樹木医が、樹木の状態を診断する際によく活用している「地上部の衰退度判定票」というものがあります。

それは(財)日本緑化センターのwebページ(リンク) や同センターの各種刊行物などで公開されていて、日本樹木医会の「樹木医必携」などにも掲載されています。この表の中に、「樹勢」という項目があって、樹木の最初の診断には、これが一番使いやすい項目の一つだろうと思います。そこには5段階の評価指標が書かれていて、0.旺盛な生育状況を示し被害が全くみられない、1.いくぶん影響を受けているが、あまり目立たない、2.異常が明らかに認められる、3.生育状態が劣悪で回復の見込みが少ない、4.ほとんど枯死と分けられています。私も、社会で仕事をしていたころは、この表を使って全国各地で千本以上の樹木を調査してきました。この表の意図するところは、樹木の健康度を人間が主観的に、でもできるだけ客観性をもって数値化しようという日本的なもので、こうして健康度を数字で示そうという考え方は、この地上部の衰退度判定票より古くから、林業系や環境系などを含めると4段階や5段階などいくつもの指標が国内に存在していました。それが近年、樹木医の活躍とともに、この0.~4.の5段階指標が広く使われるようになってきたと思います。さて、私自身、樹木を専門に扱う中で、この評価指標を何も気にせずに使ってきましたが、これは、人間側から樹木を見た場合の指標で、0.がもっとも「良い」、4.がもっとも「悪い」という好ましいかどうかといった状態の評価をするものですね。つまり、人間だけの欲望と価値観を反映したものです。

しかし、生き物から見た場合は、その好みとして、菌類や餌となる昆虫類などの食べ物がたくさんあったり、穴やデコボコがあって隠れたり安心できたり、といったことが好みになるのではないでしょうか。すなわち、この表の5段階の指標は人間と逆になるか、あるいはその途中がもっとも好まれたり、人間たちとは好ましいと思うところが違ってくると思われます。


表 樹木の樹勢と生き物の多様性の例

指標段階 地上部の衰退度判定票における樹勢 生き物の多様性の例
0 旺盛な生育状況を示し被害が全くみられない チョウ類などの産卵やハエ類などの寄生対象の増加、鳥類の餌としての花や果実や昆虫等、鳥類などの営巣や休息
1 いくぶん影響を受けているが、あまり目立たない 上記内容および、枯損枝への菌類着生、菌食のテントウムシ類やカイガラムシなどの誘致など
2 異常が明らかに認められる 上記内容および、枯損枝への菌類着生、菌食の甲虫類や心材食のカミキリムシ類やタマムシ類など、樹液食のコガネムシ類や大型ハチ類アブ類など
3 生育状態が劣悪で回復の見込みが少ない 新葉展開、開花・結実、大枝や幹の進行腐朽や空洞、大枝の枯死、癌腫からの折損、枯死部での膏薬病・キノコ類などの上記内容および、洞を利用する鳥類や哺乳類、菌類子実体食のキノコムシ類などの甲虫類、キツツキ類などの鳥類、昆虫食の爬虫類や哺乳類など
4 ほとんど枯死 上記に準ずる、さらに一部倒伏部や落下部位などへのシロアリ目やゴキブリ目、埋土部分の希少クワガタ類、多孔質空間創出による昆虫類や爬虫類、哺乳類など

         日本樹木医会(2010)『樹木医必携・応用編』、p300の樹勢に、生き物の多様性の例を加筆


樹勢3:生育状態が劣悪で回復の見込みが少ない例(ソメイヨシノ)撮影2026.10.9


 


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