桜の話

春の花、といえばまず桜(サクラ)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

日本人は桜の花が大好きです。

寒い冬が終わり春の到来を象徴する花、田植えの季節を知らせてくれる神様の依り代、入学式や卒業式など人生の節目を象徴する花など、生活との関わりも多い花ですが、何故日本人は桜の花が好きなのか?の問いに、第16代佐野藤右衛門は「桜は全部下を向いて咲く」と答えました。

枝にほぼくっついて咲く梅や桃に比べると桜は花柄や小花柄が長いため、花が垂れ下がります。

だから桜の下に人が立って見上げると花がとてもキレイに見えて、花に包まれているように感じることができます。だからこそ、桜の木の下で食事するお花見の文化が育ったのでしょう。

桜と言えばソメイヨシノ!ソメイヨシノ以外の桜なんて知らない!という方もおられますが、サクラは9種の原種と200種以上の園芸品種があるとても魅力的な植物です。

そのなかで私の推しは「ササベザクラ」と「ヤマザクラ」そして日本各地にある大樹の一本桜です。

「ササベザクラ」は、笹部新太郎(ささべしんたろう)という桜博士の旧居で芽生えた実生のサクラが品種として登録されたものです。カスミザクラにオオシマザクラ系のサトザクラが交雑したものと言われていて、ソメイヨシノとほぼ同時期に咲く半八重咲きで繊細な美しいサクラです。


画像1:ササベザクラ(日本花の会桜図鑑より引用)


笹部新太郎氏は、サクラの品種保存や栽培方法の研究に尽力し、大阪造幣局の桜の通り抜けの指導や、京都及び宝塚市での桜の演習林での研究、岐阜県の御母衣ダムで水没する運命にあった樹齢450年のエドヒガン桜「荘川桜」の移植に成功するなど、数々の業績が挙げられる方です。その笹部翁の旧居宅は現在「岡本南公園(桜守公園)」(神戸市東灘区)として親しまれています。

笹部翁が居住していた頃に芽生えた「ササベザクラ」の原木は残念ながら現在は枯死してしまいましたが、挿し木や実生で殖やしたササベザクラ等が植えられていて、小さな公園ですが春にはサクラでいっぱいになる公園です。

私は、前職で都市公園の管理を担当していたときに岡本南公園を担当しました。それまではサクラの品種には詳しくなかったのですが、ササベザクラとの出会いをきっかけに、サクラについて、笹部翁について、仕事の合間に資料を調べたり観察をしたりして、すっかりサクラ好きになってしまいました。笹部翁については、水上勉の小説「櫻守」でも知ることができます。機会があれば是非読んでみてください。

ササベザクラをきっかけにサクラ好きになってみると、今度は一気にヤマザクラが魅力的に見えてきます。

ソメイヨシノやササベザクラなどの「品種」ものの桜はいずれも挿し木や接ぎ木で殖やしたもので全く同じ遺伝子を持ちますので、咲く時期も花の大きさも色も形もすべてが同じです。そうやって美しさや優れた性質をそのままに保つことで、例えば枯死してしまったササベザクラの原木の美しさに今も出会うことができますし、はじめてソメイヨシノを見て感動した江戸の人々の気持ちを推し量ることもできます。

一方、自然界で種を結び実生で繁殖しているヤマザクラは、母樹と父樹それぞれから形質を受け継ぎますので、全く同じ遺伝子を持つ樹木は存在しません。咲く時期も花の大きさも色も形も違うものばかりで、その多様性にワクワクします。

サクラは、ソメイヨシノより早く咲くものを早咲き、ソメイヨシノより遅く咲くものを遅咲きと呼びますが、早咲きのものから遅咲きのものまであわせると約1ヶ月程度楽しむことができます。また、遠目でも花の色や新芽の色の違いを楽しめ、花の咲き具合や新芽の展開具合で日々様子が変わっていく様子を楽しむのも魅力です。

ソメイヨシノは美しい花吹雪を見せた後、葉が展開するまでのしばらくの間、残っている赤いガクが目立つ期間があります。その期間は 「ああ、今年の桜も終わったな」という少しさみしい気持ちになるものですが、ヤマザクラの場合は花が散り終わる前に葉が展開するので、咲き終わりの花のガクが目立たず、すこしづつ花と葉の割合が変化していく形で自然に季節が移り変わります。また新芽の色は明るい褐色や落ち着いたえび茶色など素敵な色合いのものが多く、夏には緑色に変わってしまうのですが、花の色とガクの色と新芽の色の色合わせのすばらしさは毎日心躍るときめき要素です。

吉野山のヤマザクラ


そして推しの最後の「一本桜」。これは、特定の品種を指すわけではなく、1本の古樹のサクラのことです。日本の最高齢のサクラでもある山梨県の樹齢2000年の「山高神代桜」、岐阜県の樹齢1500年超の「根尾谷の淡墨サクラ」、山形県の樹齢1200年の「伊佐沢の久保桜」などなど、悠久の昔から存在し続けてきた古樹が一年に一度咲き誇る姿を見に旅に出ることは、とても心に残る体験になります。自分が見に行けるタイミングと古樹が咲くタイミングがうまく合うことはなかなか少なく、せっかく休みを取って見に行ってもまだ蕾だったり、咲き終わってしまっていたりするのですが・・・。その中でも特に私の推しは、岡山県の樹齢1000年の醍醐桜です。山の上の高台から下界を見下ろす雄大な姿は本当にかっこよくて、小さなことでくよくよなんてしていられないな、と大きな視野を意識したい時にもおすすめです。

花見をするといえばイコール飲み会、という方も多いかも知れませんが、私にとって花見は、サクラに会いに行くこと、です。学校のフィールドを散歩しながら桜を見上げるだけでも立派な花見。ですが、できれば桜咲く季節には、日本各地の桜に会いに行きたいと願っています。皆さんも是非、自分の推しの桜に出会って、会いに行って、桜を見上げてみてください。


醍醐桜(真庭観光公式サイトより)



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