれた小さな古い墓地があちこちで目につきます。こうした墓地には,その地域の半自然草原のなごりがみられるかもしれません。

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