今年の3月に編著を担当した書籍を出版しましたので、今回はその本についてお話ししたいと思います。

遡ること3年、園芸療法分野で活動する仲間たちと話をしていた際に、コロナ禍を経て、植物のある場所や植物を育てることの快さに気づいた人が増えてきたこと、農福連携に対する注目が全国的に高まっていること、しかしながら、園芸療法の認知度はあまり高まっていないことが話題に上りました。ひとえに自分たちの力不足もあるのでしょうが、兵庫県内で講演をした際においても園芸療法や本校園芸療法課程をご存知ない方が多数を占めることもあり、園芸療法を一般の方により広く知ってもらうにはどうしたら良いものかと考えていました。話し合いの中では、園芸療法に関する書籍がここしばらく出版されていないこと、これまで出版されていなかったような、もっと園芸療法を身近なものとして感じてもらえる親しみやすい本を出せると良いのではないかと話が盛り上がりました。ちょうど、仲間のひとりが勤務する大学で出版助成をしているとのことで、企画書を作成して応募することとしました。初年度の申請には通りませんでしたが、その次の年に採択され、2025年度内の出版を目指し、準備を本格化させました。

書籍のタイトルはこのコラムのタイトルにも記した「Bright with Green みどりがくれる、やさしい時間」です。
植物との触れ合いや植物を育てること、植物がある場所で過ごすことなどによる人の健康への効果に関心を持っておられる広い層に本を手に取ってもらいたかったので、タイトルにはあえて園芸療法という言葉を用いないこととしました。また、園芸療法をより身近なものと感じてもらうための工夫として、カラー写真を多く掲載すること、園芸療法実践者や園芸療法研究者、教育者それぞれの実践の様子だけでなく、どのような思いで取り組みを進めているかを言語化して伝えることとしました。
園芸療法の魅力は実践現場での対象者の方々の反応を見ていただくとよくわかるのですが、そうした現場に入っていただくのはそう簡単ではありません。そのため、本書では、デイサービスや緩和ケア病棟などでの園芸療法場面をあたかも体験するかのような筆致でその様子が描かれています。そして、すぐにでも自分の活動に取り入れたいと考える人のために、季節に応じたプログラムの紹介やワークショップのページを設けるとともに、この分野への理解を深められるような短いコラムを随所に掲載することにしました。読者を想定しながら本を設計していくことは興味深く、様々な苦労があったにせよ、無事に今年3月に発刊することができました


表紙カバー


本の中ほどには、アメリカで園芸療法を学び、1990年代初頭に日本国内に紹介したひとりでもある日本園芸療法研修会代表の澤田みどりさんのインタビューも収めています。私はインタビュアーとして実際にお話をうかがってもいるのですが、澤田さんの40年に及ぶ活動の中で、何を大事にされてきたかということをお聞きすることができ、植物を介して人が人と関わることの素晴らしさを再認識させていただく機会となりました。紙面の都合で、インタビュー内容の全てを掲載できなかったのが残念です。

この本を通じ、植物を介して人と人が関わることの魅力を肌感覚で共感することで、園芸療法や、園芸や植物との関わりを介した人の健康への効果について関心を持っていただきたい、理解を深めていただきたいというのが、私たちの願いであり、この本がこの分野への入り口となればと思い、カバーには緑が溢れる美しい季節の写真を(実は認知症カフェの一場面でもあります)、カバーをめくった表紙には園芸療法のために計画された庭の図面、図面の右下に庭への入り口となるゲートのイラストを載せています。

カバーをめくると表紙には執筆者の一人でもある奥田由味子さんによる図面が印刷されている



先に述べたような本書のコンセプトから、これまで園芸療法についてあまり知る機会のなかった方々にもこの本を届けるべく、本書に掲載した写真を中心とした写真展をいくつかの書店で行ったり、本書について話をしたりする機会を設けました。その際、本書のタイトルについてもお話ししましたので、ここでもその話をしたいと思います。
今回、「Bright with Green みどりがくれる、やさしい時間」というタイトルにしたのは、この本の文中に、「命を輝かせることができる」、「その人を輝かせる素材がたくさんある」、というような表現が出てくる、ということもありますが、園芸療法場面での「みどりとの関わりで人は照らされ、輝く」という私自身の実感からです。人は慢性的な病や障がい、あるいは深い悩みなどを抱えている時、植物のある場所で過ごすこと、植物を身近に置くこと、育てることを通じて、気持ちを持ち上げらえる、沈んだところからやさしく引き上げられるような体験をすることがあります。また、栽培や収穫した植物を用いた創作や料理などの場面や、植物を介しリラックスして人と関わる場面では、その人が自身の能力を発揮することができる、無理をすることなく自分らしく過ごせる、というようなことがしばしば見られます。これらはあたかも、暗闇の中で穏やかな光に照らされるようであり、自らの輝きに気づくようでもあるように思われ、本書にはそれを表すようなタイトルを、ということで上記のものに決まりました。


書店での写真展示の様子


園芸療法を実践する私たちは植物との関わりを通じて、生活が明るくなった方を数多く目にしています。そうした植物を介した関わりによる人の健康への効果をより多くの方に提供すべく、園芸療法課程では、今年度から「みどりと健康活動指導士」の養成をスタートし、医療・福祉の現場のみならず、公園や緑地、会社や学校などより身近な場面で、みどりとの関わりを通じた健康維持、増進やウェルビーイングの向上に関わることのできる人材を輩出していく予定です。

本書が、この分野に関心を持つ人たちの入り口となり、この分野を理解し、一緒に活動してくださる方や、応援してくださる方が少しでも増えることを願っています。

 

書籍情報

「Bright with Green みどりがくれる、やさしい時間」菊川裕幸・剱持卓也編著 神戸学院大学出版会発行 晃洋書房発売 2026年3月30日発行

https://www.koyoshobo.co.jp/book/b673631.html



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