ナルトサワギク (Senecio madagascariensis Poiret)は2006(平成17)年2月に特定外来生物に指定された南アフリカおよびマダガスカル原産のキク科キオン属の植物である.日本では1976年に徳島県鳴門市で確認されキャンパスのある兵庫県淡路島でも南部を中心に広く分布している.毒性を有し,牧場や採草地への拡大に対し注意する必要があり,家畜への健康被害が生じているためオーストラリアでは防除活動の指針なども作成されている.淡路島においても畜産業も営まれており,生物多様性のみならず畜産業など生業への影響も懸念される.分布拡大を抑えるためには分布状況と生態的特性の解明は欠かせない.
Sindel and Michael(1992), Tsutsumi(2011)によるとナルトサワギクの生育範囲(最適値)は,年平均気温は12.3-20.1℃,最も暖かい3か月の平均気温は23.5~27.7℃(25.4℃),最寒月の平均最低気温は-1.7~4.8℃(1.9℃) ,年降水量は614~2397mm(分布の90%は681~1668mmの範囲)とされる .淡路島の3か所の気象観測データによる1981年~2010年の平年値は,年平均気温15.5~16.2℃,最も暖かい3か月の平均気温25.0~26.1℃,最寒月の平均最低気温1.4~2.4℃,年降水量1001.8~1194.8mmであり,生育地の気温および降水量の中央値および最適値に近く,淡路島が気候的にナルトサワギクの生育に適しており,すなわち淡路島は日本における分布のほぼ中心といえる.
当研究科/淡路景観園芸学校では,これまで,分布調査に加え防除研修会や防除活動を行ってきた.また,淡路3市はチラシやweb siteで注意喚起を行い,淡路地域ビジョン委員会では広範なアンケートによる分布確認と意識調査を行っている.その結果,島内での認識は比較的高いものの全島での分布減少には至っていない.
淡路島内における生育地の立地環境は乾燥立地のみでなく湿潤立地にも分布しており水分条件に対しては幅広く適応している.オーストラリア東海岸の分布地も降水量の範囲は広いことが明らかとなっており,湿潤な日本でも分布可能であることを示している.一方,光環境に対してはオープンな立地にのみ生育しており,光環境は分布拡大および抑制に重要である.
北部では分布報告がない地域が比較的見られたものの全島での広範な分布が確認された.特に南東海岸の県道75号沿いおよび南部の諭鶴羽山系に位置するダムとダムに通じる道路周辺での分布報告が著しかった.
1997年以降に竣工したダム付近の道路法面に高優占度の群落が多く見られたのに対し,1980年代以前竣工のダム付近にはほぼ見られなかった(図1).分布自体の記録はあるものの淡路島における分布拡大が顕著になったのは1990年代後半である可能性が示唆された.
生育個体数が少ない場合,抜き取りによる分布拡大抑制の可能性はあり,防除活動の継続は重要である.先日も放棄耕作地に1株ナルトサワギク生育しているのを発見したので,ナルトサワギク防除のチラシを使用し除去の必要性を説明することで抜取りができた(図2,3).一般には開花時が発見しやすく結実前の除去が効果的である.
藤原道郎 (2020) 特定外来生物ナルトサワギク(Senecio madagascariensis Pioret)の生態的特性と兵庫県淡路島における分布状況,景観園芸研究21,23-38
他の植物に覆われた光環境での本葉展葉抑制(上原ほか2006) ,シロツメクサおよびムラサキツメクサの繁茂による分布抑制 (斎木・安房生物愛好会(2012), 酸性・低栄養塩類型植生基材での成長抑制 (杉浦ほか 2010),酸性溶液での発芽抑制 (田中ほか, 2011)なども報告されており,光環境や土壌化学性による生育抑制効果が期待される.
淡路島内ではモウソウチクの分布拡大も課題となっているため,竹チップ被覆での発芽抑制試験も行い,一定の効果を確認している(Fujihara, 2017).外来種による外来種防除も進めていくことで,現地での課題解決に向けた取り組みとしたい.
図1.ダムおよびナルトサワギクの分布状況
(✖:2007年と2019年に分布.△:2019年のみ分布.〇:2007年,2019年共に分布無し).アルファベットに下線があるものは1997年以降竣工を示す.背景はGoogle earthを使用.
図2.抜取り前のナルトサワギク(2021年5月淡路市).土地所有者に説明し抜取り.2重のビニル袋に入れ逸出を防ぐ.
図3.結実前の抜取りが効果的(2021年5月淡路市).