中国の深セン市に大学時代の恩師が手掛けた「仙湖植物園」がある。植物園は風景がよく、市民から専門家まで幅広く好評を得ている。その植物園の中に、何か自分が設計したものもあったらいいなあと、ずっと思っていた。そして2019年にそのチャンスが訪れた。
植物園には収集した425種のイワタバコ科植物があり、その展示園をつくることが決まった。展示園の設計はボランティアでやってくれないかと植物園長を務める大学時代の後輩が声をかけてくれて、喜んでやると返事した。しかし数日後に状況は一変、「仙湖植物園」に新たな展示園をつくる情報が広がった後に、ボランティアで設計を提供するという会社が数多く現れた。この状況下、事業側は複数の案から良いアイディアを採用するという考えに方向変換し、ボランティアの設計コンペを行う体制に変わった。
コンペで勝ちたいと思った私はまずイワタバコ科に詳しい植物の専門家から謙虚に学び、その後あらゆる課題解決法を考えた。敷地は植物園の谷部に位置した細長いエリアだった。大きな課題は、①湿気を好むイワタバコ植物に必要な湿度環境の形成、②法令で規定された建築物が設置できない条件のなか、必要な建築的空間の機能を有する研修スペースの確保、の二つであった。
イワタバコ科の植物は岩場に生息する湿性植物で、直射日光の少ない渓谷で見られる場合が多く、花も美しい。展示園の設計は,イワタバコ植物の生態系をモチーフに,カルスト地形、岩場、岩洞、滝、池などを縮景的に再現し、景観上の明と暗、展示素材上の大と小、空間上の「囲まれ」と「広がり」など、動線に沿って光、色、空間などの変化を豊かにつくり、全園にわたって展示植物の生態系が感じられる景観の演出を実現した。課題解決法として、まず既存樹の活用を基本とし,多くの高木植栽を加えることで直射日光を防ぐ環境の形成を促し,吸水性の高い景石を用いた湿性植物の基盤を形成すること、さらに霧発生装置の設置などにより、湿気のある環境と景観を強化することを図った。また、研修エリアでは空間を自由に分ける日本の簾をヒントに、研修施設を柱+梁+簾の形で壁のない構造として、事業者が欲しかった建築的空間の機能を満たす建築認定基準外の空間づくりを実現し、研修や貴重種の定期巡回展示など、多機能に対応できる屋根付き空間を形成した。
展示園は私の提案の通りに整備された。ここには植物観察から様々な知識普及イベントまで多様な利用が見られ、植物関係学会の見学場所の一つにもなっていた。植物専門家から評価のメールもたくさんいただいて、私はこのコンペをやってよかったと思うと同時に、正直にうれしい気持ちでいっぱいになった。





